土地利用規制のデータ基盤整備と都市3Dモデル活用で都市計画を支援するGridics

画像引用元:Gridics LLC. 公式ホームページ
海外事例
  • 都市計画における自治体やデベロッパーの意思決定を効率化のため、建物データや規制データの統合・活用のためのデータ基盤整備が必要とされている
  • 都市計画の担い手として、デジタルソリューションを提供する民間プレイヤーへの注目度が高まっている
  • フロリダ州のGridicsは、様々な不動産データセットを単一プラットフォームに統合することで都市計画における意思決定を支援する

はじめに

画像引用元:Gridics LLC. 公式ホームページ

ゾーニング(土地利用規制)とは、都市の効率的な土地利用を促進するために市当局が企業や土地所有者に対してどこに何を建ててよいかを定めることを指します。上記の画像では、居住区域が黄色(R)で、商業地域が薄桃色(C)で、保全区域が緑色(PU)で示されています。またそれぞれの区域の名称としてローマ字と数字を組み合わせた「ゾーニングコード」が使用されています。

一般的にゾーニングは、ある土地の利用方法として好ましくない建設物を条例等により規制する形で実施されることが多く、規制には建設物の用途、容積率、高さなどが含まれます。アメリカの状況は各州により多少異なりますが、各自治体が個別にゾーニングに関する条例を制定しており、各ゾーンごとに土地利用方法がきめ細かに設定されています。そのため、建設物を新設する際にはそうしたゾーニング規制を遵守すること、そのための調査が必要となります。また、既存のゾーニングで設定されている用途とは異なる建設物を新設する場合(例えば商業利用規制地域において大型のショッピングモールを建設する等)、土地所有者は自治体に対してゾーン変更の申し立てを行い、所定の手続きをふむことでゾーンを変更可能な場合があります。

こうした規制の確認や、土地情報の分析は都市計画を担当する自治体やデベロッパーにとっては大きなコストとなります。そこで近年注目されているのが、都市計画におけるデータ活用をサポートする民間サービスです。今回ご紹介するアメリカ合衆国のGridics LLC.(グリディクス)はこのゾーニングに関する法規制データを一元化し、自治体やデベロッパーの都市計画における意思決定の効率化をサポートしています。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

Gridicsとは?


Gridicsは2015年にアメリカ合衆国フロリダ州にて創業されたスタートアップです。社名のGridicsとは、Grid(Grid = 地図上の区画)Analytics(分析)を略したものとなっており、土地利用規制のデータ基盤の整備や、都市3Dモデルを活用することで都市計画における公共部門や民間部門の意思決定の効率化を支援するサービスを提供しています。

Gridicsは、物件検索ツール、ゾーニングコードや規制に関する詳細なテキスト、都市3Dモデルを利用することができます。主な販売先は地方公共団体ですが、開発や不動産売買を行う民間企業などの一般市民がエンドユーザーとなっています。Gridicsのプラットフォームではユーザーが都市の土地や建物一つ一つの情報を取得することができ、開発計画に関する調査や複数シナリオの準備等に要する数万ドルのコストと数ヶ月の分析期間を節約しながら、結果と予測モデルの精度を向上させることができます。

2017年7月までに総計360万ドル(約4億1700万円)の資金調達を実施しており、南フロリダとニューヨークでプロジェクトを展開する不動産開発会社BH3と、Dune Road Capital(デューン ロード キャピタル)が引受先となっています。Gridicsは2017年4月にフロリダ州マイアミ市とパートナーシップを結んで以来、フロリダ州を中心に自治体とのパートナーシップを拡大しています。現在6つの州で顧客を持っており、年内にはこれが9つの州に拡大する見込みであるとしています。

2021年11月には、バイデン米大統領が主導する約110兆円規模のインフラ投資計画法案が成立しました。この法案は高速道路や橋梁、都市公共交通の整備に加え、半導体やインターネット、電気自動車、クリーンエネルギー産業などへの投資を増やすもので、GridicsのCEO、Jason Doyle(ジェイソン ドイル)氏はこの法案について、建物のエネルギー消費と開発計画に関連する技術への投資家の関心を呼び起こす可能性が高いとい考えています。開発計画をサポートするソリューションを提供する同社にとっては絶好のタイミングだといえます。

Gradicsのサービス

画像引用元:Gridics LLC. 公式ホームページ

Gradicsには自治体などの公共部門向けに提供しているのデジタルソリューションとして、ゾーニングコードや土地規制に関する詳細な文章データの閲覧や編集をサポートする「CodeHub」(コードハブ)、ある区画がどのようなゾーニングをなされているのか、リアルタイムの状況を確認することができる「ZoneCheck」(ゾーンチェック)、ある地域の建物の3Dモデルを提供する「MuniMap」(ムニマップ)があります。

画像引用元:Gridics公式ホームページ

またエンタープライズ向けに提供しているデジタルソリューションとして、不動産の情報を検索して分析することのできる「PropZone」(プロップゾーン)、ゾーニング情報から得られた市場インサイトの詳細なレポーティングを閲読できる「Property Zoning Report」(プロパティ ゾーニング リポート)、将来の建物の3Dモデルにより、地域へのインパクトや潜在的な地域の市場価値をモニタリングする「ZonelQ」(ゾネルキュー)があります。

開発計画への活用事例

画像引用元:Gridics LLC. 公式ホームページ

鉄道沿線の人の流れに注目した開発事業においてGradicsのソリューションが活用されている事例をご紹介します。この事例はフロリダ州マイアミにおけるオーシャンサイド・CA鉄道駅の駅前開発において不動産開発デベロッパーのCBREがGridicsを活用して開発計画を策定しております。

画像引用元:Gridics LLC. 公式ホームページ

従来の当該区域は5つのゾーニングに分かれていました。これらのゾーニングと鉄道駅からの人流や周辺の土地利用状況をもとに、経済効率性の高い建設計画の策定にGridicsが活用されました。

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最終的には再開発に伴い、それまで「住宅地」としてゾーニングされていた地域の一部を、高密度の集合住宅と商業施設を併設可能なゾーニングへと変更するなどして最適な導線を確保しました。駅の近くに新しい交差点ができることを加味して駐車場や歩道が設計されており、駅舎を象徴する2棟の8階建ビルを中心に、居住区や商業施設、駐車場、ホテル、円形劇場等の施設の建設が計画されています。

まとめ

いかがでしたか?Gridicsはゾーニング(土地利用規制)に関するデータや不動産データを統合したデータ基盤と、都市3Dモデル化を通じて、都市開発における自治体や企業の意思決定の効率化を支援するサービスを提供しています。日本においても人口減少に対する都市開発の文脈でデジタルソリューションが注目されており、今後Gradicsのようなサービスが必要とされるでしょう。同社の今後の展開が注目されます。