- XYZ Realityは世界で初めて建設現場で設計図を再現するARゴーグル HoloSiteを開発した。
- HoloSiteは5mm以内の精度で設計データを実際の現場で再現することができる。
- 同社は、2020年3月にシリーズAで570万ユーロ(約6億7000万円)を調達し、アメリカやアジア市場への進出を予定している。
はじめに
これまでにも本サイトでご紹介してきたように、AR(拡張現実)・VR(仮想現実)技術の建設産業への応用事例が進んでいます。これらの技術は、ゴーグル型端末やスマホ、タブレット型端末を通して街並みや風景をコンピューター上で再現することで、それらを現実のように体験することができるというものです。
この技術の背景にある三次元モデリング技術は、建物や風景の三次元データをコンピューター上で表すものですが、もともと建設業界ではBIM(Building Information Modeling ビルディング インフォメーション モデリング)や三次元CAD(computer-aided design コンピューター エイデッド デザイン)として活用されており、建設産業とAR・VR技術の相性は非常に高いと考えられます。
今回ご紹介するXYZ Realityは、世界で初めて屋外での耐久性や要求される精度をクリアするAR製品HoloSite(ホロサイト)を発表しました。どのような製品なのでしょうか、詳しく見ていきましょう。
XYZ Realityとは
XYZ Reality(エックスワイゼット リアリティ)は、2017年にイギリスのロンドンで創業されたスタートアップで、ARを活用したゴーグル型端末HoloSiteを提供しています。
同社は2020年3月にシリーズAで570万ユーロ(約6億7000万円)を調達するなど、これまでに合計920万ドル(約9億9000万円)を調達しており、今後は製品のユーザー体験を改善し、市場を開拓していくためのエンジニアや営業チームを強化していくということです。
XYZ Realityを支える2つの基本技術
ゴーグル型AR端末 HoloSite
同社の製品であるHoloSiteはAR技術を用いて建物の設計図をコンピューター上で映像として再現し、この映像を5mmの精度で現実の施工現場に重ねて表示します。同製品は作業用ヘルメットに装着するゴーグル型の端末で、このゴーグルにARの映像が表示される仕組みです。
作業者は三次元の設計データを三次元のままで確認しながら施工や修正ができ、許容範囲を超過する施工不良や計画の修正にかかる時間を抑制することが可能になります。
XYZ Reality社によると、Holositeを活用した場合、計画変更や施工不良の修正による作業時間のロスを最大98%削減でき、作業コストとしては全体の7%-11%を削減することができるとしています。
続いてはHoloSiteに活用されているBIM技術とAR技術について詳しく見ていくことにしましょう。
BIM(ビルディング インフォメーション モデリング)
BIMとは、コンピューター上で柱、壁、配管などの個々の建設資材の形状、数量、配置の情報を組み合わせる設計手法です。この方法では、建物の「構造」「設備」「意匠」をそれぞれモデル化することにより、建設資材の干渉や適合度、必要な種類やサイズが把握しやすくなります。
また、BIMは建設資材の販売者や製造元、形状やサイズといった製品情報を保持することができるため、調達や作業手順、建設進捗の管理といったプロジェクトマネジメントの効率化にも多大な貢献をしています。
AR (拡張現実)
ARとは、コンピューター上で再現した建物や風景のモデルを現実の風景に重ね合わせる技術です。カメラやレーダーによる空間認識と、コンピューター上のモデルを映像化する技術を組み合わせ、現実の映像に情報を付加することができます。
上記の画像では、建設作業中の現場と建設が予定されている建物の設計図を組み合わせ、進捗予想が確認できます。
XYZ Reality社のHoloSiteは、BIMによって設計された建物の設計図をARを用いて建設現場で再現することにより、作業者の施工を支援するのです。
建設産業でのAR活用事例
XYZ Realityに限らず、ARは建設産業に関わる幅広い事業領域で応用が進んでいます。以下ARの活用事例をご紹介します。
計画段階での支援
AR技術は建設計画段階でも活用することができます。上画像のように、建設予定地にてコンピューター上でモデリングされた建物の外観を確認することで、建造物が完成する前に周辺環境との調和や圧迫感などを確認することができます。
施工前に建設会社とクライアント間や作業者間でイメージを共有することで、完成後のトラブルを防ぐことができます。
施工段階での支援
また、今回ご紹介したXYZ Realityのように、建設現場の施工段階での作業支援にもARの活用は進んでいます。施工段階では、作業中に配管や電工、構造等が互いに干渉しないよう、設計図通りに施工を進めていく必要がありますが、ARで完成イメージを確認しながら作業を進めることにより、施工不良を防ぐことができるのです。
保守点検段階での支援
また、施工終了後の保守点検作業においてもARは力を発揮します。
2012年アメリカ創業のAtheer(アシアー)社は施工後の保守点検作業や、作業進捗管理を支援するARソリューションを開発、運営しています。(上記のデモ画像はAtheer社製品の様子を示したもの)日本では2019年より伊藤忠テクノロジーソリューションズが取り扱いを開始しています。
ARを支える技術の一つに空間認識技術がありますが、施工不良によって建設部品、部材間の位置関係に問題が生じている場合、AR技術を通じて修正が必要な箇所を特定することができます。
まとめ
いかがでしたか? 今回ご紹介したXYZ Reality社のHoloSiteは、高精度のARによって施工段階で作業を支援するものでしたが、ARは建設産業のあらゆる局面での活用事例が増えています。ARはどのように建設産業を変えていくのでしょうか。今後の動向に注目です。