賃貸管理業務を一社で完結!不動産テックのMyndとは?

画像引用元:Mynd Property Management 公式ツイッター
海外事例
  • アメリカの不動産業界では、仲介や管理、信用保証など、専門領域の分業が徹底しており、管理コストの透明性に欠いている
  • Mynd(マインド)は、不動産仲介・管理業務を垂直統合し、賃貸関連サービスをまとめて提供している
  • Myndは不動産管理情報の一元化やオンライン内見などテクノロジーを活用しつつ、管理業務を担う人材の現地採用やIT教育を進める

はじめに

画像引用元:Mynd Property Management 公式ツイッター

不動産業界では、従来の商習慣や非効率な業務を情報技術によって改善する新規プレイヤーの参入が見られ、不動産テックと呼ばれています。一口に不動産業界と言っても専門領域が細分化されており、プレイヤーによって事業が異なることが特徴です。以下、不動産テック協会による分類をご紹介します。

出所:不動産テック協会 ホームページ

今回ご紹介するMyndは、アメリカの不動産テック企業の一つ。上記の分類に囚われず、不動産の管理から仲介、信用保証、物件情報メディアなど、賃貸に関わるあらゆる業務をまとめて提供しているのが特徴で、2016年の創業以来高い成長率を保ち続けています。一体どんな会社なのでしょうか?早速見ていきましょう。

Mynd Property Management とは?

画像引用元:Mynd Property Management 公式ホームページ

Mynd Property Management (マインドプロパティマネジメント、以下「Mynd」)は、2016年にアメリカで創業された不動産管理のスタートアップ企業です。2020年6月にはシリーズCで4150万ドル(43.2億円)を調達し、これまでの調達総額は7760万ドル(約80.8億円)。不動産関連企業のM&Aを積極的に進め、現在直接管理している不動産は9600戸になります。

Myndは不動産の貸し手と借り手の双方を対象に、総合的な賃貸管理仲介サービスを提供しています。まず顧客接点としてデスクトップ・スマホアプリを開発。貸し手は所有する物件の保守管理、家賃支払状況の管理、賃貸状況の確認を、借り手は賃貸物件の検索、オンライン内覧、契約、家賃の支払いを行うことが可能です。このように同社は数多くの業務のオンライン化を進めており、情報管理の効率化を進めています。

Mynd創業者兼CEO Doug Brien(ダグ・ブライエン)氏はアメリカンフットボールのプロ選手として活躍中から不動産投資を実施し、引退後に単一世帯向け住宅に対する不動産投資会社Waypoint Homes(ウェイポイントホームズ)を創業しています。同社はその後合併を繰り返し、InvitationHomes(インビテーション・ホームズ)へと社名変更。8万を超える住戸を12万人へ提供しています。ブライエン氏の動きとしては、不動産オーナー、不動産投資会社をへて、不動産管理領域へと変化してきております。

Myndはテクノロジーの活用だけでなく、不動産管理人材の現地採用とIT教育を進めており、オンラインでは実施できない住居の管理業務や保守・修繕、未払い家賃の回収といった業務にも対応。テクノロジーと人材の両面から不動産管理を総合的にサポートしています。

不動産賃貸業務の全体像

Myndの特徴は、不動産仲介管理業務を単純にITを活用して効率化するだけのソフトウェアビジネスだというのではなく、ソフトウェアを活用して新規プレイヤーとして不動産ビジネスのあり方を根本的に変えていくところにあります。

そもそもMyndが不動産業務を一元化して提供する背景には、アメリカならではの不動産業界事情がありました。

(出所)国土交通省資料、各種論文を基に作成

アメリカ不動産賃貸業界は、専門別で分業が徹底していることが特徴です。例えば日本では、不動産賃貸に必要な査定、登記、債務保証などの様々な工程を不動産会社が一手に引き受けます。ところがアメリカの場合はそれぞれの領域の資格を持つ事業者が独立して存在しており、エージェントが各々の事業者と取引を行うことが慣例となっています。

こうした商習慣のために、各事業者への発注に必要なコストが読みづらく、貸し手や借り手にとってコストの透明性に欠くことが課題となっていました。

(出所)国土交通省資料、各種論文を基に作成

そこでMyndは、分業の徹底しているアメリカの賃貸業界を垂直に統合。賃貸管理に必要なあらゆる業務を一社の中で完結できるようにしたのです。貸し手や借り手はMyndを介して取引をするだけで良く、コストが明瞭に。更に垂直統合の恩恵は業務間の取引コストの削減にまで及び、社内で各領域の専門家を抱えることで一連の工程にかかる時間と費用を削減し、空き家情報の掲載から入居までの時間の短縮にも繋がっていると言います。

アプリで貸し手と借り手の利便性を向上

画像引用元:Coral Capital ホームページ

垂直統合の起点となるのが、Myndが開発したアプリケーションです。このアプリはPCやスマホなどの端末から使用でき、住居のオーナーは貸し出している物件の管理を、借り手は物件の検索や内覧、借りている家の家賃の支払い、修繕依頼など、不動産管理に必要なサービスを網羅している点が特徴です。

例えば上記画像は貸し手側のアプリ画面。貸し出している不動産のうち家賃の支払い状況や修繕依頼の状況について確認をすることができ、またMynd担当者とチャットでやりとりを行ったり、自ら登録している空き家の情報にもアクセスすることができます。

画像引用元:Mynd Property Management 公式ホームページ

こちらは借り手から見たMyndの不動産情報掲載ページ。不動産の詳細な情報をリストから検索することができ、部屋の内外装も確認することができます。今回は物件を借りた後のアプリ画面は入手できませんでしたが、Mynd公式ホームページによると借り手向けのアプリからは家賃の支払いや修繕の依頼等ができるということです。

管理業務を担う人材を現地採用

画像引用元:Mynd Property Management 公式ツイッター

またMyndの強みは、管理業務人材を現地採用していること。前述のようにアメリカの不動産業界は分業が進んでいますが、不動産に直接足を運ぶ人材は不可欠です。CEOのDoug Brien(ダグ・ブライエン)氏は「不動産管理市場においてテクノロジーの重要性を何度も繰り返し聞かれるのですが、結局のところ不動産管理はきわめて労働集約的なものなのです」と述べているように、管理業務を担う人材を重要視しています。

そこでMyndは不動産管理に精通する人材を社内に抱え、賃貸物件の管理業務を行っています。現場のMynd社員にIT教育を実施し、不動産の状態や賃貸状況に合わせて修繕やリフォーム、鍵の交換等のサービスを適切なタイミングで実施することで、高い顧客満足度を獲得しているのです。このようなサービス改善の結果、家賃の滞納率2%以下を実現しているといいます。

まとめ

いかがでしたか?近年テクノロジーと既存ビジネスを社内に垂直統合し、完全にエンドツーエンドの製品やサービスを構築してしまう「フルスタックスタートアップ」と呼ばれる会社が多数現れています。クラウド上でのサービス提供だけでなく、現場の人員含めて特定の領域であらゆるサービスを網羅していることが特徴です。Myndもこのタイプの企業の一つで、関連業務の一部をパートナー企業に頼るのではなく、賃貸管理から仲介までの必要なサービスを全て自社の中で完結しています。

日本の不動産業界は不動産会社を中心に管理業務の統合がすすんでいるように思われますが、一方で不動産会社ごとに未公開物件を保持するなど、情報の公開は進んでいません。日本における不動産テックを考える際に、こうした商習慣の違いを考慮しなければならないでしょう。日本の不動産業界にもフルスタックスタートアップのような企業は現れるのでしょうか。今後が期待されます。