CO2を鉱物化するイギリス発スタートアップ44.01

画像引用元:Protostar Group Limited公式ホームページ
海外事例
  • 気候変動対策の一環として、炭素を分離・回収・貯留するCSS(Carbon dioxide Capture and Storage)技術が注目されている
  • イギリス発のスタートアップ、44.01は、地球内部を構成する岩石を利用しCO2を鉱物化する技術に取り組んでいる
  • 44.01は中東オマーンにて2024年度までに商業実証プロジェクトを開始する予定

はじめに

画像引用元:Protostar Group Limited公式ホームページ

気候変動対策の一環として、炭素を分離・回収・貯留するCSS(Carbon dioxide Capture and Storage)技術に注目が集まっています。CSSとは、CO2を空気中から分離して固定することで空気中のCO2の削減を目指すものであり、有用な化学物質に変換する物理化学的方法や、植物に固定させる生物学的方法、地中の安定した地層内に圧入するといった様々な方法が考案されています。日本では2012年度より北海道の苫小牧にて大規模な実証実験が行われており、2019年度までに30万トンのCO2を地下貯留層へと圧入され、現在そのモニタリングが続けられています。

CSS技術は今後技術開発が進んでいく分野の一つです。そこで今回は、イギリスでCO2を「鉱物化」するCSS技術の開発に取り組んでいるスタートアップ、Protostar Group Limited(プロトスター グループ、ブランド名は44.01)をご紹介します。一体どのような企業なのでしょうか。詳しくみていきましょう。

CO2を鉱物化するスタートアップの44.01とは?

画像引用元:Protostar Group Limited公式ホームページ

Protostarは、2020年にイギリスに創業されたCO2鉱物化サービスの技術開発と運営を行う企業で、二酸化炭素の分子量に由来して「44.01」というブランド名を持ちます。現在オマーンを皮切りに、アラブ首長国連邦など中東諸国を中心にプロジェクトを展開しています。

2021年8月には、シードラウンドにてアメリカのApollo Projects(アポロプロジェクツ)より500万ドル(約7億4600万円)を調達。2022年11月には、日本の住友商事との資本業務提携を発表。2022年12月には、グラント(研究費)としてイギリスのEarth Prize(アースプライズ)より100万ユーロ(約1億5700万円)を調達しました。

共同創業者のTalal Hasan(タラル ハサン)氏、及びKaran Khimji(カラン キムジ)氏は、これまでに環境工学及びエネルギー関連企業での経営経験があり、技術者トップには、自動化技術及び水技術の専門家であるEhab Tasfai(エハブ タスファイ)氏が就任しています。CO2鉱物化関連の研究者も多数在籍しており、CO2鉱物化技術を確立している点に強みを持ちます。

天然かんらん岩がCO2と反応する性質を応用

画像引用元:住友商事「英国のCO2鉱物化スタートアップとの資本業務提携~脱炭素ビジネスを通じ、気候変動の緩和に貢献~」

44.01は、天然に分布するかんらん岩がCO2と反応する性質を利用しています。かんらん岩は地球内で最もありふれた岩石の一つで、中東、米国、欧州、日本などでは地表付近に多く存在していることが確認されています。かんらん岩は自然環境においてもCO2と反応し、蛇紋岩及び方解石になることが知られています。

44.01はこの反応のプロセスを加速化させる技術を開発。まず、再生可能エネルギーを用いてCO2を大気中から分離・回収します。これらを液状化させ、地下のかんらん岩帯に圧入、かんらん岩とCO2の反応を促進させます。かんらん岩と反応して固定されたCO2量をモニタリングし、これを二酸化炭素排出権として企業に販売するのです。44.01はこのプロセスを最適化するための実証プロジェクトをすすめています。

大気中からCO2を分離・回収する際に再生可能エネルギーを使う仕組みや、一度反応して固定したCO2が、理論上は再度大気中に放出されることがないという性質から、44.01のCSS技術は費用効率が高く、二酸化炭素排出権取引市場においてプレミアの評価を得ています(注)。

注)Protostar Group Limited公式ホームページより

オマーン国エネルギー鉱物省と二酸化炭素除去プロジェクトの協定を締結

画像引用元:Protostar Group Limited公式ホームページ

44.01とオマーン国エネルギー鉱物省(Ministry of Energy and Minerals)は、2023年5月に、世界初の商業規模かんらん岩鉱物化プロジェクトに向けた協定を締結したことを発表しました。 本プロジェクトは、2024年度中にオマーン北部のハジャール山脈にて開始され、1日あたり数トンのCO2をかんらん岩と鉱物化させる、商業実証としては世界最大規模のプロジェクトとなる予定です。

オマーンは全土にかんらん岩が豊富に分布することで知られており、本プロジェクトは、オマーンで定められたエネルギー目標2040に向け、国内産業の脱炭素化に向けた取り組みの一つとして位置付けられています。

これに先立ち、44.01は2022年4月に空気中から二酸化炭素を分離・回収する技術を開発しているMission Zero Technologies (ミッション ゼロ テクノロジーズ、以下MZT)とのジョイントプロジェクト、Project Hajar(プロジェクト ハジャール)を開始しています。これはMZT独自の電気化学的直接空気回収(DAC)技術と、かんらん岩地層中の鉱物化による44.01の永久隔離機能を組み合わせたものです。

このプロジェクト・ハジャールは、イーロン・マスク氏による炭素除去コンペティションXPRIZE(エックスプライズ)によって$1M Milestone awards(100万ドルのマイルストーンアワード)として選定されました。オマーン国における商業実証を通じて、最低1000トンCO2/年の炭素除去運転を実施することで、2025年度にXPRIZEから100万ドルの提供を受ける予定となっています。

まとめ

画像引用元:Protostar Group Limited公式ホームページ

いかがでしたか?今回はCO2の鉱物化に取り組むイギリス発のスタートアップ、44.01をご紹介しました。44.01は、CO2の分離・回収に再生エネルギーを用いるため、プロセスにおいてCO2を排出しないという点、及び、天然かんらん岩がCO2と反応する性質を利用して恒久的にCO2を固定化できるという点に強みを持っています。

気候変動対策への取り組みが地球規模で加速していく中、44.01のアプローチはCSS技術において主要な位置付けを得ることができるのでしょうか。今後の動向が注目されます。