自律走行ロボット芝刈機のScythe Roboticsが造園業を変革する!

画像引用元:Scythe Robotics, Inc.公式ホームページ
海外事例
  • ロボット芝刈機市場は2021年において15億ドル(約2240億円)で、2027年までに39億ドル(約5830億円)、年平均成長率にして12%の成長を見込む
  • アメリカ合衆国のScythe Roboticsは、電動自律走行式のロボット芝刈機の開発運営を行っている
  • Scythe Roboticsの芝刈機「M.52」は丸1日充電不要で駆動し、機械学習により自律走行が可能。芝刈面積ベースの課金モデルで提供される

はじめに


Robotic Lawn Mower Market Size & Share Analysis - Growth Trends & Forecasts (2023 - 2028)

Mordor Intelligence – Robotic Lawn Mower Market Size & Share Analysis – Growth Trends & Forecasts (2023 – 2028)

ロボット芝刈機市場は2021年において15億ドル(約2240億円)で、2027年までに39億ドル(約5830億円)、年平均成長率にして12%の成長を見込んでいます(注1)。特にアメリカにおける芝刈機市場は、小規模(3000平方メートル未満)向けの芝刈機が最も高い売上シェアを占めています。しかし、ゴルフ場など中規模の造園事業所における需要の高まりが市場での需要を牽引しており、中規模造園向けの芝刈機において、2022-2027年の年平均成長率(CAGR)にして13.92%と最も高い成長率が予想されています(注2)。

同市場はHonda Power Equipment(ホンダ パワー エクイプメント)、Husqvarna Group(ハスクヴァーナ グループ)、MTD Products(エムティーディー プロダクツ)など様々なベンダーで構成されていますが、特にロボティクス部門では新興企業の勢いが目覚ましく、市場シェアの拡大を目指して多数のM&Aがなされています。そこで本記事ではロボット芝刈機の開発運営をしているScythe Robotics, Inc.(サイス ロボティクス)をご紹介します。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

注1) Mordor Intelligence, “ROBOTIC LAWN MOWER MARKET SIZE & SHARE ANALYSIS – GROWTH TRENDS & FORECASTS (2023 – 2028)”
注2) Arizton Advisory and Intelligence “U.S. Robotic Lawn Mower Market to Reach $704.55 Million by 2027, Smart Robotic Lawn Mowers to Grow at the Highest CAGR during the Period”

無人芝刈機を展開するScythe Roboticsとは?

Scythe Roboticsは、2018年にアメリカ合衆国コロラド州にて創業された、無人芝刈機を展開するスタートアップです。2018年4月にシードラウンドにて74万9000ドル(1億1200万円)を調達、2021年1月にシリーズAにて1380万ドル(約20億6000万円)を調達、2022年1月にグラント(研究費)として37万2000ドル(約5600万円)を調達、2023年1月にはシリーズBにて4200万ドル(約62億8000万円)を調達し、調達合計額を7080万ドル(約105億9000万円)としました。筆頭株主は、シリーズBより参画した、ニューヨークのエネルギー産業関連投資を行うEnergy Impact Partners、シリーズAより参画のテクノロジー企業を中心に投資を行うInspired Capital Partners、同じくシリーズAより参画で、アーリーステージのテクノロジー関連投資を中心に行うTrue Venturesとなっています。その他、Alumni VentureArcTern VentureAmazon Alexa FundZigg CapitalLemnos Vが参画しています。

Scythe Roboticsは、2021年6月にステルスモードからの製品発表に至り、2023年11月時点で最新機「M.52」を全米に展開しています。M.52は非幾何学的な屋外環境においても人や障害物を認識し、効率的なコースを選択して自律走行することができ、また電動式のためエンジンによる排気音や排気ガスを出さない点に特徴があります。直近のシリーズBにおける調達資金は、全米の造園業者から受注した7500台分のM.52の製造及び販売に活用されるとしています。

人事面では2022年5月に、SpaceX(スペースX)Starlink(スターリンク)における製造部門トップであったBrian Merkel(ブライアン メルケル)氏を同社の製造部門トップに起用。またARヘッドセットのMagic Leapのリクルート部門トップであったJen Mongeois(ジェン モンジェオイス)氏を人材部門トップに起用することを発表しています。

