レストランチェーンの設備修理・メンテナンス管理SaaSを提供するResQ

画像引用元:Get ResQ Ltd.公式ホームページ
海外事例
  • レストラン業界では、設備修理・メンテナンス業務においてテクノロジーの普及が進んでいない
  • カナダに拠点を置くResQはレストラングループと設備修理・メンテナンス業者をつなぐSaaSを運営している
  • レストランはResQのSaaS活用により、修理コストを20%削減、メンテナンスコストを35%削減、修理・メンテナンスにかかる時間を月間で30時間削減することができる

はじめに

画像引用元:Get ResQ Ltd.公式ホームページ

レストラン業界向けのソフトウェアとして、販売管理や在庫管理のPOS(販売時点情報管理)システムが普及しています。POSシステムは顧客ごとに販売点数を計上し、データを原材料等の在庫の管理に活用するシステムです。最近の動向として、オンライン予約、モバイルオーダーや非接触の決済方法の導入、デリバリーサービスの普及などがあり、POSシステムにこれらの機能を充実させているプロバイダが増加しています。その例には2021年3月にIPOを実施したOlo(オロー)や、2021年8月にIPOを実施したToast(トースト)があります。

一方で、レストラン業界にてテクノロジー活用が進んでいない分野に、設備修理・メンテナンスがあります。ResQにより2021年に実施された北米のレストラン約5000店舗を対象とした調査によると、レストランは平均して売上の3~4%を設備の修理とメンテナンスに費やしており、82%の設備担当者が修理業務をスプレッドシートや紙帳票で管理しています。また、88%のレストランが修理やメンテナンスの過去のデータを将来の投資へと活用できていないことが分かりました。調査報告では、レストランが過去の設備修理・メンテナンス履歴を活用して予防的なメンテナンスや投資を定期的に実施し、また業者との連絡のコストを抑制することで、修理やメンテナンスに要する費用を年間10~30%程度削減できるとされています。

今回ご紹介するGet ResQ Ltd.(ゲット レスキュー、以下ResQ)は、レストラングループと設備修理・メンテナンス業者をつなぐプラットフォームを展開しています。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

(注)The Insider’s Guide to Restaurant Repair and Maintenance

ResQとは

How ResQ Helps Restaurants from ResQ on Vimeo.

2018年にカナダのオンタリオ州トロントにて創業されたResQは、4,000以上のレストラングループに対してエンドツーエンドで設備修理・メンテナンスを管理するプラットフォームを提供しています。2021年10月に急成長する未上場テクノロジー企業に投資するTiger Global(タイガー グローバル)と、主に金融、ヘルスケア、マーケットプレイス業界におけるアーリーステージのIT企業への投資を担うCanvas Ventures(キャンバス ベンチャーズ)の共同主導で3900万ドル(約44.8億円)のシリーズA資金を調達しました。この資金調達は同社が750万ドル(約8.62億円)のシードラウンドを発表してからわずか数カ月後に行われており、これまでの合計調達額は4650万ドル(約53.4億円)となっています。

ResQの中核となるサービスは、レストランと設備修理・メンテナンス業者をマッチングするプラットフォーム、及び両者のコミュニケーションや支払いを管理するSaaSの運営です。修理・メンテナンスは空調、冷凍冷蔵、電気、水道、ガス、清掃など、広範囲の作業など広範囲をカバーしており、レストランはResQのプラットフォームを活用することで修理コストを20%削減、メンテナンスコストを35%削減、修理・メンテナンスにかかる時間を月間で30時間削減することができます。また修理・メンテナンス業者はResQの4000以上の顧客へとアクセスすることができ、また支払いを受け取るまでのコミュニケーションのコストを削減することができます。

マネタイズはレストラン一店舗ごとに課金する形態で、設備修理・メンテナンス業者からプラットフォーム使用料を徴収しています。また設備修理・メンテナンス業者の大半はレストランの既存取引業者をそのままプラットフォームへと誘導する形で獲得しているとのことです。前述のOloやToastがレストランと消費者をつなぐ「表面」におけるテクノロジー活用を目指しているとすれば、ResQはレストランと修理業者をつなぐ「裏面」におけるテクノロジー活用を目指している企業だと言えるでしょう。それゆえ同社CEOのKuljeev Singh(クルジフ シン)氏はOloやToastは競合する立場ではなく、協力できるポジションにあると述べています。

これまでにカナダでドーナツチェーンを展開するティムホートンズや、ステーキハウスチェーンのFogo de Chão、ピザハット、ケンタッキー、タコベル、丸亀製麺といった企業が導入しており、2021年4月から7月にかけての4ヶ月で契約者数を400%増やし、同時期に7州から36州へと事業を拡大しています。

