トイレから始める労働改革!建設大手Leadleaseが取り組む新しい現場のカタチとは?

© 2020 J. Brown Photography 引用元:https://www.pbctoday.co.uk/news/modular-construction-news/modular-bathroom-pods/85455/
海外事例
  • オーストラリアの建設・不動産大手LendleaseがB&T Manufacturingと提携しモジュラーバスルーム”H³”をリリース
  • 高層階に設置することができるこのトイレは、作業の効率向上や労働者の環境改善に効果的
  • UVライトなどのオプション機能で、新型コロナウイルスなどの対策にも効果が期待される

はじめに

建設業界は現在、いくつもの業界の存続に関わる大きな問題を抱えています。そのうちのひとつにが「労働力の不足」です。それぞれの企業がAIやロボットテクノロジーなどで問題にアプローチをしている中、オーストラリアに拠点を置く不動産・建設の大手企業Lendlease(レンドリース)は、建設現場の仮設トイレという新しい視点から、労働環境の改善に取り組んでいます。

Lendlease社は、オーストラリア・シドニーに本社をかまえ、世界中で不動産・建設ビジネスを展開しています。メルボルン・クォーター、シカゴのリバーライン、ロンドンのエレファント&キャッスルをはじめとした大規模な都市再生プロジェクトや、東京の汐留シティセンター、シンガポールのjem、台北101をはじめとした街の新たなランドマークを創る建設プロジェクトも手掛けています。

トイレが変わると仕事が変わる?Lendleaseの挑戦

建設現場のトイレの環境は一般的に劣悪とされており、日本でも花火大会やイベントなどで仮設トイレを使用したことがある人であれば、その状況を想像することは難しくありません。換気がされない上に、汲み取り式のため、便槽に汚水が貯留され、悪臭の原因にもなっていました。また、高層階の建設現場においては、用を足すためにトイレが設置されている下層階まで降りていく必要があり、作業効率を低下させる要因ともなっていました。

このような背景の中、環境の改善計画の一環としてLendleaseが着目したのが、高層階にも設置が可能なモジュラーバスルームでした。「H³」(エイチスリー)と呼ばれるこのトイレは、Lendlease社と、モジュール式鉄骨構造製品の製造を行なうアメリカの企業 B&T Manufacturing(ビーアントティー マニュファクチュアリング)社の提携により開発され、大きな話題を呼んでいます。その具体的な仕様について見ていきましょう。

モジューラーバスルームH³とは?

© 2020 J. Brown Photography 引用元:https://www.pbctoday.co.uk/news/modular-construction-news/modular-bathroom-pods/85455/

H³の最大の特徴は、“常設のトイレとほとんど変わらない使用環境で用を足すことのできる仮設トイレ”であるという点です。密閉された空間に、陶器で出来た便器。そして空気を循環させ、快適な空間を保つ換気扇のついた庫内。さらには、手洗い場やハンドドライヤーまでもを備えた持ち運び式のバスルームなのです。なお、汚水は高さを利用して下水に流す、もしくは浄化槽を一時的に設置して処理することが可能となっています。

引用元:https://www.h3hub.net/

また、特筆すべきはその可動性。H³は建設現場用の昇降機に収まるサイズ感に設計されているため、垂直移動を容易とします。本体にはキャスターも設置されており、バスルームを自由に移動をさせることができます。

引用元:https://www.h3hub.net/

配置の自由度も高く、単体・並列どちらでも配置させることが可能です。性別の違う作業員に向けて、別々のバスルームを用意することもできるのです。

引用元:https://www.h3hub.net/

衛生面におけるオプションも豊富に用意されていることもH³の特徴のひとつ。新型コロナウイルスをはじめとする感染症対策として、殺菌効果を持つUVライトを追加することも可能です。利便性を追求し、トイレから人が離れると自動でドアが閉まり、UVライトがオンになるという高性能も注目すべき点でしょう。また、空調がなく夏は暑く、冬は寒いという環境の建設現場に向けて、空調を追加で設置することも可能です。

このような仕様から、H³は建設現場だけではなく、商業施設やイベントなどの仮設トイレに変わる新しい選択肢としても注目されています。

トイレが変われば現場が変わる。H3に期待されること。

引用元:https://www.lendlease.com/ja-jp/about/lendlease-japan/

今回ご紹介したモジュラーバスルーム「H³」ですが、なぜ、“トイレの環境改善”というトピックがここまで注目を浴びるのでしょうか。このプロジェクトにより、建設現場にどのような効果がもたらされるのか、期待されることを考えてみましょう。

 

作業効率の向上

冒頭でも紹介した通り、高層建設の現場において、トイレ休憩に行くことは非常に大きなタイムロスとなります。これまでも高層階の現場に置くことのできる仮設トイレは存在していたのですが、海外の現場の仮設トイレはドアが上下に大きく開いており、プライバシーが守られない環境であったため、使用にはストレスを強いられるものでした。こういった背景から、現場で働く人々は結局、低層階に設置されたトイレへ行く必要があったのです。建設現場が高層階であればあるほど、移動にかかる時間が長いため、トイレに行く際に作業を遮ることがストレスになったり、トイレ休憩を取得しずらい環境になってしまったりすることは、長い間問題視されながらも、仕方がないことだとされてきました。H³は高層階への設置や、内側からの施錠が可能という条件から、トイレ休憩にかかる時間を最低限に留め、作業効率を向上させることが期待されています。

 

衛生環境の向上

昨今の新型コロナウイルスの流行を受け、衛生環境の向上は建設現場においても非常に重要な問題のひとつとなっています。H³は便座がフロート(宙に浮いている状態)仕様のため、掃除がしやすく、床の衛生を保つことができます。また、家庭で使われているような掃除用具、掃除用洗剤などでの清掃が可能です。さらにはオプションでUVライトをつけることもできるため、過酷な環境でも最善の衛生環境を実現しました。

労働環境改善による労働力不足の解消

Lendleaseの採用担当者は、「トイレ問題の改善が、既存の労働者への敬意を示し、新しい若手社員の採用に繋がると信じている」と語ります。デスクワークをしている多くの人にとって、安全かつ快適なトイレ環境は当たり前とされていますが、海外の建設現場におけるトイレの環境は非常に深刻です。清潔でプライベートなトイレを提供することが、労働者の士気を高め、現場の人々にプラスの影響を与えるソリューションであると考えています。また、これらの取り組みが採用におけるダイバーシティの推進にも繋がることも期待されます。

まとめ

建設業界か抱える問題に対し、トイレという新しい視点から改善に取り組むLendlease。H³はすでにアメリカ・ニューヨーク、サンフランシスコ、シカゴなどの高層建設現場において導入されているとのこと。大手企業がこれまで後回しにされてきた労働環境の改善に取り組む姿は、業界全体に影響を与えることが期待されます。