- 新型コロナウイルスの感染拡大が欧州や中東における不動産業界のデジタルトランスフォーメーションを促進
- ドバイのスタートアップ企業Nomad Homesは、個人向け賃貸・販売物件をマッチングし、賃貸・購入契約をオンラインで完結できるサービスを提供
- Nomad Homesは2020年の創業後1年でフランス・パリへとサービス拡大。2021年度上半期にユーザー数が16倍に成長
はじめに
Multiple Listing Service(マルティプル リスティング サービス, MLS)とは、不動産情報をデータベース化して一元化する仕組みのこと。主に不動産仲介業者の取引を支援するためにアメリカで発達し、日本でも不動産流通機構が管理・運営するREINS(レインズ)と呼ばれる不動産物件システムが使われています。日本の不動産仲介業者は多くの場合REINSを通して物件情報を共有しているため、家の購入や賃借を検討している消費者は、未公開物件でない限り不動産仲介業者を通じてREINS上に公開されている物件情報にアクセスできます。
一方で中東ではこうしたMLSが発達していません。例えばアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイの不動産仲介業者Better Homes(ベター ホームズ)は30年の仲介実績がありドバイ周辺の物件情報を掲載する不動産ポータルを運営していますが、掲載数は1000件を下回っています。自社で情報を仕入れる必要があることから掲載件数に限界があるのです。
また、不動産情報データベースが存在しないということは、不動産仲介業者によって扱う不動産が異なっていたり、同じ物件が異なる条件でリスティングされることを意味します。同じく欧州でもMLSのような仕組みは存在するものの、各国ごとに市場が細分化されており、仲介業者ごとの情報の非対称性が高いことが特徴です。
こうした業界の特徴から、不動産仲介業における新興サービスは掲載物件の数や質で勝負するのではなく、(1)不動産仲介業等におけるプロセスのデジタル化、バーチャル化、(2)日常業務のデジタル化(3)AIソリューションがトレンドとなっています。(注)
今回ご紹介するNomad Homes(ノマド ホームズ)は、(1)不動産仲介業等におけるプロセスのデジタル化、バーチャル化、(3)AIソリューションの2分野を組み合わせ、UAE・ドバイ、そしてフランス・パリでオンライン不動産マーケットプレイスを展開しています。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
(注)PropTech in Europe: Four trends and (still) no Unicorn
Nomad Homesとは?
Nomad Homesはアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに拠点を置いている2019年創業の不動産テック企業です。2020年にオンライン不動産プラットフォームをリリースし、現在ドバイとフランスのパリを中心に展開しています。
2021年9月にはシリーズAで2000万ドル(約23億円)を調達し、これまでの合計調達額を2400万ドル(約27億円)としました。主要投資家としてTwitterの元幹部Dick CostoloとAdam Bainが共同で設立した投資ファンド01 AdvisorsとThe Spruce House Partnershipが参画しています。その他、不動産テック企業出身起業家がエンジェル投資家として参画しており、Zillow(ジロウ)の共同創業者で元CEOのPacaso Spencer Rascoff、Opendoor(オープンドア)のCEO、Eric Wu、元Compass(コンパス)のCOO/CFO、David Sniderが名を連ねています。
Nomad Homesは2020年の創業後1年でフランス・パリとサービスを拡大。2021年度上半期にユーザー数が16倍に成長しており、今後はEMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)特に南ヨーロッパでのサービス拡大に向けた準備を進めています。
Nomad Homesのサービス
Nomad Homesは、地域の不動産仲介業者と提携して独自のMLSを作成し、自社のマーケットプレイスを通じて消費者に物件を紹介しています。消費者は物件検索から融資、すべての書類への署名まで、住宅購入者が必要とするすべての情報をオンライン上で完結できます。また契約プロセスのデジタル化だけでなく、オンライン内覧などプロセスのバーチャル化にも力を入れています。
Nomad Homesの独自性は、機械学習により物件の借り手・買い手におすすめの物件をリスティングする機能にあります。Nomad Homesのポータル上で物件を検索するとユーザーはいくつかの質問への回答を求められます。この回答を元にNomad Homesは独自のアルゴリズムで物件を提示します。これにより成約率を高め、不動産マーケットプレイスは不動産仲介業者から掲載料や広告費を受け取るビジネスモデルが一般的ですが、Nomad Homesは、成約時に消費者から仲介手数料を受け取り、その一部を仲介業者に支払うというビジネスモデルとなっています。
また、Nomad Homesはアナログな対応が必要なプロセスでは業界の従来のやり方を踏襲しています。例えばユーザーが物件の契約を希望した後はNomad Homesの正社員である「ノマド・アドバイザー」が専属でユーザーにつきます。このノマド・アドバイザーはユーザーの窓口となり、エージェントとユーザーの間でのスケジュール調整等の役割を担います。
今後の展開
Nomad Homes共同創業者の一人であるHelen Chen(ヘレン チェン)氏はインタビューの中で、「ユーザーがこのプラットフォームを通じて住宅ローンを確保できるようにすること」を目標として掲げています(注)。不動産分野の金融業では、AIを使った与信審査や、映像解析やビッグデータを用いた住宅査定といったデジタル化の動きが急速に広がっています。
不動産テック企業から住宅ローンの貸し手の銀行と借り手・買い手をマッチングしたり、与信審査を行うフィンテック企業を目指すのは自然な流れだと言えるでしょう。
(注)Generation Start-up: How a Dubai PropTech is simplifying home buying with algorithms
まとめ
いかがでしたか?2019年にUAE・ドバイにて創業されたNomad Homesは地域の不動産仲介業者と提携し、独自のMLS(不動産データベース)を構築しています。また、機械学習を利用した借り手・買い手への物件マッチングサービスやオンライン契約を提供しています。
新型コロナウイルスの感染拡大が欧州や中東における不動産業界のデジタルトランスフォーメーションを促進しており、同地域の不動産市場におけるテクノロジー企業への投資額は年々増加傾向にあります。このような中、Nomad Homesがどのように展開していくのかが注目されます。