- 建設資材調達をDXするソフトウェア市場は2023年の8億5130万ドルから2032年の18億ドルへと年平均8.5%で成長見込み
- アメリカのParspecは600万件の建材データベースから設計仕様に最適な建材の検索、調達管理を行うプラットフォームを展開
- Parspecは建材サプライヤーなどに導入され、月70時間以上の工数削減に役立てられた事例もある
はじめに
画像引用元:builtinsf.com
建設資材(以下、建材)調達におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいます。具体的には、必要な建材の在庫管理や、調達先管理、予算管理などをデジタル化し、効率化が図られています。建材調達ソフトウェア市場は2023年時点で8億5,130万ドル(約1,280億円)であったところ、2032年までに18億ドル(約2,708億円)へと、年平均8.5%で成長していくことが予想されています(Global Market Insight 2024)。
そこで今回ご紹介するのは、600万件の建材データベースの中から最適な建材を選び出し、発注、納品までをワンストップで支援するアメリカのスタートアップParspec(パースペック)をご紹介します。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
Parspecとは?
Parspecは、建設資材調達のプロセスをAIによって統合・自動化するプラットフォームを提供するスタートアップです。設計図書や仕様書を解析し、仕様に適合する資材をAIが特定する製品検索(Product Finder)機能を核として、見積作成(Quoting)、提出書類作成・調達管理(Submittals + O&M)への拡張を目指しています。創業は2021年で、設立者(共同創業者)はForest Flager(フォレスト・フラジャー)氏とPratyush Havelia(プラトゥシュ・ハヴェリア)氏です。拠点はカリフォルニア州サンマテオで、当初は照明・電気製品分野を主な対象としてスタートし、現在は機械・電気・配管製品へ展開を拡張しています。
Parspecは2025年7月、2,000万ドル(約30億円)のシリーズA資金調達を実施しました。リード投資家はThreshold Ventures(旧 DFJ)で、既存投資家としてInnovation Endeavors、Building Ventures、Heartland Ventures、Hometeam Venturesなどが参加しています。調達資金は、プラットフォームの機能拡張(特に発注・流通管理機能、コントラクターポータル)に充てられる予定です。具体的には、流通業者向けの注文管理機能(Distributor Order Management)、建設業者・発注者向けのポータル(Contractor Portal:プロジェクト書類、注文ステータス、納品追跡、双方向コミュニケーション機能など)を2025年末までにリリースする計画です。
導入者例として、Graybar、SESCO、U.S. Electrical Services など複数の卸売業者・代理店が名を連ねており、これら導入社から「見積・サブミット処理時間が 50〜100%改善された」などの効率改善報告が出ています。
Parspecのソリューション
画像引用元:Parspec公式ホームページ
Parspecは、建設プロジェクトにおける資材調達プロセス全体をAIで再構築するスタートアップであり、その仕組みは三つの機能レイヤーで構成されています。それが製品検索(Product Finder)、見積管理機能(Quoting)、提出書類生成と調達ライフサイクル管理(Submittal & Procurement Lifecycle Management)です。従来、資材調達は設計図を読み取り、カタログを照合し、メールでサプライヤーとやり取りしながら書類を整えていくという断片的な作業に分かれていました。Parspecはこの分断を統合し、調達業務を一本のデジタルワークフローに変えようとしています。
最初のレイヤーである製品検索(Product Finder)では、設計図や仕様書をアップロードすると、AIが内容を自動解析し、必要な性能要件や寸法、規格情報を抽出します。そのうえで、登録された数百万点規模の製品データベースから仕様に適合する資材候補が提示されます。従来であれば担当者がPDFの設計図を見ながらカタログを手作業で参照し、「この仕様に当てはまる資材はどれか」を判断していましたが、Parspecではこの初動選定作業がAIによって高速化されます。ここで誤った資材が選ばれてしまうリスクを早期に排除できる点も特徴です。
