あなたの家が投資対象に?話題の金融モデル“ホームエクイティシェアリング”のHometapとは

画像引用元:Hometap Equity Partners, LLC 公式ホームページ
海外事例
  • 住宅担保ローンやHELOCに代わる資金調達手段としてホームエクイティシェアリングが注目されつつある
  • 個人が住宅の資産価値を投資家と共有することで手持ち資金を得る仕組み
  • 日本ではあまり普及していないが、アメリカでは金融系スタートアップによる参入が増加

はじめに

画像引用元:Hometap Equity Partners, LLC 公式ホームページ

Home Equity Sharing(ホーム エクイティ シェアリング)という金融サービスをご存じでしょうか。ホームエクイティシェアリングとは、住宅の資産価値(=エクイティ)の一部に投資家が投資をすることで、住宅所有者は手元に現金を得るのと引き換えに、投資家は住宅の将来価値に対する権利を得るという仕組みのこと。住宅所有者は、一定期間内に借り換え、貯蓄による買い取り、または住宅の売却を行うことで、売却価格または評価額のうち事前に合意した割合を投資家に支払う必要があります。

これまで住宅所有者が持ち家を活用して資金を得るためには、住宅を担保に融資を受ける住宅担保ローンか、住宅を売却すること以外に方法はありませんでした。しかしホームエクイティシェアリングの登場で、住宅所有者は住宅の資産価値の一部を証券化することを通じて、短期的には住宅を手離すことなく現金を手元におくことができるようになりました。日本ではほとんど浸透していないビジネスモデルですが、アメリカでは複数の金融系スタートアップがこの金融モデルへの参入を進めています。

今回ご紹介するアメリカ発の金融スタートアップ、Hometap Equity Partners, LLC(ホームタップ エクイティ パートナーズ、以下Hometap)は、ホームエクイティシェアリングを提供する新興スタートアップの一つです。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

Hometapとは?

Hometapは2017年にアメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストンにて創業された金融系スタートアップです。2021年12月に6000万ドル(約70.9億円)の資金調達を実施し、これまでの累計調達額をおよそ1億7200万ドル(約203億円)としました。調達先にはアーリーステージ向けの投資で知られるAmerican Family Venturesの他、Iconiq Capital LLC、G20 Ventures、Pillar、General Catalystが名を連ねています。

この資金調達直後の2022年1月には、PEファンド大手のBain Capital(ベイン キャピタル)、保険業のGroup1001の子会社でコンサルティング会社のDelaware Life(デラウェア ライフ)の資本参加を受けて、同社の3つ目のファンドとなる2億4500万ドル(約289.7億円)規模の機関投資家向けファンドを組成を発表しました。このファンドは、機関投資家向けにHometapの個人所有住宅エクイティ関連商品を提供することで、機関投資家のポートフォリオ多様化を支援するとともに、Hometapがより多くの住宅所有者へと投資を拡大することに活用されます。

Hometapは2022年3月時点でアメリカの15州でサービスを展開していますが、今回の資金調達に際して展開地域の拡大と人員を強化していくこととしています。

ホームエクイティシェアリングの仕組み

画像引用元:Hometap Equity Partners, LLC 公式ホームページ

Hometapの役割は投資家と住宅所有者を仲介する機能にあります。まずはHometapと投資家の関係を見てみましょう。Hometapは投資家から住宅市場への投資のための資金を集めて投資を行い、そのリターンとして分配金や償還金を投資家へと支払います。投資家は市場全体で住宅価格が上昇すれば、その分より高い配当が期待でき、価格が下落すればリスクを背負うこととなります。一般的に住宅市場の値動きは公開株式の値動きと紐つかず、インフレ耐性が強いとされ、住宅市場への投資をポートフォリオに組み込むことでリスク分散を図ることができます。

続いてHometapと住宅所有者の関係を見てみましょう。Hometapは住宅所有者に対し、個人が所有する不動産の一部を証券化し投資することで無借金で資金を提供しています。この資金は住宅ローン、リフォーム費、子どもの教育費、医療費など手持ちの資金では賄いきれない様々な出費に対して活用することができ、月々の返済はありません。その代わりに10年間の投資期間が設定されており、その期間中に住宅の資産価値が上昇した場合はその利益の一部を、住宅の資産価値が下落した場合はその損益の一部をHometapと分担することとなります。

住宅担保ローンやHELOCなどの他の金融サービスと比べ、①年齢や収入に基づいた審査がないこと、②審査が簡素で現金化までのスピードが早いこと、③月々の支払いや金利が発生しないこと、④持ち家の資産価値が下がっても追加のコストが発生しないこと、⑤持ち家の所有権を維持できること、などのメリットが挙げられます。

