よりリアルな技能訓練を。VRで建機操縦シミュレーターを提供するSerious Labs!

画像引用元:Serious Labs 公式ホームページ
海外事例
  • Serious Labs(シリアス ラブス)は、VRを用いた建機の訓練用シミュレーターを提供している。
  • 日本やアメリカでは建設作業従事者が慢性的に不足しており、技能訓練にかかる時間やコストの抑制が課題となっていた。
  • 日本においてもVR技術の職業訓練への活用が始まっている。

はじめに

VR(バーチャル リアリティ)とは、ヘッドセット型端末とコントローラーを通じて視覚的かつ感覚的に情報を伝えるメディア技術の一つで、操作や身体の動きにあわせてインタラクティブに変化する情報を伝えられることが大きな特徴となっています。静止画や動画といった既存メディアと比較して、実際にその場にいるかのような体験ができることがVR技術の強みです。近年では、このようなVR技術を建設市場で活用する企業が増加しています。

画像引用元:Serious Labs 公式ホームページ

ゲームなどに使用されているイメージが強いVRですが、その応用範囲は教育や技能訓練にまで広がりつつあります。今回ご紹介するSerious Labsは、VR技術を応用した建機の訓練用シミュレーターを提供しています。そのサービス内容や、VRが必要とされる理由を深く掘り下げてみましょう。

Serious Labs とは

画像引用元:Serious Labs 公式ホームページ

カナダに本社を置くスタートアップ企業のSerious Labsは、VRシミュレーターを用いて建機の技能訓練を実施することができるサービスを提供しています。2017年には建機レンタル事業大手のUnited rentals(ユナイテッド レンタルズ)との業務提携を発表しており、これまでに7.9百万ドル(8.6億円)の資金調達を実施しています。

Serious Labsが提供する技能訓練は、非常にリアルで実践的です。VRヘッドセットと建機の操縦系統を模したハンドルやレバーを組み合わせることで、まるで現実のような空間で安全に訓練を行うことを可能にしました。

画像引用元:Serious Labs 公式ホームページ

現在までに、高所作業車、クレーン、フォークリフト、油田などで使用される掘削リグの4つの重機に対応したVRシミュレーターが提供されています。VRシミュレーターによる訓練に加え、実機の操縦やタブレット・スマホ型端末、PCを使用したe-Learningを組み合わせることで、作業者の技能レベルに合わせて様々なスタイルの訓練方法を提供することが可能だといいます。

画像引用元:Serious Labs 公式ホームページ

同社が提供するe-Learningソフトウェアは、オンライン講座、評価制度、専門家による修了証明書の発行が含まれており、建機だけではなく大小様々な工作機械の機能や使い方、危機管理方法を学ぶことができます。

前述のUnited Rentalsが運営する職業訓練施設(United Academy)では、Serious Labsが提供するe-Learningと訓練用VRシミュレーターが、実際に各種の免許や証明に必要な訓練内容に取り入れられています。

VRによる技能訓練が注目される理由

技能訓練にVRが必要とされる背景には、慢性的な労働者不足と建機や工作機械の電子化があります。同社ホームページによると、現在アメリカでは技能訓練が必要な労働力が年間50,000人分不足しており、若年労働者やリタイア後の再雇用者に対する技能訓練をより効率的に行う必要があるといいます。

加えて、近年の機械類の電子化により、これまでの機械類では一般的であった操縦方法の規格に変更が発生したり規格自体が多様化しており、多様な技能水準を持った労働者に合わせて多様な訓練機会を提供せざるを得ない状況となっていました。

VRによる技能訓練は、こうした負を解消することに成功しています。VRはソフトウェアのアップデートによって多様な規格に合わせて訓練内容を変化させることができ、高額な建機を多く手配する必要がありません。

また、これまでの技能訓練に比べて実機を用意する時間やコストを抑えることができるというだけではなく、安全な室内での訓練が可能となるため技能訓練中の事故を防止できるという利点もあります。

このような理由から、VRによる技能訓練が近年注目されていると考えられます。

AR / VRの市場規模は今後さらに拡大していく

IDC Japanの報告によると、今回ご紹介したVR技術を含む、AR(アーギュメンテッド リアリティ, 拡張現実)/VR市場は、ハードウェアとソフトウェア、および関連サービスを合計した支出額が2019年の168.5億ドル(1兆8500億円)から2023年の1606.5億ドル(約17兆3000億円)へと急成長することが見込まれています。特に、訓練・研修分野や建設作業支援といった法人部門でのAR/VR技術の活用が成長を牽引していくと見られます。

画像引用元:IDC Japan「Worldwide Semiannual Augmented and Virtual Reality Spending Guide 2018H2」

しかし、日本市場は法人部門の伸びが小幅であることや、法人の新技術活用への抵抗が強いことから、AR/VR市場の成長率は世界市場での成長率に比べて比較的低調に推移すると見られています。

そのような中でも、いち早く日本の訓練・研修分野でVR技術が導入された事例についてご紹介します。

日本国内でも進むVR訓練機械の導入

画像引用元:ImmersiveTechnologies 公式ホームページ

日本の建機メーカー大手コマツは、2019年9月よりVRを応用した建機技能訓練設備「WorksiteVR Simulator」の販売を始めています。同社は2019年6月に、VRシステムを開発するオーストラリアのImmersive Technologies(イマーシブテクノロジーズ)買収を発表しており、より効率的に技能訓練が実施できる同システムの国内展開を目指しています。

コマツによると、油圧ショベル等の建機はメーカーによって操作方法の規格が異なっており、国際規格ISOに準拠した訓練が実施できる同システムを利用することによって国内規格に習熟した研修者の再訓練に活用することができるといいます。

まとめ

日本においては、コマツだけでなく国土交通省が所管する「建設産業におけるリカレント教育・訓練」事業において、VRを活用した技能訓練システムの導入が進められています。これらの取り組みは始まったばかりですが、VR技術は日進月歩で進化しており、この技術革新の動向を捉えながら訓練のコンテンツや操作性を改善していくことが望まれます。

今後VRシミュレーターによる技能訓練が主流となっていくのでしょうか。これからの動向に注目です。