- EV車(電気自動車)の販売台数の成長率は2030年までの年平均で21%が予想されており、関連市場は活況を呈している。
- 急速なEV車の普及に対し、充電設備の整備状況は不十分。
- EverChargeは、急速に拡大する電気自動車(以下EV車)の充電設備需要に対し、複数台が同時使用できる普通充電設備を提供している。
はじめに
環境保全への意識の高まりとともに注目が集まるEV車(電気自動車)ですが、その普及にはインフラの整備が不可欠です。特にEV車の充電時間の長さはガソリン車と比べた時のデメリットの一つであり、充電設備の未整備は普及の障壁となっていました。
今回ご紹介するEverChargeは設置費用や維持費用を抑えた充電設備を提供しています。これまでの充電設備システムにはできなかった課題をEverChargeはどのように解決していったのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
充電ステーションを提供するEverChargeとは
EverCharge(エバー チャージ)は2013年にアメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコで創業されたスタートアップです。エンジニアで連続起業家のJason Appelbaumが、2013年に電気自動車を購入したが、分譲マンションに住んでいたためマンションの駐車場で充電しようとしたところ、マンションの規格が対応しておらず自分が充電すると他の電気自動車が充電できないという問題に直面した体験から、集合住宅で住人全員が電気自動車を充電できる方法を検討し創業した企業になります。
EverChargeは、建設テック企業に多く投資するBrick & Mortar Ventures などから約10億円を調達しております。
同社の充電設備は、設置費用や維持費用が安く、独自の技術により電力量を抑制したまま複数台分の充電設備を導入できるため、これまで整備が難しいとされてきた集合住宅や職場の駐車場への導入で実績を伸ばしています。
EV車に必要な充電設備とは
日本ではエコカーといった名称で普及が拡大しているEV車ですが、いくつかの種類があります。化石燃料以外のエネルギーを補給する必要があるのは、BEV(バッテリー駆動式電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド電気自動車)、FCV(燃料電池車)の3種類の自動車です。このうち、充電設備からの給電によってエネルギーを補給するのはBEVとPHEVで、水素やメタノール等の液体燃料を必要とするのがFCVです。それぞれの特徴をまとめると、以下のようになります。
以下、給電が必要であるBEVおよびPHEVの充電環境について確認していきましょう。
電力中央研究所調査によると、現在日本の充電設備環境は高速道路SA・PAを中心に急速充電設備が約8千箇所、家庭や公共駐車場の普通充電設備が約3万箇所へと整備が進んでいますが、ピーク時には充電待ちが発生するなど、充電設備の増設が要望されています。
特にEV車普及の課題となっているのは、集合住宅や職場における充電設備設置の困難さです。既存の集合住宅や職場に新設する場合、費用負担分担や設置場所について合意形成を得ることが難しく、さらに複数台の設置を検討する場合、電力供給のインフラを再構築する必要も生じます。
このような問題は日本だけでなく、EV車の普及がさらに進んでいるアメリカ・中国・ヨーロッパ諸国においても深刻になりつつあります。
EverChargeの充電設備の強み
EverChargeは集合住宅や職場などの公共駐車場に対応できる普通充電設備を提供しています。同社の充電設備は壁に設置する機器を通じて電力源から給電する仕組みで、低コストで設置することができます。また、各充電機器はネットワークを通じてクラウドに接続されており、電力量を自動調整します。
車両の充電状況や同じ電源に接続されている他の充電設備の総電力状況を収集し、各車両への給電する電力量を調整することにより、ピーク時の電力供給を抑制できると言います。同社の調査によると、最大でピーク時の電力量を約2/3に抑えることができたということです。
同システムは、電力容量の問題も解決することができます。多くの集合住宅ではEV車の充電を想定しておらず、EV車1台を充電している間他のEV車が充電できないといった問題が発生しますが、EverChargeの充電設備は電力容量や各車両の電力ニーズに合わせて電力を分配するため、複数台の充電を一度に行うことができるのです。
また、多くの地域では、総電力量が一定の値を越えると超過料金が発生する電力料金制が課されています。同社の製品を使用すればピーク時の電力量を抑制できるため、電力料金を抑えることができるのです。
これらの利点は、充電設備の設置困難な集合住宅などの施設での充電設備の整備を進めたい施設管理者やEV車ユーザーにとって非常に魅力的だと言えるでしょう。
EV車と充電設備環境の未来
IEAの「Global EV Outlook 2019」によると、2018年末に全世界でのEV車保有量は510万台を超え、そのうち330万台がBEV、180万台がPHEVだといいます。最も大きい中国市場では世界の年間販売台数の半数が取引されており、アメリカ合衆国、日本がそれに続いています。特に米中の市場の伸びは非常に大きく、2018年度は前年比で約170%強の成長率が見られます。
また、各国は環境に優しいEV車の普及率について達成目標を掲げており、普及に不可欠な充電設備の整備について税制優遇や補助金制度などを設けています。こうした国の支援もあり、EV車の保有台数は2018年の510万台から2030年の1億3500万台へ、販売台数の年間平均成長率は21%にも昇ると推計されています。
充電設備などのEV車関連市場も、EV車のためのインフラ整備の必要性から成長が見込まれます。EverChargeのような個人・集合住宅、職場向けの充電設備需要は今後も増加していくと言えるでしょう。
まとめ
全世界でEV車の普及拡大に向けた取り組みが進んでおり、日本だけでなく、アメリカや中国、欧州では充電設備の整備や充電システム・車両用蓄電池の技術革新が活発におこなわれています。
かつて自動車生産で力を発揮した日本の技術力は、EV車やその関連市場においても力を発揮することができるのでしょうか。今後の動向に注目です。