- 建設産業において、半数以上の施工業者が施工費の支払いを受け取るまでに30日以上の時間を要している。(2020年時点)
- 施工費未払いを防ぐ仕組みであるMechanic’s Lien(メカニクスリーン、担保権)は、手続きが煩雑で管理コストがかかるという欠点がある。
- アメリカ合衆国のソフトウェア企業Levelset(レベルセット)は、Lienに関する業務をデジタル化し、施工費の未払いから施工事業者を守る。
はじめに
建設業界では、半数以上の事業者が施工費などサービス代金受け取りに30日以上を、さらに約15%の事業者は60日以上を要しているとされています(*1)。一方で施工業者は、施工に必要な費用を先に負担しており、発注元から施工費を受け取るまでの間の資金繰りに問題を抱えています。
建設業界における資金の流れを遅らせている要因は、「多重請負構造」にあります。例えば建設プロジェクトの全体を統括する総合建設事業者(ゼネコン)は、複数の施工業者(サブコン)に施工を発注します。さらにそれぞれの施工業者は別の施工業者へと発注するため、一つの建設プロジェクトの中に複雑で大量の契約関係が発生します。
発注元は多くの場合、請負業者に対し施工実施時ではなく各施工段階やプロジェクト全体が終了した後に支払いを実施しています。そのため、建設業界における資金の流れは遅くなっているのです。
今回は、建設事業者の財務に関する問題を解決するために、建設事業者の財務管理のデジタル化を支援しているソフトウェア企業、Levelset(レベルセット)をご紹介します。いったいどのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
*1 Levelset調べ
建設事業者の施工費未払いを解消するLevelsetとは
Levelsetはアメリカ合衆国ルイジアナ州にて2007年に創業されたソフトウェア企業です。
2019年に旧社名のzlien(ズリエン)から社名をリニューアルしています。
同社が提供しているのは、建設事業者の未払い防止と財務管理を支援するソフトウェア、及び法律家によるサポートです。現在までに約150万件の建設プロジェクトを取り扱っており、一月あたり平均17.8億ドル(1948億円)分の取引を管理しているといいます。
2019年12月にはSkype(スカイプ)やFacebook(フェイスブック)などへの投資実績を持つ香港のファンドHorizontal Ventures(ホリゾンタル ベンチャーズ)を筆頭株主にシリーズCで3000万ドル(約32億8000万円)を調達するなど、これまでに4680万ドル(51億2000万円)を調達しています。さらに、主要株主にはソフトウェア産業を中心に投資を行っているS3 Ventures(エススリー ベンチャーズ)やAltos Ventures(アルトス ベンチャーズ)、建設・機械産業を中心に投資を行っているBrick & Mortar Ventures(ブリック アンド モーター ベンチャーズ)が名を連ねています。
未払いから事業者を守るMechanic’s Lien(メカニクス リーン)
同社は、建設事業者の施工費未払いを防ぐ仕組みのMechanic’s Lien(メカニクス リーン)の締結や財務管理業務をデジタル化するソフトウェアを提供しています。Mechanic’s Lienとは、建設工事の発注元に対しては施工費の支払い義務を、受注業者へは施工費を受け取る権利を保障する契約の一種です。
施工を実施する建設事業者が、建設プロジェクトのオーナーやゼネコンに対して契約を求めることが一般的です。
アメリカ合衆国では各州ごとにMechanic’s Lien(メカニクス リーン)法が定められており、必要な書類の様式や手続きの仕方が微妙に異なっていますが、基本的には以下の4つのステップで手続きが行われます。
① Provide Preliminary Notice(予備的通知の送付)
「事業者が施工に関わっている」という旨を関係者に通知するものです。通知に法的な義務付けはありませんが、施工費が受け取れないリスクを抑えることが期待できます。
② Send a Notice of Intent(意向に関する通知の送付)
「施工費の支払いが遅延した場合はMechanic’s Lienを締結する」という旨を通知するものです。
③ File a Mechanic’s Lien(メカニクス リーンの締結)
実際にMechanic’s Lienを締結します。建設プロジェクトや施工の詳細な情報を記載する必要があり、作成には数日を要します。また、各州ごとに書類の様式や手続きの仕方が異なるため注意が必要です。
④ Release or Enforce the Lien(リーン権の放棄または実施)
建設事業者が施工費を受け取ったり、リーン権行使の有効期間を超過した場合、リーン権は放棄されます。万が一建設事業者が施工費を受け取れなかった場合、建設事業者はリーン権を行使して施工を実施した部分を競売にかけることで施工費を回収することができます。
建設事業の煩雑な財務管理をデジタル化
LevelsetはWebから使用できるクラウド型のソフトウェアを提供しています。メインの機能は、Mechanic’s Lienの締結をオンライン上で実施する機能です。
この機能は、Mechanic’s Lienに関する書類をオンライン上で作成し、契約相手もオンライン上で承諾することができるというものです。ペーパーレスで建設財務を管理することができるだけでなく、複数の建設プロジェクトを同時に行っていても、支払い状況やMechanic’s Lienの法的な有効期間などを一括で管理することができます。
書類は、各州ごとに定められた様式を使い分け、必要事項を記入していくだけで作成が完了します。建設プロジェクトごとに必要な手続きを自動で管理できるため、財務管理の手間を大きく省略することができるのです。書類作成に必要な時間は週当たり平均12時間削減され、施工費の受け取りまでの日数も38%削減することができるようになるといいます。
また書類作成にあたり、月額180ドル(約19700円)でLevelsetが紹介する法律家と通話で相談するサービスも提供しています。建設業界に詳しい法律家に相談することで、確実に有効なMechanic’s Lienを作成することができるのです。
建設資材の「ツケ払い」サービス
またLevelsetは、建設事業者(施工者)向けに建設資材販売の仲介も行っています。施工者は多くの場合、建設資材費を先に負担して施工を実施します。そのため、資金に余力のない施工者は資金繰りに困ることになります。
そこでLevelsetは、建設資材販売を仲介する際に先に建設資材を購入することで、施工者が施工前に資材費を負担せずに施工を実施できるサービスを提供しています。施工者は施工費の支払いを受け取った後に資材費をLevelsetに支払えばよく、資金繰りを改善することができるのです。
Levelsetは、Mechanic’s Lienを確実に締結し、施工者やゼネコンの未払いリスクを抑えることを通じてこのようなサービスを実現しているといえるでしょう。
まとめ
今回は、建設事業者の財務管理をデジタル化し、施工業者を施工費未払いから守るソフトウェアを開発・運営するLevelsetをご紹介しました。
同社はMechanic’s Lienの締結をオンライン上で実施できるソフトウェアを提供しており、このソフトウェアでは施工費の支払いに関する情報が一括管理できることが特徴でした。加えて法律家によるサポートや、建設資材費の「ツケ払い」などのサービスの提供を通じて、建設事業者の資金繰りを支援していました。
同様に建設事業者の財務管理を支援するソフトウェアを開発・運営している企業として、当メディアでご紹介したBuilt Technologies(ビルト テクノロジーズ)があります。競合が参入している中で、同社は今後どのように事業を展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。