- WeWorkは巨額の評価額をもとに合計21社を買収
- WeWorkはオフィス関連スタートアップ以外にも様々なジャンルを買収
- WeWorkはシェアオフィス業だけでなくオフィスサービスのソフトウェア化を目指していた
はじめに
シェアオフィスWeWork(ウィーワーク)運営のWe Companyですが、上場中止から一転、創業者のアダム・ニューマン氏の退任。ソフトバンクによる最大95億ドルでの支援といった様々な動きがございます。
一次は時価総額5兆円という評価がついていたWeWorkですがその拡大の中では多くの企業を買収しています。
下記は、WeWorkにどのタイミングで投資したかと時価総額の推移を記載しているものです。
A look at which investors are the biggest losers from the WeWork saga: https://t.co/F9ASz7tJcb pic.twitter.com/mLqzIscZ6y
— Lisa Abramowicz (@lisaabramowicz1) October 24, 2019
本記事ではこの急拡大の中で、WeWorkが買収した企業にスポットをあてて解説します。
2015年にWeWorkが買収した企業
建設コンサルティング Case
2015年8月に買収
買収額は非公開
Caseは建築家3人が2008年創業し、「ビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)」の技術に特化した設計施工を行う建設コンサルティング会社。2012年からWeWorkの物件について受注しており、2015年にWeWorkに買収された。オフィスをソフトウェアのようにつくるというWeWorkの思想を支えており、Case創業者のデイヴィッド・ファノ氏。WeWorkではCGO(最高成長責任者)を務めている。
2016年にWeWorkが買収した企業
無人オフィス入館管理 Welkio
2016年6月に買収
買収額は非公開
Welkio(ウェルキオ)はiPadを使った無人オフィス入館者管理システムを開発しています。2014年に元WeWorkのHathwayが独立創業した企業で、WeWorkのコワーキングスペースでWelkioが導入され、入館管理システムのスマート化を担っている。
Wavegarden
2016年6月に買収
買収額は非公開
Wavegarden(ウェーブガーデン)サーフィン用人工波発生装置を設計・構築するエンジニアリング会社。WeWork元CEOのAdam Neumann氏はサーフィンが趣味のこともあり、投資を指示したと言われています。WeWorkはオフィスだけでなく、学校やホテル、寮といったモデルについても検討しておりその上での新しい体験を生み出すために必要と説明していました。
2017年にWeWorkが買収した企業
建設プロジェクトマネジメントSaaS Fieldlens
2017年6月に買収
買収額は非公開、最終資金調達時の評価額は約22億円(2057万ドル)
Fieldlens(フィールドレンズ)は建設プロジェクトのプロジェクトマネジメントソフトウェアを提供するしており、事業者間のコミュニケーションとタスク管理を一元化し、工期を25%削減した例も存在するサービス。WeWorkは将来的に建物のライフサイクル全体を事業化していく上で、Fieldlensを建設プロジェクトのすべてのプロセスを効率化するプラットフォームに進化させる目的で買収した。
Fieldlensについては別記事で詳細に記載しています。
シンガポールのコワーキングスペース Spacemob
2017年8月に買収
買収額は約535億円(5億ドル)
Spacemob(スペースモブ)は2016年に創業し、シンガポールで2カ所のコワーキングスペースを運営していました。WeWorkは東南アジア地域にスピード感をもって参入するために買収しました、2019年現在、シンガポール12拠点、マレーシア2拠点、インドネシア6拠点、フィリピン5拠点、タイ4拠点、ベトナム3拠点と拡大しています。
マーケティンツールSaaS Unomy
2017年8月に買収
買収額は非公開
Unomy(ユーノミー)はイスラエルで2012年に創業されたマーケティング&セールスツールの開発する会社です。オンライン上でのクライアントや競合他社などの情報を収集し、営業効率を高めることを目的にしています。買収後は、WeWorkのCRMとして統合されました。
学生向けプログラミングスクール Flatiron School
2017年10月に買収
買収額は約30億円(2800万ドル)
Flatiron School(フラットアイアン・スクール)は学生向けにWebアプリ開発教育をオンライン・オフラインで提供するプログラミングスクール。買収により、WeWork社員やメンバーはFlatiron Schoolのオンライン・オフライン両様のコースが利用可能に。また、買収後NYの1拠点での提供だったものがアメリカ複数箇所、ロンドンなどの9拠点へと成長し、売上10倍に増えたとされています。Flatiron Schoolの卒業生をWeWorkメンバーの会社とのマッチング機械を提供しています。また、2018年にFlatiron Schoolはシカゴ拠点のデザイナー向けスクールDESIGNATION Labsを買収しています。
