”よじ登る”3Dプリンター現る。コアラ型ロボット、Koala3Dとは?

海外事例
  • 3Dプリントの建設産業への応用は進みはじめているが、3Dプリンターのハードウェアが設計の自由度を制限してしまうことが課題とされている。
  • 南米チリ大学の研究グループが、プリントしながら鉛直方向に進む3Dプリンター、Koala 3Dを開発した。
  • 同研究ではプリンター自体の大きさより大きな製品を整形することに成功したが、技術上の課題は残されている。

はじめに

近年、建設産業で3Dプリント技術の活用事例が増えており、その例としてメキシコの住宅不足解消のための3Dプリントハウスを製造している米ICON社や、特殊な構造により意匠性の高い建設物を3Dプリントによって建設する米XtreeE社などが挙げられます。

画像引用元:ICON社ホームページ

しかしこうしたプロジェクトの欠点として、3Dプリンターのハードウェア自体が建設物の大きさを制限してしまうことが指摘されていました。3Dプリンターより大きいものを作る場合、小さな部品をプリントしてあとで組み立てるか、大きなハードウェアを用意する必要があり、設計の自由度が下がるだけでなく運送のコストが高くなってしまいます。

こうした既存の3Dプリント技術の問題点に目をつけたのが、南米チリ大学のMaximiliano Vélez氏(マキシミリアーノ ベレーズ)氏を筆頭とする機械工学研究グループです。果たしてどのような方法でこの問題を解決したのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

“Koala 3D” は「よじ登り」ながらプリントする?

研究グループがたどり着いたアイデアは、3Dプリンターを搭載したヘッド部分と、プリントアウトした製造物を「よじ登る」ロボット部分を組み合わせ、製造物を製造した位置に固定したままプリンター自体が移動していくことで、より大きなものをプリントアウトするというものです。このプロトタイプ製品はKoala 3D(コアラ スリーディー)と命名され、研究論文は2020年3月よりオンライン上で公開されています。

実際に製品が動作する様子を確認してみましょう。

以下の略図では水色が3Dプリンターを搭載したヘッド部分、緑が「よじ登る」ロボット部分、黄色がプリントアウトされる製造物を示しています。

以下の要領で製造が進んでいきます。
① まず、ロボット部分が製造物を掴み、3Dプリンター全体を固定します。
② ヘッド部分が製造物をプリントアウトします。
③ ロボット部分が新たに製造された部分を掴む「リアンカーリング」を行い、さらに高い位置に3Dプリンター全体を引き上げます。
④ ヘッド部分が製造物を続けてプリントアウトします。

こうして繰り返し縦方向への移動とプリントアウトを繰り返すことで、一方向に長い製造物をプリントアウトすることができるのです。

画像引用元:Robotics and Computer Integrated Manufacturing ”Koala 3D: A continuous climbing 3D printer”

Koala 3Dの可能性と限界

研究論文に基づいてKoala 3Dの技術を詳細に確認していきます。以下の画像の(d)では、黄色の部分がプリントアウトされた柱で、二つの金属部品からなるロボット部分が柱を掴んでいることが確認できます。

ヘッド部分のプリンターで一度にプリントできるのは、水平方向に45mm×45mm、鉛直方向に30mm以内であり、これまでに鉛直方向に12回繰り返し柱をプリントアウトすることができたということです。柱が鉛直方向に長くなるほど振動が大きくなり、ロボット部分が滑落することがあるといいます。

また画像(a)〜(c)に示されている計機は各部品の電力消費量を示しており、全体で50Wが消費され、そのうち94%がプリンター部分、残りの6%がロボット部分で消費されているということが示されています。

画像引用元:Robotics and Computer Integrated Manufacturing ”Koala 3D: A continuous climbing 3D printer”

プリンターが搭載されているヘッド部分は、安価で軽量な汎用プリントヘッド「J-Head E3D」という製品が用いられています。以下の実験ではまず直方体の土台を作り、その後土台の上にモアイの形状をしたオブジェクトをプリントアウトしています。

koala 3Dの弱点は水平方向の振動にあり、発振を抑えてプリントを行うためにプリントアウトのスピードも抑える必要があります。本実験ではモアイ像を完成させるまでに1時間以上かかっており、製品の正確さについても既存の据え置き型3Dプリンターと比べ水平方向の精度が低いことが課題となっています。

画像引用元:Robotics and Computer Integrated Manufacturing ”Koala 3D: A continuous climbing 3D printer”

今後の課題は以下の3点にあります。1点目にプリンターが作動している時に揺れを抑えること、2点目にロボット部分の滑落を防止すること、3点目により複雑な形状の製品を整形するための応用方法を探求することです。

以下の略図は、より複雑な形状の製品を整形するために研究チームから提案された応用案です。(b)ではより太い直方体のプリントを行うために、ヘッド部分とロボット部分の可動域をより広くすることが提案されています。また(c)では複数のKoala 3Dを同時に動作させることでより複雑な製品を成形する可能性が示されています。

画像引用元:Robotics and Computer Integrated Manufacturing ”Koala 3D: A continuous climbing 3D printer”

本研究では様々な課題が確認されましたが、今後の開発次第では製品を応用し、より複雑な形状の建設物をプリントアウトできるようになることが期待されます。

まとめ

建設産業での活用が進む3Dプリント技術ですが、汎用な建材としての使用にはまだ技術的課題が多く残っています。
特に今回ご紹介したKoala 3Dは、3Dプリンター自体を小型に抑えたまま大きな製品を成形することに成功しており、今後の3Dプリンターの技術革新が基礎研究によって進んでいくことで、さらに活用が広がっていくことが予想されます。今後も3Dプリンターのハードウェアコスト削減に向けて、Koala 3Dの技術改良が活用が益々注目されます。