あらゆる場所が部品工場に!?移動式金属3Dプリンターを開発するExOne

画像引用元:ExOne公式ホームページ
海外事例
  • 金属部品の製造において、従来の切削・鋳造加工に対し、金属3Dプリンターによる「付加製造技術」(AM技術)と呼ばれる加工法の研究開発が進んでいる。
  • AM技術により、従来の加工法では実現できない複雑形状の金属製品を製造できるようになり、航空宇宙、医療分野等における部品製造技術として注目されている。
  • 様々なAM技術のうち、アメリカのExOneは製造速度が早く材料の無駄が少ない「バインダージェット方式」を採用した3Dプリンターを開発、販売している。

はじめに

従来、金属部品製造においては金属を削ることで製造する「切削加工」や、鋳型に金属を流しこみ、固形化することで製造する「鋳造加工」といった加工法が主流でした。これらの加工法に加えて1980年代以降に登場したのが、「付加製造技術」(Additive Manufacturing, 以下AM技術)です。

AM技術とは、平面上に造形されたパーツを一層ずつ積み上げていくことで、最終的に3次元の製造物を造形する加工技術のことを指します。AM技術が採用された部品製造システムは「3Dプリンター」と呼ばれ、3次元のCADデータで作成された製造物を再現できることが特徴です。そのため、従来の金属加工法では実現できなかった複雑形状の部品を製造でき、航空宇宙、医療分野等における部品製造技術として注目されています*。

画像引用元:Wohlers Associates “New Wohlers Report 2020 Documents More than
250 Applications of Additive Manufacturing”

上図は3Dプリンティング技術を用いたAM製造による最終部品への支出を示し、2010年まで2億5000万ドル(約272億円)を下回っていたところが、2019年には14億ドル(約1520億ドル)と、約5.6倍の規模にまで増加していることが分かります*。

2012年5月には、アメリカ合衆国のオバマ前大統領によりAM技術開発や人材教育に10億ドルの投資を行うことが発表され、日本においても2013年度より経済産業省の主導で産業用3Dプリンターの技術開発が国家プロジェクトとして開始されています。AM技術は近年急速に研究開発が進んでいる分野の一つといえるでしょう*。

今回ご紹介するアメリカ合衆国の金属3Dプリンター製造販売会社ExOne(エックスワン)は、バインダージェット方式と呼ばれる金属3Dプリンターを開発しています。一体どのようなメーカーなのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

出所:
Wohlers Associates “Wohlers Report 2020
三菱総研 「3Dプリンタ(付加製造技術)の展望
京極秀樹(2014)「金属3Dプリンタの開発動向と今後の展開

金属3DプリントのExOneとは

画像引用元:ExOne公式ホームページ

ExOne(エックスワン)は、工業向け金属3Dプリンターの研究開発から製造販売までを行なっている会社です。2005年にアメリカ合衆国で創業し、2013年にはNASDAQ(ナスダック)に上場。アメリカ合衆国の他、ドイツや日本にもサービス拠点を保有しています。

同社の金属3Dプリンターの特徴は、「バインダージェット方式」と呼ばれる加工技術にあります。バインダージェット方式では、薄く引き延ばした金属粉末にバインダー(液体結合剤)を選択的に噴射して結合します。一つの層の造形が終わると、金属粉末が上部に塗布され、再度バインダーが選択的に噴射されます。この工程を繰り返し行うことで部品を製造するのです。

画像引用元:AMPOWER Report 2020

上図は金属3Dプリンターに採用されているAM技術の市場における位置付けを示したもので、上部に位置するほど産業利用が進行し、右側に位置するほど技術が成熟していることを示しています。

ExOneが採用する「バインダージェット方式」の産業利用及び技術の成熟度は、普及が進んでいる「パウダーベッド方式」(PBF)や「デポジション方式」(DED)に比べて低く位置付けられている一方、溶解させた金属を積み上げて造形する「熱溶解積層方式」(FDM)に比べると高い水準にあることが分かります。