ローカルイベントプラットフォーム Meetup (ミートアップ)
2017年11月に買収
買収額は約214億円(2億万ドル)
Meetup(ミートアップ)は世界中にユーザーをもつ、ローカルコミュニティ交流プラットフォーム。共通の地域や興味に関するコミュニティを簡単に始めることができる。Meetup発のイベント開催に、WeWorkのスペースが多く使われており、増加傾向にあったことから買収へ。買収後もMeetupは独立したまま、事業を継続しています。2019年6月末時点で過去半年で110万回イベントが開催されており、1日1.2万のイベントが開催されているそうです。ただし、WeWorkのIPO延期にともない売却が検討されているとのニュースもあります。
2018年にWeWorkが買収した企業
SEOマーケティング Conductor(コンダクター)
2018年3月に買収
買収額は非公開、最終資金調達時の評価額は約133億円(1億2500万ドル)
ConductorはGoogle、YouTubeなどの検索エンジンの分析に特化した、デジタルマーケティング会社。買収前、WeWorkはクライアントの1つだったかが、買収後はWeWorkメンバーにコンテンツマーケティングプラットフォームを提供する形に変化した。
オフィス設計施工 LTB(エルティービー)
2018年4月に買収
買収額は非公開
LTBはイギリス拠点のオフィスの設計・設置・改修・移転を専門とする会社。イギリスの多くのオフィス開設に協力し、WeWorkのイギリスでのビジネス拡大に貢献していた。買収後は2018年にオープンしたロンドン最大規模のWeWorkスペース「Provost&East」の設計などを手掛ける。イギリス国内のWeWorkは50拠点を越えており、近日オープンも10拠点以上を予定しており、イギリスでの出店を支えている。
中国のコワーキングスペース Naked Hub(ネイキッド・ハブ)
2018年3月に買収
買収額は約428億円(4億ドル)
Naked Hubは中国に30カ所以上の拠点と約1万人のメンバーを持っていた大手コワーキングスペース運営会社。上海に本拠を置く高級リゾート会社Naked Retreatsのコワーキングスペース部門として設立され、主に上海と北京に拠点を開設しております。中国以外にも香港、ベトナム、オーストラリアなどに展開を予定しておりました。WeWork ChinaはNaked Hubとともに2021年までに100万人のメンバーを獲得すると発表しています。
学費無料のオンライン大学 MissionU(ミッションユー)
2018年5月に買収
買収額は非公開、最終資金調達時の評価額は約29億円(評価額2700万ドル)
MissonUはビジネスに必要な知識を学ぶオンライン大学(20%はオフライン)を運営。アメリカの大学生が抱える学生ローンへの価値提供としてサービスをスタートさせた。
在学中学費は無料、卒業後収入が5万ドルを超えると、収入の15%をMissonUに3年間寄付するという仕組みで運営。高収入の人の負担を制限するために合計支払額4.5万ドルまでとしている。
WeWork買収後、創業者Adam Braun氏は、WeWorkの初等教育機関「WeGrow」のCOOに着任。WeGrowは、今後MissionUのオンライン学習ソフトを使い、グローバルに展開する予定だったが、現在売却が検討されている。
デザイナー向けスクール Designation Labs(デジグネーション・ラボ)
2018年8月に買収
買収額は非公開
Designation LabsはUX、UI、フロントエンド開発について学ぶ、デザイナー向けのデザインブートキャンプ「Designation」を運営。WeWorkの子会社「Flatiron School(2017年10月に買収)」によって買収された。Designation Labsは買収後も、独自のブランドを維持。WeWorkの社員とメンバーはFlatiron Schoolのコースとともに、Designationのデザインコースも利用可能になっている。
会議室予約最適化サービス Teem(ティーム)
2018年9月に買収
買収額は約107億円(1億ドル)
Teemは2012年創業の会議室予約サービスを提供するソフトウェア会社。予約システムの分析結果から、部屋の活用状況などを可視化し、最適化を推進する。Slack、Box、LinkedIn、GE、Boston Consulting Group、Airbnbといった2800を超える企業で会議室ツールとして利用されていた。買収後は、WeWorkが2018年から始動したコンサルティング事業「Powered by We」に組み込まれ、本サービスを利用する企業はTeemのシステムをオプションで使用可能に。
2019年にWeWorkが買収した企業
Wifiデータ解析 Euclid Analytics(ユークリッド・アナリティクス)
2019年2月に買収
買収額は非公開、最終資金調達時の評価額は約150億円(評価額14084万ドル)