実は現在、コロナ禍のアメリカで空前の住宅価格上昇が続いています。2021年4月時点の住宅価格指数(注1)は前月同年比で14.6%と過去30年間で最高水準で推移しており、アメリカの住宅不足に拍車をかけています。背景には木材価格高騰の他、コロナ禍による在宅勤務の普及が人々の意識を住環境へと向けたことなどが挙げられます(注2)。こうした環境要因がHometapの急成長の後押しをしていると言えるでしょう。

Hometapの他、ホームエクイティシェアリング業界では、Noah(1億5610万ドル)、Unison(4000万ドル)、Point(3040万ドル)などのスタートアップが参入しています。

(注1)S&Pコアロジック・ケース・シラー指数
(注2)藤 和彦「なぜ、コロナ禍でも世界で不動産ブームが起きているのか?住宅価格高騰、予測不能状態に」https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/fuji-kazuhiko/281.html

他の金融サービスとの比較

画像引用元:Hometap Equity Partners, LLC 公式ホームページ

例えば数年前に500,000ドルの住宅を150,000ドルの住宅担保を組んで購入し、現在の住宅の市場価格は550,000ドル、住宅担保ローンの残高が140,000ドルであったとしましょう。エクイティとは住宅の市場価格から住宅担保ローン部分を差し引いた部分のことを指し、現在550,000ドル-140,000ドル=410,000ドルのエクイティを保有していることになります。この410,000ドルを担保に新規のローンを検討してみることとしましょう。

まず最初に検討されるのは住宅担保ローンです。住宅担保ローンでは先ほどの410,000ドルのエクイティの一部を限度にまとまったお金を借入、その後月々決まった額を返していくというものです。通常、固定金利で提供され(一部、変動金利も存在する)、一時金として借りたローン額を、一定期間をかけて返済していきます。月々の返済額は固定されており(固定金利を仮定)、返済額は利子部分と元金返済部分との合計額です。これらは、現在住宅担保ローンの月々の返済額に加えて返済が必要になります。

続いて検討されるのは、HELOC(Home Equity Line of Credit、へーロック)です。こちらは一時金を借りるローンとは異なり、Line of Credit(限度額までフレキシブルにいつでも借りることができる契約)です。クレジットカードの利用限度額に似ていますが、クレジットカードのほうは無担保(それゆえ高利子)であるのに対し、HELOCは家のエクイティを担保(それゆえ低利子)となります。ただ契約をするだけでいつでも利用できる状態にしておいて、本当にお金が必要になるまでは全く借り入れをしないということも可能です。引き出し期間中は限度額まで自由に借り入れをすることができ、引き出し期間が終わると、返済期間が始まります。返済期間のはじめにそのときのローン残高をもとに月々の返済額が計算されます。返済額は利子と元金返済部分からなり、返済期間の最後にはすべての残高が完済されることになります。HELOCは変動金利制である場合がほとんどで、支払う利子は市場の金利の変化により変動しますが、金融機関によっては返済期間の開始にともない固定金利制に転換できるようにしている場合もあります。

最後にホームエクイティシェアリングの場合、住宅所有者は住宅の資産価値の一部を投資家に売却することと引き換えに現金を得、投資期間中(Hometapの場合10年間)は投資を清算する必要がありません。投資期間終了した時点での住宅の資産価値に応じて、資金の返済額が決定されます。

参考:Hometap 公式ホームページよりCONTECH MAG作成

住宅担保ローンもHELOCも、借り入れた金額と定められた利子分を支払う必要がある点で共通しています。300,000ドルを借り入れたなら、住宅の値段があがってもさがっても(エクイティが大きくなっても小さくなっても)とにもかくにも300,000ドルと利子分は返済せねばなりません。もしも上の例で550,000ドルまでになった住宅が不動産市場の暴落で250,000ドルになってしまったとなっても、返済する必要のある額は300,000ドルと利子分のままです。一方でホームエクイティシェアリングの場合、住宅価格が上昇した場合はその上昇益の一部を上乗せして支払い、住宅価格が下落した場合はその損益の一部は支払う必要がないため、住宅の所有者は資金返済に際してリスクを分散させることができるといえます。

まとめ

画像引用元:Hometap Equity Partners, LLC 公式ホームページ

人生に大きな出費はつきもの。そこで手持ちの資金では賄えない分を融通する様々な金融サービスが存在します。特に住宅は個人所有資産のうち最も高額な資産の一つであり、この資産を活用するホームエクイティシェアリングの出現は自然なことだとも言えるでしょう。競合する企業が出現する中、Hometapは今後どのように展開していくのでしょうか。今後が注目されます。