垂直統合された上下水処理システムを提供するAqueoUS Vets

画像引用元:AqueoUS Vets公式ホームページ
海外事例
  • 水道水の品質維持や管理に民間技術や資金の活用が必要とされている
  • アメリカのAqueoUS Vetsは上下水処理システムの開発、建設、保守点検を垂直統合し、品質維持と業務効率化を両立
  • 同社はカリフォルニア州を中心に、1日あたり上下水約6億4000万立方メートルを処理している

はじめに

画像引用元:AqueoUS Vets公式ホームページ

老朽化した水道インフラの維持・補修や、環境基準・衛生規格に適合するための管理には膨大な費用がかかります。また、事業運営人員の削減による運営ノウハウ継承や、設備更新も課題となっています。これらの課題は自治体行政にとって悩みのタネであり、事業費の削減や業務の効率化のため水道事業における民間事業者の活用が長らく議論されてきました。

アメリカを例にとると、民間水道事業は同国建国以来の歴史があり、水道インフラの所有権を自治体が保持したまま、運営権のみを独占的に民間事業者に譲渡するコンセッション方式や、水処理施設の運営、検針や設備点検、交換などの一部の業務を民間に委託するなどの様々な方式が取られてきました(注1)。その結果事業体ベースでは46%(2018年)が、給水人口ベースで16%(2012年)が民間事業者による運営となっています(注2)。

一方で1998年には、ジョージア州アトランタ市が民間事業者ユナイテッド・ウオーター・サービス社へと水道事業を委託したところ、水道の水圧が低下したり、赤く濁った水が出るようになるなどのサービス低下を引き起こし、2003年に再公営化されるといった事例もあります(注3)。単に水道事業を民営化すればいいということではなく、水道の安全性や安定性といったサービスの質を担保するための公的財源の投入と、効率性を求めていくための民間技術活用のバランスをとっていくことが必要であるといえるでしょう。

今回は以上の観点から、アメリカのスタートアップ、AqueoUS Vets(アクアオス ベッツ、以下AqueoUS)をご紹介します。同社は上下水処理システムの開発から建設、保守点検までを垂直統合しサービシングを行っている民間企業です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

(注1)財団法人自治体国際化協会, 2006, 「米国における水道事業の概要」
(注2)国土交通省, 「海外の水道事業における民間事業者の関与の状況について」
(注3)経営工学研究所, 2011, 「米国アトランタ市の水道事業民営化と再公営化」

高品質の水処理と業務効率化を両立するAqueoUS Vetsとは?

AqueoUSは、2014年にアメリカのカリフォルニア州レディングに拠点を置く、上下水処理システムを提供している企業です。州や地方自治体、民間企業を顧客として、汚染物質を取り除き衛生基準に適合した水道水を提供するための上下水処理システムの開発、建設、保守点検に至るまで包括的にサービシングを行っています。2022年1月にはベインキャピタルのインパクト投資戦略部門にあたるベインキャピタル・ダブルインパクトより非公開の条件で資金調達を実施しました。

AqueoUSは現在、カリフォルニア州ロサンゼルス市水道電力局、オレンジ郡水道局、アナハイム市などの地方自治体、州政府、連邦政府、および民間の産業・商業顧客向けに、1日あたり約1億6800万ガロン(約6億4000万立方メートル)の処理を行い、処理能力は1日あたり2億9000万ガロン(約11億立方メートル)以上となっています。

はじめに触れたように、水道インフラ事業は老朽化への対応や設備更新や人員確保について課題を抱えています。また、2021年10月にはバイデン大統領の下で汚染物質PFAS・PFOA・PFOSの規制が強化されるといった情勢もあり(注4)、水質基準クリアのためのコスト高も問題となっています。これらの課題に対しAqueoUSは、上下水処理システムの開発から建設、保守、点検までの垂直統合と、ターンキーソリューション(使用者に専門的知識が無くても、鍵を回すだけで設備を稼働できるようにシステムを構築すること)の採用により、水道事業の品質維持と業務効率化を両立しています。