Euclid AnalyticsはWifi利用データを使い、リアル店舗の客数や行動を分析するサービスを提供しています。Benchmark Capitalや高級ブランドLVMHを含む投資家から出資をうけていました。Wifi利用の技術を店舗だけでなくオフィスの空間がどのように使用されているかを分析する独自のサービスを構築。買収後はWeWorkに統合され、WeWorkメンバーの企業にオフィスの使用状況に関する分析情報を提供する。
Managed by Q(マネージド・バイ・キュー)
2019年4月に買収
買収額は約267億円(2億5000万ドル)
Managed by Qは、2014年設立のオフィス向け管理サービス会社。オフィスの管理者や意思決定者は、備品のストック、清掃、ITサポートなど仕事と直接関係のないタスクをManaged by Qのダッシュボードを使って管理できる。自社オペレーターと他社ベンダーを組み合わせて様々な需要に応える。業者をフリーランスとして契約するのではなく、従業員として雇用していく方針をとっていたのが特徴的な企業です。買収後も独立子会社として残り、CEOのDan Teran氏はWeWorkの経営陣に加わった。
大学限定のメッセージングアプリ Islands Media(アイランズ・メディア)
2019年4月に買収
買収額は非公開、最終資金調達時の評価額は約90億円(評価額8420万ドル)
Islands Mediaはイベントやアクティビティを通じて大学生同士をつなぐように設計された、ロケーションベースの学生向けメッセージングアプリを提供しています。Whatapp、slack、messengerがオープンになっていくかなで、大学生に限定して同じ大学の制限をかけることでユーザーを獲得しました。買収後は、WeWorkオフィス内のメッセージアプリに統合されていく予定です。
スマホ用ゲームアプリ制作会社 Prolific Interactive(プロリフィック・インタラクティブ)
2019年6月に買収
買収額は非公開
Prolific Interactiveはスマートフォン用アプリ、ゲームの制作会社。WeWorkが2019年に開始した新規事業である年会費不要のコワーキングスペース「Made by We」用のアプリを制作。このアプリはワークスペースの予約や支払いの処理ができ、チェックイン・チェックアウトのプロセスを簡単にする。
オフィス向けセキュリティサービス Waltz(ウォルツ)
2019年6月に買収
買収額は非公開、最終資金調達時の評価額は約4億円(358万ドル)
Waltzの2015年創業のオフィス向けセキュリティを提供するスタートアップ。スマートフォンアプリとリーダーを使用すれば、ユーザーは単一認証で複数のビルに入場することができる。WeWorkに買収前から機能提供をしており、WeWorkの企業顧客にとっては、その従業員たちへのWeWorkスペースへのオンデマンド会員権の発行管理が簡単に行えるようになる。単純にキーやアクセスカードをスマホで代替するのではなく、管理ポータルで誰がビルに出入りしたかのデータを企業に提供し、特定の場所にアクセスできる人間を制限するなどの機能を持っている。
オフィス管理SaaS SpaceIQ(スペーセル・キュー)
2019年6月に買収
買収額は非公開、最終資金調達時の評価額は約21億円(1950万ドル)
SpaceIQは2016年に創業した、クラウド型オフィス管理サービスを開発する企業です。製造現場においては工場の稼働率などはかなり重要な指標になりますが、オフィスにおいてはおろそかになりがち、そこを様々な視点でデータ管理し最適化することを目的にサービス運営しているスタートアップです。導入企業に、NASDAQ、Slack Technologies、TESLAなどがあります。WeWorkも買収前から利用していました。買収後は既存の顧客を維持しつつ、WeWorkに統合されました。
レストランの空き時間コワーキング化 Spacious(スペーシャス)
2019年6月に買収
買収額は非公開、最終資金調達時の評価額は約31億円(2910万ドル)
SpaciousはNYとサンフランシスコで、日中使われていないレストランの空きスペースを活用したコワーキングスペースを多数運営する企業です。顧客は1日20ドルのパスか、月129ドルの年間メンバーシップでこうしたスペースを利用できる。レストランの方はこの新たな活用方法で収入を得ることになり、同時にSpaciousのメンバーを客として惹きつけるチャンスを得る。コワーキング運営時間は、Spaciousがコミュニティマネージャーを派遣し、レストランの負荷を下げる運用を行います。買収後、SpaciousのコワーキングスペースはWeWorkに移行。
まとめ
WeWorkが過去に買収した21社の事業についてそれぞれ解説してきました。多くはWeWorkオフィス改善に役立つ技術を持つもの、またはシェアオフィスで競合する会社などを巨額な金額で買収しています。また新事業になりうるプログラミングやデザインスクール事業などもあり、単なるシェアオフィス事業から、オフィス全体のサービス運営企業へと進化しようとしていた意図が伺えます。
ソフトバンクの子会社化に伴い、買収した企業の再編等も起きるかと思いますが、今後のWeWorkの動きには注目していきたいと思います。