自動運転芝刈機ロボットのElectric Sheep Robotics、屋外メンテナンス業界の人手不足解決へ

画像引用元:Elecric Sheep Robotics公式ホームページ
海外事例
  • 屋外メンテナンス業界(Landscaping)において深刻な労働力不足が発生している
  • 米国で115億ドル(約1兆6400億円)の市場規模を持つ屋外メンテナンス市場は、自動化ソリューションによる効率化が期待される
  • アメリカのElectric Sheep Robotics(エレクトリック シープ ロボティクス)は、既製品の芝刈機に後付けすることで自動運転を可能にする製品Dexter(デクスター)を展開している

はじめに

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現在、屋外メンテナンス業界(Landscaping)は深刻な人手不足を経験しています。アメリカにおけるこの業界の市場規模は115億ドル(約1兆6400億円)で、60万4163社、100万人以上の雇用があります。この業界の仕事は、病院、政府施設、住宅地、公園、学校などの公共景観を維持することで、地域の経済成長を生み出す雇用を創出するというものです。

しかし、求人数は労働者数を上回り続けており、全米造園専門家協会(National Association of Landscape Professionals)は、何万ものフルタイムの職が埋まっておらず、2021年の労働供給は史上最悪だったと述べています(注)。そうした中、屋外メンテナンス業界では自動化ソリューションによる効率化が求められています。

今回ご紹介するElectric Sheep Robotics(エレクトリック シープ ロボティクス)は、業界の深刻な労働力不足に対応し、人の代わりに作業を行うロボティクス製品を展開している企業です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

(注)businesswire.com “Electric Sheep Robotics Brings Automation to America’s Biggest Crop”

自動運転芝刈機を展開するElectric Sheep Roboticsとは?

Electric Sheep Roboticsは、インド出身の技術者兼起業家のNag Murty(ナグ ムルティ)氏をCEOとして、COOのJarrett Herold(ジャレット ヘロルド)氏、CPOのGunjit Singh(グンジット シン)氏によって2019年に設立されました。2020年3月に主力製品Dexter(デクスター)の有償試験運用を開始し、それ以来、展開と顧客ベースを着実に増やしています。現在はアメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ及びペンシルベニア州グレーターフィラデルフィアに拠点を置いています。

同社は最新の資金調達として2022年1月にシリーズAで2150万ドル(約30億7000万円)を調達し、累計調達額を2570万ドル(約36億7000万円)としました。最新の調達はニューヨークの投資会社Tiger Global Managementが主導しています。その他に、400万ドル(約5億7100万円)のシードラウンドを主導した、シリコンバレーのベンチャーキャピタルFoundation Capital、ロボティクス関連投資の実績があるGrep VC、広く社会問題解決のための投資を行うSignia Venture Partnersのほか、シード期以前からの個人投資家であるAriel Cohen (TripActions)、Travis Deyle (Cobalt Robotics)、Sahil Lavingia (Gumroad)、Reinforced Venturesが参画しています。

Dexter(デクスター)は、既存の芝刈機製品に取り付けることで自動運転することを可能にするという製品です。芝刈機がガス式、電動式にかかわらず、ほぼすべての業務用動力車輪式芝刈機に取り付けることができ、同社は現在、業界最大の顧客数を展開する自動運転芝刈機企業にまで成長しています。

気づいた方も多いかもしれません。Electric Sheep(電気羊)という会社名は、フィリップ K.ディックの1968年のSF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」に由来しています。

自動運転芝刈機Dexter(デクスター)

画像引用元:Elecric Sheep Robotics公式ホームページ

すでに述べたようにDexter(デクスター)は、既存の芝刈機製品に後付けするタイプのロボット製品で、最小限のトレーニングによって芝刈機の自動走行を可能にします。現在の機能は芝刈機に限られていますが、今後は、除雪、清掃、歩道の修理、害虫駆除など、芝刈り以外の用途にも応用される予定です。Dexterのデモ動画から、自動運転時の業務効率は、有人の時と同じ程度ということがわかります。既存の労働力を完全に自動運転に置き換えることができるのです。

このロボットには光検出と測距(LiDAR)、カメラ、GPS、超音波センサーが搭載されており、多様な地形を認識して走行します。Dexterの特徴は、一度走行したルートを記憶し、同じルートを完全に自動運転することができるというものです。これにより屋外メンテナンスの管理者は、トレーニングとしてDexterに覚えさせたいルートを一度走行するだけでよく、その後はDexterが自動運転により芝刈を行ってくれるという仕組みです。また周囲の侵入を検知して動作をストップする安全装置も組み込まれています。

DexterはRaaS(Robotics as a Service)と呼ばれるサブスクリプションのサービスとして展開されています。つまりメーカーが機械の所有権を保持したまま製品を月額契約で貸し出すというもので、メーカーはメンテナンスやアップデートも提供します。使用者はロボティクス製品を購入する必要はなく、運営費のみで使用することができるので、経済的で人気のあるモデルとなっています。月額の使用料金等に関するデータやカタログ等は公開されていません。

アウトドア・サービスにおけるロボティクス製品の垂直統合を目指す

画像引用元:Electric Sheep Robotics 公式ホームページ

Electric Sheep Roboticsは、現在自動運転芝刈機のDexterを市場に投入していますが、今後はアウトドア・サービス業界全般にロボティクス製品を展開していく予定です。

アウトドア・サービスとは、オフィス、大学、住宅、駐車場、公園などの公共・民間のインフラの維持管理を行っている業界のことで、市場規模は1兆ドル(約142兆円)を超えるとされています。現在この業界は非常に細分化されており、何十万もの中小企業がサービスを提供していますが、Electrics Sheep RoboticsはAIを活用したロボティクス製品の垂直統合、すなわちロボット製品の開発から管理、サービシングまでのバリューチェーン全体の統合を目指しています。

まとめ

画像引用元:Electric Sheep Robotics 公式ホームページ

いかがでしたか?今回はElectric Sheep Roboticsと、同社が展開する自動運転芝刈機Dexterwをご紹介しました。Dexterの特徴は測距(LiDAR)、カメラ、GPS、超音波センサーにより、一度走行したルートを完全に自動で再現する機能にあります。これにより、屋外メンテナンスの管理者はDexterに覚えさせたいルートを一度走行するだけで、ほとんどメンテナンスフリーで屋外管理をDexterに任せることができるのです。

Electric Sheep Roboticsは最近の資金調達を市場拡大のために活用していくと述べています。また今後は、AIを活用したロボティクス製品の垂直統合を目指す考えを示しています。同社の取り組みは労働力不足の屋外メンテナンス業界を救うことにつながるのでしょうか。今後の動向が注目されます。