次のレイヤーである見積管理機能(Quoting)では、抽出された資材候補がそのまま見積依頼リストとして整形され、サプライヤーに統一フォーマットで送信されます。従来のように、サプライヤーごとにExcelを分けたりメール文を作り直したりする必要はありません。返ってきた見積情報は自動的に集約され、価格、納期、在庫状況などの比較が一画面で行えるようになります。これにより、「依頼と集約」という事務作業の比重が減り、「比較と判断」に集中できる環境が整います。
最後のレイヤーである提出書類生成と調達ライフサイクル管理(Submittal & Procurement Lifecycle Management)では、承認用の提出書類(Submittal)をAIが自動生成します。これまで、監理者や発注者に資材が仕様に準拠していることを示す提出書類は、人がメーカーのカタログPDFから必要部分を抜き出して再構成していました。Parspecは選定された資材データをもとに、提出用文書を自動的に生成し、そのまま承認ワークフローに乗せることができます。また、この提出情報は調達フェーズにそのまま引き継がれ、納品状況の追跡、代替提案の記録、請求プロセス管理など、資材が現場に届くまでの工程を一元的に管理することができます。
この三つの機能が連動することで、Parspecは「資材を探す」「見積を集める」「書類を整える」という個別作業を「調達判断を支援する一つのプロセス」に変換しています。PDF、メール、スプレッドシートに分散していた情報フローが一か所に集約されることで、担当者は手を動かす時間を減らし、より上流の判断業務に集中することができるようになります。
Parspecの活用事例
画像引用元:Parspec公式ホームページ
Parspecは電気製品卸売業のGraybarや電気・設備工事業のSESCOなどの建材サプライヤーに導入され、特に提出書類作成業務における効率化で成果を上げています。Graybarは長年、Submittalと呼ばれる承認用書類を各プロジェクトごとに手作業で生成しており、メーカーのPDFカタログから必要な情報だけを抜き出して再構成するという作業に時間と人員を割いていました。提出フォーマットが案件ごとに異なるため、一度作った資料を流用しづらいという非効率も存在していました。Parspecを導入した後、GraybarはAIによって自動的にカタログ情報が解析され、必要な箇所だけを抽出した書類が数分で生成できるようになり、月あたり70時間以上の工数削減につながったと報告しています。
SESCOも同様の課題を抱えており、提出書類を短時間で整えることが営業機会の獲得に直結する状況にありました。従来は営業担当者がメールやExcelで書類のやり取りを管理していたため、情報の更新や差し替えが発生するたびに履歴が錯綜し、顧客ごとの要件に応じた細かな調整に時間がかかっていました。Parspecの導入後、SESCOは見積段階で選定された資材情報がそのままSubmittalのテンプレートに反映され、承認プロセスに直結するため、提出までのターンアラウンドタイムが半分に短縮されたといいます。
これらの事例から見えてくるのは、Parspecが単に書類作成を効率化するツールではなく、資材調達の初期判断と承認プロセスを一体化させるデータ基盤として機能しているという点です。従来分断されていた「仕様の読み取り」「資材候補の選定」「提出書類の準備」という工程が、Parspecの導入によって連続的なプロセスに変わり、調達担当者の役割は作業から意思決定に重点が移っています。こうした構造転換こそが、Parspecが資材調達市場で注目されている理由だといえます。
まとめ
画像引用元:Parspec公式ホームページ
いかがでしたか?今回は建材の検索、調達、在庫管理をAIがワンストップでサポートする、アメリカのParspecをご紹介しました。Parspecは、資材調達を単なる「購買行為」ではなく、「設計意図と施工現実をつなぐ情報設計の一部」として位置づけ直しています。
この構造の変化は、今後の建設プロジェクトのマネジメント手法に長期的な影響を与える可能性があります。調達をデータ化する企業が増えれば、資材選定や提出書類の生成は標準化され、調達の経験知は人ではなくプラットフォーム側に蓄積されていくことになるからです。Parspecはその転換の起点として、現場実務とデータ基盤を接続する役割を担い始めています。Parspecの今後の動向が注目されます。