(注4)US Environmental Protection Agency, 2021, “PFAS Strategic Roadmap: EPA’s Commitments to Action 2021-2024”

水処理事業の垂直統合という戦略

画像引用元:AqueoUS Vets公式ホームページ

水道インフラ事業の課題に対応するための一つの戦略が、経営効率化のための事業の統合です。AqueoUSは水処理システムの開発から、設備の設計と建設、保守点検に関わる事業を垂直統合し、経営と運用を一元化しています。同社は様々な水処理に対応するための粒状活性炭やイオン交換樹脂の扱いに豊富な経験を有しており、パーフルオロアルキル物質(PFAS)、1,2,3-トリクロロプラン(TCP)、過酸化水素クエンチ、全有機炭素(TOC)、VOC、炭化水素、過塩素、ヒ素、六価クロムの除去に対応することができるといいます。

AqueoUSは以上の水処理技術を背景としつつ、ターンキーソリューションを採用することにより、顧客の州や地方自治体、企業の運用担当者が専門知識を保有する必要性を無くしました。顧客は管理・運用のためのコストをAqueoUSに転嫁することができる一方で、AqueoUSは管理・運用を一元化することで業務効率を高めることができるため、効率的な水処理業務を実現することができるのです。

AqueoUSは自社製造の水処理システムを取り扱う他、Integrity Municipal Systems(インテグリティ ミニュシパル システムズ)社製の臭気制御システム、薬液供給システム、PSI Water Technologies(PSI ウォーター テクノロジーズ)社製の発がん性物質のトリハロメタン(THM)除去システム、タンク内残留物除去システムのプロバイダーとしても事業を運営しています。また、​​石油・ガス市場向けに、鋼管、バルブ、溶接継手、標準およびラインパイプのコーティングからジョイントおよびパッチキットに至るさまざまな腐食防止製品などのサービスソリューションも提供しています。

全米最大のイオン交換式PFAS処理プラントを建設

AqueoUSは2021年7月、オレンジ郡水道局(OCWD)とヨーバ・リンダ水道局の協力のもとで全米最大のイオン交換式PFAS処理プラントを竣工しました。オレンジ郡水道局はサンタアナ川、オレンジ郡地下水盆地、地下水補充システムという南カリフォルニアで最も重要な3つの水源を管理する公営の水道管理事業者で、オレンジ郡北部と中部の250万人以上の住民に、19の水関連機関を通じてサービスを提供しています。

2020年にカリフォルニア州のPFAS規制が強化された際、OCWDが水源の水質を調査したところ、オレンジ郡地下水盆地のPFOAとPFOSが勧告レベルを超えていることが判明し、PFAS処理用のイオン交換式水処理システムの建設がAqueoUSと共に進められました。AquaoUSは1日あたり最大2500万ガロン(約9500万立方メートル)の処理能力を備えた水処理システムを製造・納入し、現在これは全米最大規模のイオン交換式PFAS処理プラントとなっています。

まとめ

画像引用元:AqueoUS Vets公式ホームページ

いかがでしたか?今回は、垂直統合された上下水処理システムを提供するAqueoUS Vetsをご紹介しました。AqueoUSは高品質の水処理システムを、開発から建設、保守点検に至るまで垂直統合して業務効率化し、ターンキーソリューションを採用することで自治体による運用コストを下げています。

水道業界における技術革新としては、2018年に栗田工業が買収したアメリカ企業Fractaの事例があります。Fractaは水道管の過去の破損データ、配管の素材、使用年数、土壌、気候、水道といった地理的データを組み合わせ、1000以上の項目をAI及び機械学習に基づいて分析するプログラムを開発。水道管の最適な交換時期を導き出すサービスを展開しており、2022年5月現在、日本では31の自治体でサービスが導入されているといいます。

水道業界は今後も技術革新が強く求められる業界の一つといえるでしょう。AqueoUSを含め、事業者による今後の展開が注目されます。