- Advanced Construction Robotics社はアメリカ合衆国に拠点を置くスタートアップで、自動運転建設機械の研究開発を行なっている。
- 同社は基礎工事の鉄筋工の効率化に注目し、鉄筋の結束を行う自動運転建機を商用化した。
- 2021年までに鉄筋の配筋を行う自動運転建機を商用化し、将来的には建設業界のあらゆる工程を自動化するビジョンを掲げている。
はじめに
近年では、高速道路、橋梁、ダムや空港といった暮らしを支える社会インフラの維持・管理を巡って、効率向上のためのロボット技術や、IT(情報通信技術)化、自動化などの促進求められています。これらの動きは、建設物の老朽化の進行や、気候変動による災害リスクの高まり、そして作業者の高齢化と人口の減少による人材不足からより一層加速しています。
これまでContech Magでは、社会インフラ整備に関する技術革新の例として、ドローンを用いた測量や点検作業の効率化、建設重機の自動運転技術などについて取り上げてきました。
今回ご紹介するACRは、基礎工事の中でも鉄筋の配筋・結束作業に注目し、工程を効率化する製品を提供しています。どのような技術が活用されているのか、早速見ていきましょう。
Advanced Construction Roboticsとは?
Advanced Construction Robotics(アドバンスド コンストラクション ロボティクス, 以下ACR)は、2016年アメリカ合衆国ペンシルベニア州ピッツバーグに創業されたスタートアップです。ACRは人工知能とロボット技術を組み合わせ、完全な自動運転が可能な鉄筋結束機を開発しており、主に研究開発費として2019年1月に400万ドル(約4億4千万円)の資金調達を達成しています。
同社の製品は2015年アメリカ合衆国のカーネギーメロン大学における人工知能応用の基礎研究に始まり、2017年に商用化されました。2018年にはAUTODESK(オートデスク)社主催のイノベーションアワードで優秀賞を得るなど、これまでに同製品は様々な賞を受賞し、その注目度の高さが伺えます。
(製品の動作場面は動画の45秒付近以降より確認できます。)
ACRの2つの製品
ACRは鉄筋結束を効率化する2つの製品、TyBot®(タイボット)とIronBot(アイアンボット)の研究開発を進めています。それぞれどのような機能を持った製品なのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
自動鉄筋結束機TyBot®とは?
TyBotは完全自動の鉄筋結束機です。同製品は工事現場を横切るように設置された支柱と、支柱を移動させるレール、そして作業を行うアームからなります。アームの先端には自動結束機とセンサーが設置されており、人工知能が自律的に鉄筋結束が必要な箇所を特定して結束します。
建設現場の配筋状況をその場でセンサーが読み取り必要な作業を行うため、事前の測量や図面の読み込みの必要がありません。これまで鉄筋の設置工程などの細々とした作業工程は自動化が難しいとされてきましたが、人工知能が高精度な自動運転を可能にしたのです。
職人が手持ちで利用できる鉄筋結束機はすでに存在しますが、橋梁や高速道路、航空機の滑走路など、舗装に鉄筋コンクリートを使用するような大規模工事では何万もの結束作業が発生し、手持ちの鉄筋結束機では電池容量が不足したり、人件費の高騰、工期の延引が発生します。
同製品は1時間に1000箇所の結束が可能で、夜間や風雨の中でも稼働可能、かつ作業時間を正確に予測することができるため、作業効率を50%以上向上させることができるだけでなく、遅延の防止を図ることもできるのです。
同製品を設置する際は、40ftトレーラーか同程度の牽引が可能なトラックで運搬し、リフトまたはクレーンを用いて建設現場に導入します。最低2人の作業者が必要で、約4時間で設置が完了します。
TyBot®を補助するIronBot
IronBotは基礎工事の中でも配筋の自動化を目的として開発されている製品です。現在はまだ実証試験の段階ですが、2021年の商用化を目指し現在技術開発が進められています。
ACRが見据える建設業界の未来
ACRの共同創業者Stephen Muck(ステフェン ムック)氏は、将来的にIronBotによる配筋、TyBot®による鉄筋結束を組み合わせ、基礎工事の重要な工程である鉄筋工程を全自動化していくことを目指すとし、また長期的には建設業界のあらゆる工程で自律的に動作する製品を投入していくことで、生産性、安全性の向上、スケジュールリスクの削減を行い、業界全体の変革をリードしていくと述べています。
日本でも、大成建設株が千葉工業大学と研究開発する「T-iROBO Rebar」、建ロボテック社が開発する「トモロボ」など小型の自動鉄筋結束ロボットについては開発や導入が進んでおります。日本における方向性は完全自動化というよりも複数の職人が必要だった工程を省人化により職人不足を埋めるという方向性で開発が進んでいます。
まとめ
ACRの自動鉄筋結束機は人工知能を搭載することによって、これまで自動化が難しいとされてきた工程も効率化することに成功しました。しかし、ACR創業者のStephen Muck氏はこれらの自動運転技術の存在が作業者の仕事を奪うとは考えていません。むしろ、煩雑な作業工程を減らし、作業者が他の作業に集中することを可能にするため、作業全体の効率をあげながらより生産的な活動ができるようになると述べています。
今後ACRが鉄筋結束だけでなく、どこまで建設工程を自動化ていくのでしょうか。今後の展望に注目です。