レンガ積みに革命!?3日で家を建てるロボット「Hadrian X」とは?

海外事例

・6000年間、人間は手でレンガを積み上げてきた
・FBRはレンガ積みロボットを開発し、3日で家を完成させた
・独自の素材や技術で、高い安全性と作業速度を実現している

はじめに

人間はなんと6,000年もの間、同じ方法でレンガを積み上げてきたと言われています。その手作業は現代の建設現場でも続いており、その過酷さや高齢化から、レンガ工の人手不足が問題視されていました。その上、現代のレンガ積みにおいては、ミスによる破損、余分なレンガの廃棄と、とにかく大きな“無駄”が生まれていたのです。本記事では、この問題を最新のテクノロジーで解決したオーストラリアの企業「 FBR (旧 Fastbrick Robotics)」をご紹介します。

構想10年のロボットを開発!FBRとは?

画像引用元:https://twitter.com/FBR/status/1108986711944712192

FBR(エフビーアール)は、オーストラリアに拠点を置く建設テクノロジー企業です。同社では、コンピューター制御されたロボットが自動でレンガを積み上げる技術の開発に成功、特許の取得もしています。

CEOであるMike Pivac(マーク・ピヴァック)氏がこの構想を持ったのは1994年。そこから試行錯誤の末、ようやく2005年にプロトタイプが完成しました。その後は経済の冷え込みにより開発を一時中断しますが、2014年に再開。2015年には、オーストラリア証券取引所に上場。そして、現在に至るまで飛躍的な進化を遂げてきました。

では、そんな同社が開発した建設ロボット「Hadrian X (ハドリアヌスエックス)」について、詳しくみていきましょう。

レンガ積みロボット、Hadrian Xとは?

画像引用元:https://twitter.com/Expo2020Aus/status/1216261033846886400/photo/2

Hadrian Xは、FBRが開発した自動でレンガの積み上げを行うロボットです。基本的にはトラックに積載して移動し、現地では伸ばしたアームでそのままレンガの積み上げを開始することができます。そして、その積み上げ速度は1時間に1000ブロック以上。加えて、夜間でも作業を続けることが可能なため、従来の人が積み上げていた場合とは比べ物にならないほどスピードアップしています。

こうした精密な動きは、Hadrian Xの中に埋め込まれたインテリジェント制御システムに秘密が。これが3DCADの図面を基に材料を計算し、次に何を作るべきかをHadrian Xに伝え続けます。しかも、必要なブロック数と大きさに応じて、自動でレンガのカットまでを行います。これによって、材料の廃棄やミスによるコストを減らし、従来の方法に比べて住居を安価に提供できる結果に繋がっています。

画像引用元:https://www.fbr.com.au/view/dst

FBRが開発したもう一つの重要な技術、それがDynamic Stabilisation Technologyです。これは、Hadrian Xがレンガを持ち上げた際の風や振動による揺れを自動計測し、1 秒に数百回もの調整を行うシステム。これによって、安全かつ正確な設置が可能になり、建物の品質向上、事故やミスの軽減に繋がっています。

ロボットに最適化した建材を開発

FBRは更に効率良くレンガを積み上げていくために効率化した工程を、Fastbrick Wall System(ファストブリックウォールシステム)と呼んでいます。そして、それに欠かせないのが、ヨーロッパを代表する建材メーカーの1つである「Wienerberger AG(ヴィーナーベルガー)」とのパートナーシップ締結でした。FBRは同社に、Hadrian Xに適した独自のブロック開発を依頼。その結果、従来のレンガの約12倍の大きさで、軽量かつ強度のあるものが完成しました。これは、人間が持つことを想定しなくて良い、Hadrian Xならではのブロックだといえます。

また、Fastbrick Wall Systemを支えるもう一つの要素が、FBRが扱う特殊な接着剤。従来、レンガの接着にはモルタルが用いられ、施工してから乾燥までに24時間はかかると言われていました。ですが、特殊な接着剤はわずか45分で硬化する上、モルタルよりも高い強度を誇るのだといいます。これまで、モルタルの乾燥のために多くの作業が中断されてきましたが、それがなくなることで、更なるコストの削減に繋がっています。

3日で家が建つ!?屋内・屋外で実証実験

このように、高い性能を持つHadrian Xは2018年、なんとわずか3日間で180平米の住居を建てることに成功しました。しかも、小屋のようなものではなく、オーストラリアの建築基準法をクリアしていると言うのだから驚きです。

翌年の2019年にはHadrian Xによる初の屋外建設を開始。これまでは屋内での実験レベルだったのですが、屋外では、風雨やオーストラリアでの厳しい暑さや風に耐えられる必要がありました。結果、Hadrian Xは問題なく機能し、FBRのテクノロジーが屋外環境に耐えうるものであると証明されたのです。彼らはこれを「BUILD1」と呼び、今回の反省を踏まえたプロジェクトを継続的に行い、精度を高めていくと話しています。

FBRの今後

画像引用元:https://www.fbr.com.au/view/news-articles/first-outdoor-build-complete-20200121025715

屋外の建設も完了させた彼らは、既に次のステージを見据えています。手始めに、ブロックの開発でパートナーシップを締結していたWienerberger AG社とは、既にヨーロッパにおけるパイロットプロジェクトを進行中。加えて、サウジアラビア王国とは、50,000 戸の新規住宅建設プロジェクトの覚書に署名したところなのだとか。

また、Hadrian Xはまだ市販されていませんが、これに関しても価格や購入方法について近いうちに情報を出すとしています。こうしたFBRの躍進で、建設現場のあらゆる場面にHadrian Xが登場し、レンガ積みにおける常識は大きく変わっていくことでしょう。

まとめ

近年、テクノロジーの進歩によって、3Dプリンターが家を建てるなどの話をよく聞くようになりました。それと同じく、FBRのロボットによるレンガ積みも、これからの住宅建設を一気に効率化していきそうです。そして、これまで手作業に従事していた作業員たちがより安全で、長期的に勤められる仕事に就いていく未来も期待させてくれます。今後のFBRの同行にも、注目しましょう。