ResQの修理・メンテナンス管理プラットフォーム

画像引用元:Get ResQ Ltd.公式ホームページ

ResQが運営するSaaSはデスクトップとモバイルの両方に対応しており、レストラン設備の修理・メンテナンス管理業務をより簡単にするための様々な機能が実装されています。以下一つずつご紹介します。

チャット機能

画像引用元:Get ResQ Ltd.公式ホームページ

レストランのオーナーと修理業者はチャットでコミュニケーションをとることができ、修理に関する疑問を直接修理業者に尋ねることができます。チャットでは修理箇所の写真を共有したり、修理の日程調整が可能です。事前に具体的な情報を共有できるので、修理業者は必要な道具や交換部品を事前に用意することができ、修理完了までに必要な時間を短縮することができます。チャットの履歴を後で確認することもできるので、監査の手間もかかりません。

ワークフロー管理機能

画像引用元:Get ResQ Ltd.公式ホームページ

ResQのSaaS上では、修理・メンテナンス作業依頼の作成・承認、進捗状況の管理、支払いといった一連のワークフローを一箇所で管理することができます。このワークフロー管理には、企業内のメンテナンスチームへのタスクのアサインや、請求書作成、支払い管理が含まれており、業務をペーパーレスにすることができるだけでなく、監査の手間も抑えられます。

インサイト分析機能

画像引用元:Get ResQ Ltd.公式ホームページ

ResQのインサイト分析機能には、コスト構造の可視化、定期メンテナンス・設備交換計画へのデータ活用、設備情報のリスト化といった機能が含まれています。過去の修理・メンテナンスデータに基づいてコスト構造を可視化することで、レストランの新規出店や撤退、設備交換など、より効率的な将来の投資計画策定に役立てることができます。また予防的メンテナンスのためにカスタマイズ可能な4000通りのプランが用意されており、突然の設備故障によるダウンタイムを削減したり、設備の寿命を伸ばすことができます。

ResQが蓄積するレストラン業界全体の設備修理・メンテナンスのデータに基づいて、厨房設備に対する保険などの金融事業や、修理・メンテナンス人材事業にも応用することができるといえます。

ステーキハウスチェーンでの活用事例

画像引用元:The Keg公式ホームページ

カナダを中心にステーキハウス、バーを100店舗以上展開するThe Keg Steakhouse + Bar(ケグ)はResQの顧客の一つです。Kegは出店数の増加に伴い各店舗における設備修理・メンテナンスのコストが増加し、Keg本社における担当者の業務を圧迫していました。そのためKegの担当者は、設備修理・メンテナンスを各店舗で管理できるように権限を分散する必要がありました。

ResQのソリューションは、①各店舗と本社間のコミュニケーションをemailからResQのSaaSへと乗り換える、②過去の修理履歴から、設備修理・メンテナンスの意思決定を迅速化するというものでした。ResQを導入することで各店舗の担当者とのコミュニケーションが容易になり、各店舗での設備修理・メンテナンスの生産性を70%向上させることができたということです。また、SaaSの効果が実感されるまでにかかった時間は平均で約90日でした。

コロナ禍における飲食店サポートの取り組み

画像引用元:Get ResQ Ltd.公式ホームページ

新型コロナウイルス感染症拡大はレストラン産業に甚大な影響を与えました。ResQは2020年4月より寄付金を原資として、ResQが顧客とするレストランからお弁当を購入し、病院等で新型コロナに対応する医療従事者に届ける事業を開始しました。この取り組みは75のレストランと4つの病院で行われ、これまでに5000食以上が届けられたということで、コロナ禍でのレストランと医療従事者へのサポートに貢献しています。また弁当の配送にはResQが顧客とする設備修理・メンテナンス業者が参画しています。

また、ResQは同社Web上で新型コロナ対策のチェックリストを公開しました。このチェックリストはレストランのオーナーが店舗を再開するために必要な健康や安全に関するガイドとなっており、衛生管理の方法や、非接触方式の導入、感染を拡大させない導線の作成方法といった項目が並んでいます。

まとめ

いかがでしたか?今回はレストラン業界向けに設備修理・メンテナンス管理SaaSを提供するResQをご紹介しました。同社はコロナ禍でレストラン業界が打撃を受ける中、レストランの設備データの新たなビジネス活用を模索しています。今後の展開が注目されます。日本においてもレストラン設備のDXなど余地があるかもしれません。