- ドローンによる空撮、レーダー測量が普及している
- Wingtraの次世代ドローンの登場により、測量の精度と効率を飛躍的に高まった
- 精密な測量を行う場合でさえ、地上からの調査が不必要になりつつある
はじめに
土地利用にあたって、測量は非常に重要な作業です。土地の形状、建築物の高さや形状、河川の流量、土砂量など、多様な測量対象があり、それに応じて様々な測量方法があります。
従来の空撮による写真測量・レーダー測量では、セスナ機などの有人航空機が使用されており、設備投資や操縦士の育成に非常にコストがかかっていました。しかし、ドローンの登場により設備投資は比較的安価に抑えることができるようになり、また測量現場でドローンを離着陸させることが可能となったため、この空撮による測量のコストは大幅に減少していきました。
日本においても高い安定性や操作性を持つドローンや、高精度のカメラ、レーダーなどの測量機器が開発されていますが、スイス発の測量用ドローン開発企業Wingtraのドローンは、まさに破壊的イノベーションと言えるでしょう。
今回はそのような次世代ドローンを開発しているWingtraをご紹介します。
Wingtraとは?
スイスのチューリッヒに本社を置くWingtra(ウイングトラ)は、WingtraOneという次世代ドローンの開発を行なっています。このWingtraOneは、2013年よりスイスのチューリッヒ連邦工科大学(ETH Zurich)に設置されている自律システム研究所(Autonomous Systems Lab)によって研究開発が行われ、2017年に商用生産が開始されました。
このWingtraOneは垂直離着陸(VTOL, Vertical Take off and Landing)、自律飛行が可能で、カメラやレーダーなどの測量機器を搭載することで広範囲の空撮ができます。また、50以上の企業や研究所と協力し測量機器やデータの解析ソフトの開発を行なったことにより、測量技術やその解析技術は既製品を大きく上回っています。この技術が認められ、2016年にはSwiss Excellence Product Awardに選出されました。
Wingtra社は2019年に9百万ユーロ(約10億円)の資金調達を実施しており、R&Dおよび海外市場への参入を進めています。
Wingtraoneのスペックは?
参照:https://youtu.be/ahSASWrR_AI
WingtraOneは全長約1.2m、重さ3.7kgで、最大800gまでの荷物を搭載可能で、最大で約1時間、50kmの距離を飛行、400haに渡る土地を測量することができます。
最大の特徴は、固定翼でありながら垂直な離着陸ができる点にあります。固定翼のドローンはその飛行安定性と航続距離においてマルチコプター式のドローンを上回っています。しかし、運搬能力が低く、また着陸時の衝撃も比較的強いため、重量のある高解像度の撮影機材を搭載することには向いていませんでした。
一方で、マルチコプター式のドローンは垂直な離着陸ができることから、撮影機材を安全に搭載することができます。
WingtraOneは、固定翼の強みである飛行安定性と航続距離、マルチコプター式の強みである運搬能力を活かし、高解像度で広範囲の測量を可能にしました。
測量機器の交換が容易にできる
WingtraOneの荷室は用途に応じて様々な測量機器を搭載するため、簡単に測量機器の載せ替えができるようになっています。もっとも高性能なカメラで0.7cm/pxもの解像度を実現しており、砂漠や森林地帯など、一様な景色が広がっている測量地でもはっきりと物体や地形を識別できるデータを取得することができます。
また、測量機器を載せ替えることで、マルチスペクトル画像を取得することもでき、地形調査だけでなく、植生や資源の調査も行うことができます。
直感的なインターフェイスと自律飛行システム
WingtraOneは自律飛行に対応しており、WingtraPilotという専用のソフトウェアで飛行計画および測量内容を設定すると、離着陸を含め自律して飛行させることができます。
このソフトウェア上では測量計画の設計から飛行設定、測量したデータのモニタリングを行うことができ、オペレーターは特殊な訓練を行う必要がありません。
WingtraOneの登場で期待されること
ドローンによる空撮技術は年々進歩しており、これまで以上に広範囲に、高解像度、短時間の測量ができるようになりました。WingtraOneはその技術水準を大いに高めたと言えるでしょう。また、これまで精密な測量をするためには地上からの調査が不可欠でしたが、WingtraOneをはじめとする高性能ドローンの登場により、その作業はおおいに効率化されました。
固定翼のVTOLドローンは商用化が始まったばかりの新しい技術であると言えます。その飛行能力や運搬能力を活用し、他社製品においては遠隔地への物資運搬や測量、インフラ点検などに使用する実証実験も行われており、今後Wingtra社のドローンをはじめとして固定翼のVTOLドローンは様々な場面で利用が普及するでしょう。
日本におけるドローン市場
2019年度の日本のドローン市場は約1450億円で、前年度の約931億円と比べ56%増となっており、今後2024年度までに市場規模は5000億円(2019年度の約3.4倍)を超えると見込まれています。
特に2018年度以降のサービス市場は2018年度は前年比134%増の約362億円、2019年度は前年比80%増の約657億円と顕著な伸びを見せています。今後も各市場で拡大が見込まれています。
サービス市場では農業、点検、土木・建築部門ですでに市場が形成されています。今後は遠隔地への自律飛行や非GPS下での安定飛行といった技術的課題が解決されていくことで、中山間地域への物流、設備やインフラの点検分野で市場が拡大していくことが見込まれます。
まとめ
ここ日本においても公共測量の基準を満たす精度での測量を行うことができるドローンが開発されており、ますますドローンの活用事例は増加しています。今後も利用が普及する中で省力化や工期の平準化が進み、建設産業全体の生産性の向上に繋がることが期待されるでしょう。