事前地図やGPSがなくても動作する建設ロボットのField AI

画像引用元:Field AI公式ホームページ
海外事例
  • 建設ロボット市場は2024年の約13.7億ドル(約2018億円)から2030年の36.6億ドル(約5392億円)へ、年平均約18%で成長見込み
  • アメリカ・カリフォルニア州のField AIは、どんなロボット筐体にもインストール可能で、現場の不確実性やリスクに耐える汎用的な「ロボット脳」を提供している
  • Field AIは事前地図やGPSなしで建設現場の検査や運搬業務などに活用されている

はじめに

画像引用元:Field AI公式ホームページ

建設ロボット市場は2024年に約13.7億ドル(約2018億円)に達しており、2030 年には 36.6 億ドル(約5392億円)規模へと成長すると見込まれています。年平均成長率は18%前後とされ、建設業界における自動化需要が急速に拡大しています(Grand View Research 2025)。

具体的には、溶接や3D プリンティング、レンガ積みに用いられるロボットアーム、現場内で資材を運搬する無人搬送車(AGV)、測量や進捗確認に活用されるドローンがあります。その他、ロボティクスと組み合わせたソリューションとして、建設現場の進捗管理や労務安全の分析を行うAIプラットフォーム、現場データを収集してクラウド上で共有・解析するクラウド連携型サービス、ソフトウェア更新やハードウェア維持管理をセットにしたメンテナンス契約やサポート契約、さらにドローンや自律走行車両の運行を統合的に管理するソフトウェアなどが挙げられます。

今回は建設ロボットの開発を行うアメリカのFieldAI(フィールドエーアイ)をご紹介します。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

Field AIとは

Field AIの概要

FieldAI はアメリカ・カリフォルニア州アーバインに本社を置くスタートアップで、「embodied AI(身体を持つAI)」を用いたロボット制御ソフトウェアを開発しています。従来の視覚認識や言語モデルだけに頼らず、物理法則に基づいた独自の Field Foundation Models (FFMs) を構築し、現場の不確実性やリスクに耐える汎用的な「ロボット脳」を提供しているのが特徴です。

同社のソフトウェアは四足歩行ロボット、ホイール型ロボット、自律走行車両など多様な形態のロボットに適用可能で、事前地図やGPSがなくても動作できる設計になっています。そのため、建設現場、エネルギー施設、都市インフラ、製造ラインなど、複雑で安全性が求められる産業領域における現場の進捗管理、マップ作成、保守点検などで導入が進んでいます。

資金調達と成長戦略

2025年8月、FieldAIは総額4億500万ドル(約598億円)を調達し、評価額は20億ドル(約2950億円)に到達しました。出資者には Bezos ExpeditionsKhosla VenturesIntel Capital、Nvidia の NVenturesCanaan Partners、シンガポールの国営VC・Temasekなど名だたる投資家が含まれており、産業AI・ロボティクス分野における次世代リーダーとして注目されています。

調達資金は、グローバル展開の加速、製品性能(移動と操作能力)の強化、研究開発チームの倍増に充てられる予定です。既に北米、欧州、日本を含む数百の現場で実運用が進んでおり、今後はさらに導入拡大が見込まれます。

チームとバックグラウンド

創業者のAli Agha(アリ・アガ)博士はNASA JPL(ジェット推進研究所)で火星探査やDARPAの地下チャレンジを率いた経歴を持ち、現場と研究の両面からロボティクスを熟知しています。また、AI部門を率いる Shayegan Omidshafiei(シャイェガン・オミドシャフィ)博士はMITで博士号を取得後、アルファベット子会社のDeepMindで強化学習研究に従事しており、学術と産業を橋渡しするチーム構成が際立っています。

Field AIのロボティクス

画像引用元:Field AI公式ホームページ

技術的優位性

Field AIのField Foundation Models(FFMs)は「リスク感知」や「信頼度付き行動判断」が可能で、センサーが一部故障しても動作を続けられる耐障害性を備えています。これにより、地下、災害現場、危険区域といった従来は人間やロボットのアクセスが難しかった領域でも、安全かつ確実に作業を進めることができます。Intel Capitalは「FieldAIのアプローチは、ロボットが複雑環境を攻略するための基盤になる」と評価しています。

ハードウェアに依存しない設計

Field AIのFFMsは、四足歩行ロボット、ホイール型、ドローン、パッセンジャーサイズ車両、さらには人型ロボットまで、さまざまな筐体に対応できます。これは、Boston DynamicsのSpotをはじめとするロボットに、FFMsを統一的に移植・動作させることを可能にしています。すなわち、FFMs自体が特定のロボット設計に依存せず、多様なロボットに柔軟に適応できるソフトウェア基盤となっています。

導入方法

Field AI のソフトウェアは、ロボットに追加のモジュールを搭載する形で導入されます。具体的には、カメラや LiDAR、加速度センサーといった各種センサー類に加え、演算処理を担う小型コンピュータをひとまとめにした拡張ユニットを、ハードウェアに装着することによってインストールします。この拡張ユニットはいわば「バックパック」のような役割を果たし、現場環境を認識するための“目や耳”と、判断を下すための“頭脳”をロボットに追加する仕組みです。

その上で、Field AIのFFMsが動作し、ロボットは事前の地図やGPSに頼ることなく自律的に現場を歩き回り、データを収集・解析できるようになります。

価格・スキーム

FieldAI は、既存のロボットに対してセンサーやエッジコンピュートを追加する後付け方式で展開しており、ハードウェア統合やソフトウェアライセンスを伴ったB2Bモデルとなっています。しかし、具体的な価格(税込み、ライセンス料、年間サブスクリプションなど)については、ウェブサイトや報道情報に記載がありません。

活用事例

画像引用元:Field AI公式ホームページ

グローバル展開と多業種での実運用

Field AIは、建設、エネルギー、製造、都市型デリバリー、検査などの業界で活用されています。また地域的には、米国、日本、欧州といった地域において導入が進んでいます。特定の企業名は明示されていないものの、「大手建設現場」や「複雑なインフラ点検現場」などで実運用されており、現場の実用フェーズに移行していることが伺えます。

建設現場における自律的データ取得・進捗管理

建設ソリューションの文脈では、Field AIを導入したロボットによって現場情報の自動収集、進捗の3Dスキャン、BIMとの比較による差異検出が可能になり、リスク早期発見やプロジェクト安定化に役立っていることが公開されています。

まとめ

画像引用元:Field AI公式ホームページ

Field AI は、物理環境に適応するField Foundation Models (FFMs)を中核に据えたロボット制御ソフトウェアを開発し、建設・エネルギー・製造・都市運営といった産業現場に展開しています。特定企業名を伴う公式事例はまだ公開されていませんが、すでに 米国・日本・欧州の数百の現場でロボットが稼働していることが明らかになっています。

特に建設分野では、現場での 自律巡回・3Dスキャン・BIMとの比較解析を通じて、進捗管理や施工誤差の早期発見に寄与しています。これらの事例は、Field AI が単なる研究開発段階を超え、現場での実運用を通じて生産性・安全性・コスト削減に直結する価値を提供していることを示しています。建設ロボティクス市場が今後急拡大する中で、Field AI の導入事例はますます広がっていくと見込まれます。