- 建築士やインテリアデザイナーにとって、建材サンプルの選択と取り寄せは時間とコストがかかる
- 2018年アメリカ創業のMaterial Bankは、建材サンプルを取り扱う世界最大のマーケットプレイスとしてユニコーンの評価を得ている
- Material Bankは2023年秋に日本市場へと正式に参入した
はじめに
建物のUI(ユーザーインターフェイス)ともいえるインテリアデザインは、建設プロジェクトの最終工程であり、利用する人々の空間への感じ方に最も影響する、重要な工程であるともいえます。このインテリアデザインでは、床、壁、天井の全てにおいて様々な建材が使用され、その組み合わせは無限大です。しかし様々な建材を異なるメーカーからいちいち取り寄せるのには、かなりのコストがかかります。そのため建材探しとそのサンプル選びは、デザイナーにとって最も時間のかかる苦痛の種でした。そこで今回ご紹介するMaterial Bank® (マテリアルバンク)は、建材サンプルマーケットプレイスとして、建材メーカーのサンプルを網羅。ワンストップで提供することで、この悩みを解消しました。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
世界最大の建材サンプルマーケットプレイスMaterial Bank®️とは?
Material Bank®は2018年にアメリカ合衆国フロリダ州マイアミで創業された、建材サンプルマーケットプレイスのユニコーン企業です。現在はマイアミとニューヨークに二つの拠点をおき、北米、ヨーロッパ及び日本にて事業を展開しています。2022年5月にシリーズDで1億7500万ドル(約265億円)を調達し、累計調達額を3億2300万ドル(約487億円)としました。CEOのAdam Sandow(アダム サンドウ)氏は2003年にメディア企業のSANDOWを設立しており、2005年にはインテリアデザインブランドのLuxeを立ち上げ、2010年にインテリアデザイン部門を情報誌企業Reed Elsevierから買収しています。Material BankはこのSANDOW傘下の企業にあたります。
Material Bank®が展開するのは、様々なブランドの建材サンプルを1つのサイトで素早く検索でき、日付が変わる前に注文すれば、最短翌朝に受け取ることのできるマーケットプレイスです。複数ブランドの横断検索ができ、一括請求システムも可能。物流設備を確立させていることにより、デザイナーは無料でサンプルを取り寄せることができ、業務の効率化を図ることができます。創業地アメリカでは2019年にサービスを開始し、11万人のデザイナー、大手設計事務所200社のうち99%が利用。1日あたりに発送する建材サンプルの数はおよそ10万個にも及びます。
2021年には日本における市場調査とローカライズ方法の検討のため、ソフトバンク出身の中沢剛氏をCEOとしてDesignFuture Japan(デザインフューチャー ジャパン)株式会社を設立。同社を通じて2023年1月より実証実験を開始しました。モニターとして実証事業期間中の目標としていた200ブランドの参画がまもなく達成されることから、2023年10月18日に日本版サービス「Material Bank® Japan」(マテリアルバンク ジャパン)を正式に公開しました。2023年8月時点での取り扱い在庫の製品個数を示すSKU(注)は5万個を超えています。
さらに2023年9月には、天井照明のスマートホームソリューションを展開するSKYX Platforms(スカイエックス プラットフォーム)との業務提携を締結し、SKYXの製品の販路拡大に向けて取り組んでいます。
注)Stock Keeping Unitの略。受発注や在庫管理の最小管理単位。同じ製品でも色やサイズが違うものは異なるSKUとしてカウントされる。
倉庫オートメーションにより配送効率を向上
Material Bank®の強みは、取り扱う建材の規模の大きさだけではありません。建築士やデザイナーが建材を選択し、デザインするまでの時間が圧倒的に短く、そしてコストが低いのです。建材メーカーやベンダーがマーケットプレイスに自社製品を掲載する費用は月数千ドルほどで、これに合わせて、建材サンプルがコンシューマーに発送される度に料金が発生します。しかしデザイナー側は以上のソリューションを無料で利用することができます。
配送の効率化にも積極的に取り組んでいます。Material Bank®の倉庫では、社名入りの鮮やかな黄色の背表紙をつけたロボットが、棚から商品を荷台へと移しています。これらのロボットはLocus Robotics(ルーカス ロボティクス)が提供する、「LocusBots」という製品です。Locus Roboticsは倉庫ロボットのトップ企業で、eコマースの普及をてこに業績を拡大。最近ユニコーンの評価を得ました。Material Bank®️は2018年に同社の「LocusBots」10台をテストとして導入し、現在は150台のロボットが同施設で働いています。
こうした倉庫自動化の取り組みにより、規模に対する従業員数は少ないものの、倉庫従業員の時給は最低賃金7.25ドルを大幅に上回る17.50ドルとなっており、200名を雇用しています。
2023年に入ってから同社はヨーロッパ及び日本での市場開拓を進めていますが、それによって狙っているのが、クロスセル、すなわちドメスティックブランドを海外市場へと進出させることです。これは世界のデザイン業界や市場への新規参入を促し、市場を流動化させることにつながります。
デザイナー向けのプロジェクトマネジメント機能
Material Bankはマーケットプレイスだけでなく、以下のデザイナー向けのプロジェクトマネジメント機能も備えています。
- マテリアルデスク: マテリアルボードをオンラインで簡単に作成し、チームやクライアントに素早くシェアできる
- クリップボード: 建材をピン留めし、整理、共有できる
- フィルター: プロジェクトに適した建材を素早く見つけられる
- プロジェクトのフェーズ管理: 基本設計から施工管理まで、サンプルを取り寄せているプロジェクトがどの段階にあるかを確認できる
- インスピレーショナルパレット: ブランドを横断した建材のパレットを定期的に更新しており、パレットにある建材のサンプルオーダーができる
まとめ
いかがでしたか?今回は世界最大の建材サンプルのマーケットプレイスMaterial Bankをご紹介しました。Material Bankは設計事務所大手、すなわちコンシューマを独占し、建材ブランドやメーカーの掲載を拡大しています。またロボティクスによる倉庫の自動化にも取り組んできました。2023年秋に日本でのサービス開始が正式にアナウンスされましたが、その展開も含めて、今後の動向が注目されます。