自律走行する電動式ロボット芝刈機M.52

画像引用元:Scythe Robotics, Inc.公式ホームページ

Scythe Roboticsの電動ロボット芝刈機M.52は、技術面では、電動式かつ自律走行式という点に強みを持ち、ビジネス面では芝の刈取り面積ベースの課金モデルであるという点に特徴があります。

環境面での負担が少ない電動式を採用

2022年のあるアメリカにおける芝刈事業者向け調査によると、事業者の懸念事項として「燃料価格の高騰」が、「人手不足」を抜いて初めて首位となりました(注3)。燃料価格は上昇の一途をたどっており、電動式芝刈機はますます競争優位なものとなっています。M.52は1回の充電で1日中芝刈ができるように設計されたバッテリーを搭載しており、ガソリンエンジン式草刈機と比べたときの燃料費を80%以上抑えることができます。

さらに、ガソリン式芝刈機には何百もの可動部品があるため故障箇所が多く、メンテナンスの必要性がさらに高まります。M.52は駆動部とデッキモーターが電動式でオイル、フィルター、ベルトの交換の必要がありません。業者にとって必要なのは、ブレードの交換、ホイールの空気圧の管理、バッテリーの充電だけです。

さらに、排気音と排気ガスの抑制にも効果的です。M.52の駆動音は約75デシベルで、これは車が通り過ぎる時の音とほぼ同じです。一方のガス式草刈機の騒音は95デシベルで、バイクが通りすぎる時の音と同等です。また、排気ガスも抑制できるため、作業員や近隣住民に公害をもたらすことはありません。

注3)Lawn & Landscape 2021 “State of the Industry Report”

IoTセンサーと機械学習により自律走行が可能に

M.52のコンピューター・ビジョンであるScythe Sight(サイス サイト)は、草刈機に搭載した8つのカメラから得られる豊富な視覚データを使用して、周囲の世界を理解します。これまでにサイスは人、動物、標識柱、消火栓、たくさんの草などが写った何万枚もの画像を教師データとして、それぞれに遭遇したときにロボットが取るべき走行ルートを学習させました。この機械学習のプロセスの結果、M.52は障害物を検知し、識別し、適切な行動をとることができるのです。

M.52は8台のHDRカメラによって360度の視界を確保しています。これらのカメラは様々な気象条件や照明環境の下で視界を確保でき、太陽の影の変化や太陽の位置などに左右されず、芝刈機が本来のパフォーマンスを発揮できるようにしています。さらにM.52は障害物を見て対応できるだけでなく、例えば破損したスプリンクラーヘッドを発見して修理を提案したり、芝に茶色い斑点がある場合はその部分の処理を提案するといった作業ができます。

さらにScythe Roboticsは、M.52から得られた土地のデータを収集し、ソフトウェアアップデートに活用しています。

芝刈取り面積ベースの課金モデル

Scythe Roboticsはビジネスモデルにおいても興味深い取り組みをしています。ロボット製品においての主流は単純に製品を売り買いするモデルですが、一方でScythe Roboticsは、刈取り面積ベースでの課金モデル(Pay as you Mow)を採用しています。M.52を使った芝刈りの面積あたりの価格は、その芝刈コストによって異なります。障害物の少ない平野では単位価格は安くなり、樹木や障害物、傾斜地の多い土地では単位価格が高くなります。

従来のビジネスモデルでは、機器メーカーやディーラーは製品の故障やメンテナンスごとに利益を得られるため、耐久性に対するインセンティブが生じません。しかし、このScythe Roboticsのモデルでは、ダウンタイムが生じるごとに同社は利益を失うことになるので、より耐久性や耐用年数に優れ、より多く刈ることができるような設計思想へとつながっています。

まとめ

画像引用元:Scythe Robotics, Inc.公式ホームページ

いかがでしたか?今回は、電動のロボット芝刈機M.52を展開するScythe Roboticsをご紹介しました。Scythe Roboticsの電動ロボット芝刈機M.52は、技術面では、電動式かつ自律走行式という点に強みを持ち、ビジネス面では芝の刈取り面積ベースの課金モデルであるという点に特徴がありました。

継続する人手不足と燃料費の高騰に直面する芝刈・ランドスケーピング(造園)業界では、芝刈機をはじめ製品面での技術革新が続いており、業界でのシェア拡大を目指し各社が鎬を削っている状況です。そうした中、Scythe Roboticsはどのような戦略を展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。