マイホームを最速で再建、 山火事の被災者を救うHomeboundとは?

画像引用元:Homebound社 公式ホームページ
海外事例
  • Homebound社は、2017年アメリカ合衆国カルフォルニア州で発生した山火事被災者に対して支援するために創業
  • 同社開発の施工管理システムでは、顧客が住宅の設計やデザインを注文したり、再建の進捗を確認することができる
  • 山火事による住宅再建で培ったテクノロジーで注文住宅市場へ進出をめざす

はじめに

2017年のアメリカ合衆国北カリフォルニアで発生した山火事では、24,000棟を超える家屋が焼失しました。しかし家屋や財産を失ってしまった人々の住宅再建は現在も完了していません。

画像引用元:Homebound社 公式ホームページ

今回ご紹介するHomebound(ホームバウンド)社は、山火事によって自身も被災した起業家のNikki Pechet(ニッキ ペチェット)氏によって創立され、被災者の住宅再建を支援しています。ニッキ氏によると、住宅再建のためには、資金計画や発注先の選定、法務など様々な面で煩雑な手続きを乗り越えねばならず、こうした障壁の高さが再建を阻んでいるといいます。

同社は総合請負業者(ゼネコン)として、住宅再建のための資金計画、設計、施工、引き渡しの全工程をサポートしつつ、テクノロジーを用いて顧客に対する情報透明化を徹底することで、被災者に心理面でも寄り添うサービスを提供しています。また、現在災害からの復興が進む中、同社は住宅再建事業によって得たノウハウを生かし、オーダーメイド住宅市場への拡大展開を進めています。

投資家からも熱い視線を注がれている同社の魅力はどこから生まれるのでしょうか。早速詳しく見ていくことにしましょう。

Homeboundとは?

Homebound社は、アメリカ合衆国カリフォルニア州の山火事が鎮火して間も無い2018年1月に、サンフランシスコにて創業されたスタートアップです。2019年8月にシリーズBで3,500万ドル(約37.6億円)を調達するなど、これまでに合計5,400万ドル(約58億円)を調達しています。投資家の中には、ハリウッド俳優のアシュトン・カッチャーも含まれています。

画像引用元:Forbes “She Almost Lost Her Home In California’s Wildfires. Instead She Built A $200 Million Business.”

社名のHomeboundは「家に帰ろう」という意味で使われる言葉で、その名の通り山火事の被災者の住宅再建を支援しています。同社の創業初年度の2018年における売上(推定)は約1000万ドル(10.7億円)となっており、現在も150軒の再建プロジェクトを同時進行しているといいます。

創業者のニッキ氏は「被災者の方々が再建に向けて複雑な手続きを進めている様子を見て、「IT産業で利用されているテクノロジーを用いればよりシンプルに再建を進めていくことができると考えた。」と述べており、実際にテクノロジーを用いて情報を管理することでコストを抑えスピーディな再建を実現しています。同社のテクノロジーに焦点を当ててみましょう。

被災者と支援者を「つなぐ」

Homebound社が注目したのは、被災した北カリフォルニアのソノマ郡と南カリフォルニアのマリブ市において、首長がファストトラッキング方式の住宅再建を許可したことでした。ファストトラッキング方式とは、工期短縮を目的として、ある工程の完了を待たずに次の工程を開始することで効率的な建設作業を行うというものですが、複数の作業工程が並行して進むため、品質管理や人的資源、建設資材の管理に工夫が必要となります。

そこでHomebound社はゼネコンとしての立場から、施工管理を行うソフトウェアを開発しました。このソフトウェアは住宅再建に関わる379の作業項目の進捗管理を行うもので、顧客や作業発注先の関係企業(サブコン)担当者が時間差なく情報を共有し、情報管理のコストを抑制することを目的として作られました。

顧客はこのソフトウェアを通じて作業進捗を確認しつつ、浴室のタイルや部屋の壁など内装に関する注文をデザイナーや建設業者に送ることができ、関係企業の担当者は情報を素早く共有しながら建設作業を進めることができるのです。

再建にかかる時間はプロジェクトによって大きく変わるといいますが、最短で10ヶ月での引き渡しを実現しているといいます。

情報を可視化し、被災者に安心感

画像引用元:Homebound社 公式ホームページ

1980年に建設した住宅を焼失したRichard(リチャード)氏(画像を参照)は、Homebound社の支援を受けて早期にマイホーム再建を実現した一人です。

リチャード氏は被災直後、手続きのあまりの煩雑さに住宅の再建を諦めていたと言いますが、そんな時に出会ったのがHomebound社のサービスでした。早期の再建と内外装のデザインへのこだわりを両立できるところに魅力を感じたと言います。

画像引用元:Homebound社 公式ホームページ

Homebound社の施工管理システムは、顧客が進捗状況を把握することを重視しています。リチャード氏は、マイホームの再建状況をスマートフォンアプリを通じて確認したり、随時計画の修正を行うことができるため、あたかも食品宅配のウーバーイーツのアプリを眺めるように、注文した住宅が完成に近づいていく様子を知ることができたといいます。

被災した住人の多くが住宅の再建を諦めている中で、テクノロジーを用いて密なコミュニケーションを取りながらマイホームを再建できるということが、住宅や財産を火災で失った被災者にとってどれほどの安心をもたらすかは想像に難くありません。

再建事業の経験生かし、業界の変革を目指す

施工管理にスマートフォンアプリなどのソフトウェアを導入する元請け会社が増加している一方、建設産業全体を見回したとき、まだまだ効率化の余地が残されています。

画像引用元:Homebound社 公式ホームページ

Homebound社の共同創業者兼筆頭株主のBrad Greiwe(ブラッド グレイブ)氏は、同社のテクノロジーが今後注文住宅市場における新たなモデルになると期待しています。同社の施工管理システムは顧客と関係企業(サブコン)をテクノロジーによって強力に結びつけることで、顧客に対する情報の透明性を高めながら効率的なプロジェクトの進行を実現し、より良い顧客体験を提供できるのです。

まとめ

Homebound社は、山火事による住宅再建需要が急激に伸びたことをきっかけに建設業界にテクノロジーを持ち込み、新たな顧客体験をもたらしました。しかし同社は、被災地域に元々多くのIT企業関係者が居住しており、テクノロジーへのリテラシーが高かったということが、システムがうまく機能した要因であるとしています。

同社は将来的に住宅再建事業での経験を生かし、オーダーメイド住宅市場への参入を目指しています。顧客参加型の施工管理システムは、どこまで消費者に受け入れられるのでしょうか。今後の展開に注目です。