- アメリカでは低価格で良質な住宅の供給不足が社会問題化している。
- Connect Homesは住宅構造の90%以上を工場で製造しながら、低価格でデザインと機能性に優れたモジュールハウスを供給している。
- モジュールハウスには物流の問題がつきまとうが、Connect Homesは独自の方法でこの問題をクリアした。
はじめに
アメリカでは、住宅価格の高騰や大規模災害により、低所得者層の住宅確保がかつてないほどに難航しています。全米低所得者向け住宅連合の2017年度調査によると、超低所得者層向けの賃貸住宅は約740万件も不足しており、当該世帯の71%は重たい住宅費用の負担に苦しんでいるとされています。(National Low Income Housing Coalition: NLIHC 2017)
今回は、このような状況下で注目を浴びているスタートアップ、Connect Homes(コネクトホームズ)をご紹介します。
Connect Homesとは?
Connect Homes(コネクトホームズ)は、魅力的なデザインの住宅をより安価に提供することを目指し、2011年アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスで創業されたスタートアップです。2019年5月にはシリーズAラウンドで約10.8百万ドル(約11.7億円)を調達するなど、これまでに19.8百万ドル(約21.3億円)を調達しています。
Connect Homesは、プレハブ工法を用いた住宅をさらに進化させた「モジュールハウス(=モジュラーハウス )」と呼ばれるジャンルの住宅を供給しています。プレハブ工法の魅力を最大限に生かして十分な低価格を実現しながらも、その工法の弱点といえるデザイン性も兼ね備えている点に、このサービスの魅力があると言えるでしょう。
創業者のJared LevyとGordon Scottは、同じくモジュールハウスを供給する企業で5年間建築士として従事した後に独立。デザイン性が高く、製造及び運送のコストを抑えた製品の研究開発を開始しました。
従来のモジュールハウスは物流における課題があり、構造体の約55%は工場で製造、そして、残りの建築資材は現場で製造・組み立てるという工法が限界でした。
そこで、Connect Homesは新しい発想をモジュールハウス業界に持ち込んだのです。設計の自由度を向上させながらも、90%以上の住宅構造体を工場で製造し、そのまま輸送することで、工期の大幅な短縮や、住宅の低価格化を実現しました。
物流課題の解決方法は?
これまでのモジュールハウス
これまでの最大の問題は、モジュールハウスが輸送上の制約により工場を中心に半径200マイル圏内にしか出荷できないことでした。これは工場の地理的な分散と、全工場で画一的なモジュールハウスを製造するためのデザインの規格化によるものです。
以下の画像は、州ごとに道路使用許可の取得や高額の輸送費用が必要となり、採算を合わせるためには一定の距離を超えて出荷ができないということを表しています。
どのようにして解決したのか?
Connect Homesは、この物流の問題を解決し、たった一つの工場から世界中に製品を供給することを可能にしました。
その秘密は、住宅基本構造の規格にあります。
彼らが製造するモジュールハウスは、多くの貨物輸送に利用されるコンテナと同一の規格で設計されています。内外装やドア・窓の設置、配管や電気設備等を組み込んでモジュール(住宅構造体)が完成した後、このモジュールの外側を金属の保護板で梱包するだけで、一般的なコンテナとして輸送をすることが可能となるのです。
この技術は、一般的なモモジュールハウスの海外輸送費用が4万ドル(約430万円)なのに対し、5千ドル(約54万円)で輸送することを可能にしました。この輸送技術のブレイクスルーが、基本構造以外の内外装でデザイン性や機能性を高める上で大きな利点となるのです。
(画像左)一般的なコンテナ輸送の場面。(画像右)Connect Homesの住宅基本構造の画像。輸送に配慮した構造によりコストを削減し、内外装の自由度を高めることが可能に。
森林火災の復興支援でも活躍
アメリカ合衆国カリフォルニア州では、毎年大小様々な規模で森林火災が発生します。特に2018年11月に発生した山火事は全米史上最悪の被害規模となり、カリフォルニア州パラダイスは町の全戸数にあたる約6400戸が焼失したとされています。
これらの火災を受けて住宅の需要が急激に高まっており、被災地では住宅供給における労働者不足が深刻化しました。現在でも住宅建設は順番待ちの状態が続いており、現地で再建する場合完成まで約4年、価格は1平方フィート(約0.1平米)あたり500ドルから700ドルとなると推定されています。
Connect Homesは被災者向けの住宅供給を行なっており、建設期間は6ヶ月~8ヶ月、価格は1平方フィートあたり350ドルから500ドルで再建をすることが可能です。また、工事に必要な土壌検査や設計費用の一部を割引くなどの支援を行なっています。
大規模災害に被災された地域では、耐火・耐震等の防災性能に優れ、かつ低価格の住宅が必要とされますが、Connect Homesの供給する住宅はその需要にマッチしていると言えます。
まとめ
プレハブ工法の利点を最大限に生かし、低価格と短工期を実現しながらも高いデザイン性と機能性を誇るConnect Homesの住宅。その住宅としての性能はすでに一般的な工法で建設された住宅と変わらない水準にあります。モジュラーハウスがどのような進化を遂げるのか、今後の動向に注目です。