- オンデマンドエコノミーとは、消費者が必要な時に必要なサービスだけを利用することができるビジネス形態の総称のこと
- Alfred Club Inc.は、清掃や買い物等の家事代行や家財修理等の用事を、専属ホームマネージャーがオンデマンド(需要が生じた際)で代行するサービス、Hello Alfredを展開している
- Alfred Club Inc.は、集合住宅オーナーとの法人契約獲得を通じて事業を拡大し、これまでに2カ国44都市130,000人にサービスを提供している
はじめに
オンデマンドエコノミーとは、消費者が必要な時に、必要なサービスを利用することができるビジネス形態の総称のことです。これまでに、配車サービスのUber(ウーバー)やLyft(リフト)、フードデリバリーサービスのUber Eats(ウーバー イーツ)、雑務外注サービスのTaskRabbit(タスクラビット)など、人々の生活のあらゆる側面でオンデマンドで困りごとを解決するサービスが数多く生まれています。
しかし、買い物には買い物代行サービスを、清掃には清掃代行サービスを、というように、必要があるごとにサービスを使い分けていては手間が掛かります。また、サービス供給者側は個別の需要に応じてサービスを提供するためのコストを消費者に転嫁せざるを得ず、結果としてサービス価格が高額になってしまいます。
今回ご紹介するAlfred Club Inc.(アルフレッド クラブ)は、住生活における困りごとを解決するサービスHello Alfred(ハロー アルフレッド)を提供しています。本サービスもオンデマンドエコノミーの一種ですが、そのユニークなビジネスモデルを通じて上記の課題を解決しています。一体どのようなサービスなのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
専属ホームマネージャー派遣のHello Alfred
Alfred Club Inc.は2014年にアメリカ合衆国ニューヨークにて創業されました。住生活関連のオンデマンドサービスHello Alfredを展開しており、これまでに2カ国44都市、130,000人にサービスを提供しています。CEOのMarcela Sapone(マルセラ サポーン)氏は1986年生まれのアメリカの起業家で、ハーバードビジネススクール在学中にJessica Beck(ジェシカ ベック)氏と共同で同社を創業しました。サポーン氏はAlfred Club Inc.を創業する以前、マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてキャリアをスタートさせており、その後プライベートエクイティファンドを設立しています。また、政府系シンクタンクのブルッキングス研究所にて労働政策に関する研究活動にも携わった経歴があります。こうした経歴が認められ、Goldman Sachsの「最も興味をそそる起業家」の一人、Fast Companyの「最もクリエイティブな人」、2016年のForbes 30 Under 30ではコンシューマーテック部門の顔として登場しています。
2020年10月には、ヘルスケアやIT系企業を中心に投資を行うNew Enterprise Associates(ニュー エンタープライズ アソシエイツ)や、コンシューマー向け企業を中心に投資を行うSpark Capital(スパーク キャピタル)を筆頭株主として、シリーズCラウンドで4200万ドル(約46億2000万円)の資金調達を実施するなど、これまでに合計8980万ドル(98億7000万円)の資金調達を実施しています。
2018年には収益が前年比250%を超え、従業員数も300名を超えるなど、急成長を続けており、2018年にはFast Company誌が選ぶ「世界で最も革新的な企業トップ50」に、2020年にはForbes誌が選ぶ「アメリカで最も優れた雇用主トップ500」に選出されています。
Alfred(執事)が住生活の面倒ごとを請け負う
Hello Alfredは派遣するホームマネージャーのことをAlfred(アルフレッド、執事)と呼んでいます。Hello Alfredの利用者は、家事代行サービスが必要な時にモバイルアプリから専属Alfredに連絡をし、必要な業務の伝達や日程調整を行います。これを受けてAlfredは、利用者の家の清掃や洗濯、ペットの世話などの日常業務を代行します。
家事を代行するAlfredは、Alfred Club Inc.が指定する専門的訓練を受講し認定を受けており、また同社と直接の雇用関係を結んでいます。そのため個人事業主と消費者をつなげるC2C型のオンデマンドサービスとは異なり、Alfredには比較的安定した雇用環境が約束されています。Alfred Club Inc.はこうした労働条件の工夫を通じて高品質の住生活サービスを提供しており、また地域に安定した雇用を創出することにも貢献しています。
ここまでは、一般的な家事代行のようなオンデマンドサービスと差異が無いように感じられるかもしれません。しかし、Hello Alfredのユニークさは別の部分にあります。これから見ていく通り、Hello Alfredは利用者とAlfredの間で信頼関係を構築することで、利用者のライフスタイルや消費傾向を詳細に把握し、家事代行を超えて利用者のライフスタイルに密着した様々なサービスを提供しているのです。
様々な住生活関連サービスを一括で提供する
Hello Alfredは単なる家事代行サービスではありません。Alfred Club Inc.は、住生活に関わる様々なオンデマンドサービスと提携し、利用者のイレギュラーな要望に対応しています。例えば、Alfredが対応できない買い物代行が必要となった場合はInstacart(インスタカート)へ、清掃が必要になった場合はMyClean(マイクリーン)へ、家財の修理が必要となった場合にはTaskRabbit(タスクラビット)へ、というように、必要に応じて他のオンデマンドサービスを手配する手間をAlfredが担います。
利用者は、Hello Alfredのモバイルアプリを使って必要な用事を選択するだけでAlfredとのコミュニケーションを行うことができ、Alfredはサービスを享受するまでの手間を一手に引き受けてくれるのです。
またAlfred Club, Inc.は、住生活サービスを手がける様々なブランドと提携を結んでいます。Hello Alfredのアプリにはeコマースの機能が実装されており、家具や生活雑貨など、住生活に関連するブランドの商品が掲載されています。Alfredが実際の商品を手配して利用者に試してもらうこともでき、さらに、ブランドイメージに沿った体験を提供することで、利用者に商品の価値を訴求するということもできます。
例えば、ミネラルウォーターを手がけるイタリアのブランド、Acqua Panna(アクア パンナ)は、Alfredとともに料理教室を実施しています。こうして利用者とAlfredが密接にコミュニケーションを取ることで、利用者のライフスタイルや好みに沿った商品を提案できることもHello Alfredの強みだと言えるでしょう。
住宅オーナーとの法人契約を通じてサービスを拡大
Alfred Club Inc.は設立当初、一利用者に対する個人契約を中心に顧客を獲得していましたが、現在は100戸以上の大規模集合住宅に集中して、住宅オーナーとの法人契約を通じて顧客の数を増やしています。
法人契約を中心に進めていくメリットは、多くの顧客を一度に獲得できるということだけではありません。例えば住宅オーナーは、Hello Alfredによる住生活関連のオンデマンドサービスが賃貸契約に付随していることを利用者にアピールすることができますし、サービス料金が家賃に含まれている場合、利用者はHello Alfredの利用にかかる追加的な費用を気にすることなくサービスを利用することができます。Alfred Club Inc.からすれば、地理的に近接した場所にまとまった顧客を得る事で、Alfredの派遣にかかるコストを抑えることもできます。
現在、8割以上の収益が法人契約による顧客からもたらされているといいます。
まとめ
いかがでしたか?今回は住生活のオンデマンドサービスを展開するAlfred Club Inc.をご紹介しました。同社は利用者に専属のAlfred(執事)を派遣することを通じて、利用者のライフスタイルに密着した住生活関連サービスを一括して提供していました。また、法人契約を通じてさらなる顧客獲得を目指しています。同社は今後どのように事業を展開していくのでしょうか、今後の動向が注目されます。