商業用不動産の省エネ改修をAIで提案する脱炭素スタートアップCambio

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海外事例
  • 全世界における温室効果ガスの年間排出量のうち39%は建設物に由来し、そのうち28%は建物の使用過程で、11%は建設過程で排出される
  • アメリカのスタートアップCambio(カンビオ)は、AIを用いて商業用不動産の省エネ性能を高める改修に向けた投資計画の立案を支援するサービスを開発している
  • Cambioは2023年2月より、GoogleのStartups Accelerator for Climate Change Program(気候変動に向けたスタートアップアクセラレータプログラム)に採用されている

はじめに

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世界グリーンビルディング協会(WGBC)の報告書によると、世界における年間CO2排出量のうちの約39%は、建物のライフサイクルを通じて消費されるエネルギーに由来しています。上の図は、建物のライフサイクルのうちどのような場面でCO2が排出されるかを示したものです。このうち特に「B1-7」にあたる、建物使用中に排出されるCO2は、全世界CO2排出量の39%中の約28%と大部分を占めています。そこで建物使用におけるエネルギー効率を高めていくことは、全世界におけるCO2排出量の削減のために必要不可欠となっています。

今回ご紹介するCambio(カンビオ)は、商業施設のオーナーやテナントに対して、エネルギー効率や資源消費のパフォーマンスが高い建物と、アップグレードが必要な建物を示す不動産のポートフォリオを作成し、省エネ改修に向けた投資計画の作成を支援をするソフトウェアを開発しています。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

Cambioとは?

画像引用元:Y Combinator “Cambio 🏗️🌎🚀 Decarbonizing commercial real estate at scale”

Cambioは2022年6月にアメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコにて、商業用不動産の脱炭素化を掲げて創業されたスタートアップです。規模や時期は非公開ですが、不動産やメタバース関連のシード、アーリーステージ向けに投資を行っているAgya Ventures(アグヤ ベンチャーズ)より支援を受けています。また、2023年2月よりGoogleのStartups Accelerator for Climate Change Program(気候変動に向けたスタートアップアクセラレータプログラム)に採用されており、現在はステルスモードでプロダクトの開発と公開に向けた動きを進めています。

共同創業者のLeia de Guzman(レイア デ グズマン)氏とStephanie Grayson(ステファニー グレイソン)氏は、スタンフォード大学のMBAで修士号を取得した同窓生です。共にMBAで持続的な建設環境に関する研究を進めてきたことから、Cambioを共同創業するに至りました。de Guzman氏は卒業後、Oxford Property Group(オックスフォード プロパティ グループ)にてカナダ、ヨーロッパ、アジア地域にて総額70億ドルの投資を担当してきた経歴を持ちます。

de Guzman氏によると、世界の商業用不動産ポートフォリオのうち75%が環境性能に劣る古い設備を使用し、そうした不動産は機関投資家、商業用地主、大企業テナントというごく少数の機関によって管理されています。一方で、各国で不動産に対するエネルギー証明書の公開を義務付けたり、環境性能評価の低いビルを公開するなどの環境規制強化が進みつつあります。そうした規制の潮流の中で、不動産オーナーや投資家にとって、建設物由来のCO2削減に向けた動きを進めていく必要性は、ますます高まっているのです。

不動産ポートフォリオ全体の省エネ性能を可視化するCambioのソリューション

画像引用元:Cambio公式ホームページ

Cambioが提案しているソリューションは、省エネ性能が高い建物と、アップグレードが必要な建物を示す不動産ポートフォリオを作成するというものです。不動産オーナーは、ポートフォリオで示されるデータに基づき、どこに焦点を絞って改修に向けた投資計画を立てれば良いかインサイトを得ることができるようになります。

プロダクトは現在開発中のため詳細は非公開ですが、de Guzman氏は「Cambioでは、ビルレベルまでダブルクリックすることで、照明のアップグレードや空調の交換など、各ビルで行うべきことを正確に確認することができます」と述べています。

また、Cambioが開発中のソフトウェアでは、AIやコンピュータビジョン(デジタル画像などの視覚的な記録から情報を抽出する技術)を用いられる予定です。これにより、公共料金や建築許可証、建設・改修記録などからデータを取得し、顧客がどこに優先的に投資すべきかを示せるだけでなく、グリーンローンや税制優遇措置など、利用可能な金融優遇措置を特定することができるソリューションにしていくということです。

「不動産の脱炭素化」領域で新規事業が続々登場

画像引用元:PassiveLogic公式ホームページ

Cambioに限らず、地球温暖化という人類史上の課題に対し、「不動産の脱炭素化」という領域で課題解決に取り組む新規事業が続々と登場しています。これまでにContech Magで取り上げてきた2社をご紹介します。

PassiveLogic(パッシブ ロジック)はAIと機械学習による自律型のビル管理システムを開発、提供している企業です。同社はCADや3Dスキャンから建物のデジタルツインを作成し、そこからAIと機械学習によるアルゴリズムがリアルタイムで建物を解析、自律的に制御することで、建物の省エネ性能改善に貢献しています。

続いてSense(センス)は、住居用不動産向けに、住宅の配電盤に接続することで住宅の電力使用量をモニタリングするシステムを開発、運営しています。電力使用データはクラウド上でSenseのAIによって分析され、顧客は分析データをモバイルアプリやPCから確認することで、自宅のエネルギー消費量の管理に役立てることができます。

まとめ

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いかがでしたか?今回は、商業用不動産の脱炭素化を掲げ、省エネ改修に向けた投資計画をAIが提案するソリューションを開発しているCambioをご紹介しました。商業用不動産の改修に向けたソリューションという点に本事業の新規性があると言えます。

一方で、建設物はライフサイクルの全体で多大な環境負荷をもたらしており、建設から解体に至る全ての工程で、環境負荷抑制のための取り組みをすすめていくことが求められます。そこでCambioを含め、今後「不動産の脱炭素化」という領域でイノベーションを起こしていくことは、持続可能な社会を作っていくために必要不可欠だと言えるでしょう。本領域における今後の展開が注目されます。