バインダージェット方式は既存技術に比べて大量生産がしやすく、破棄物がでにくいとされ、金属3Dプリンターによる金属部品製造の次なる技術として期待されているのです。

画像引用元:ExOne公式ホームページ

続いて同社の収益構成を見ると、一般産業向けが38.8%、車産業向けが21.4%、エネルギー部門、学術部門、消費者部門、政府・防衛部門、航空宇宙部門向けがそれぞれ5.9%から7.4%までとなっています。

同社は製造物の材料として、現在までに10種の単一合金金属、6種のセラミック、5種の複合材料からなる21種類の認定素材による印刷が可能であるとしています。これにより、切削工具など、高温でも強度を維持する必要がある「高速度鋼」や、航空宇宙産業に活用される炭化ケイ素の「セラミック部品」など、幅広い産業需要に応じた部品の製造が可能となっているのです。

金属3Dプリンターの歴史

画像引用元:ExOne公式ホームページ

前述の通り、現在金属部品のAM技術による製造法として産業利用が進んでいるのは、「パウダーベッド方式」(Powder Bed Fusion、PBF)と「デポジション方式」(Direct Energy Deposition、DED)の二つの方式です。

パウダーベッド方式は、金属粉末を敷き詰め、レーザーを金属片に当てることで選択的に結合させる加工方法のことです。金属の熱可塑性を利用していることが特徴で、高密度、高精度の金属部品を製造するのに適しています。一方で、製造時間がかかることや、中空の構造物を製造する際にサポート材によって一時的に造形物を支える必要があるといったデメリットがあります。

続いてデポジション方式は、金属の材料粉末と電子ビームを同時に噴射し、任意の部分で金属を結合する加工方法のことです。既製品の補修や単純構造の大型部品を製造することに適している一方で、複雑形状の金属部品の製造には向いていないとされています。

ExOneが採用するバインダージェット方式は、これらの方式に比べて完成品の密度が低くなってしまうという難点がありますが、小型複雑形状の金属部品を製造するのに適しています。ExOneにおいては、様々な材料を採用することで、製品の用途に適した強度を実現しています。

米国防総省から移動式3Dプリンターの製造を受注

画像引用元:ExOne公式Twitter

ExOneは2021年2月、米国防総省と移動式3Dプリンターの製造についての契約を結んだと発表しました。契約の規模は160万ドル(約1億7000万円)で、主に研究開発と最初のユニットの建設に充当される予定です。また、2022年第3四半期(7月〜9月)までに最初のシステムが納入される計画となっています。

計画では、3Dプリンターの関連機器類を全て一つのコンテナに搭載することで、部品を必要とする現場で部品を製造することができるようなシステムの開発が目指されており、紛争地域の前線や人道的任務の現場で利用することが予定されています。

厳しい環境下で使用されることを考慮し、製造する部品に関するデータの一部に欠損がある場合でも、ソフトウェアが自動的に欠損を修復するといった点や、利用障壁を下げるために、ソフトウェアが使いやすく設計されているという点に特徴があります。

部品の修理や交換をする際、部品が届くまでの時間が長いほど、製品自体が利用できなくなる「ダウンタイム」が発生します。しかし、現地で部品を製造して調達すれば、より早く、安価に部品の修理や交換を行うことができるようになります。移動式3Dプリンターの開発により、従来数週間に及んでいたダウンタイムを数日に抑制することが期待されているのです。

まとめ

いかがでしたか?今回は、パウダージェット方式による金属3Dプリンターを製造するアメリカ合衆国のExOneをご紹介しました。パウダージェット方式は小型金属部品の製造に適しており、ExOneの製品では、21種類の材料を用いた部品の製造が可能であることが特徴となっています。

移動式の金属3Dプリンターは、即時調達が必要でかつ希少な金属部品をどこでも製造・調達することを可能にすることが期待されており、今後の開発動向が注目されます。