- カーボンニュートラルの達成に向けて電力供給網のデジタル制御=スマートグリッドの普及が急務
- フィンランドのSafegrid Oy.(セーフグリッド)は送電故障を100mの精度で探知・予測するSafegrid Intelligent Grid System®を開発
- 同システムは22カ国42パートナー企業との提携を通じて販路を拡大
はじめに
パリ協定に基づく2050年のカーボンニュートラルの達成に向けた取り組みにおいて、電力供給網(パワーグリッド)のデジタル化による制御機能の向上、すなわちスマートグリッド(smart grid)が注目を集めています。スマートグリッドとは、電源、送電網の更新や、消費者側の電力モニタリング機能を備えたスマートメーターの設置、送電故障(grid fault)の探知と予防により、電力システムを効率化、強靭化するものです。
スマートグリッドの拡大には広範なインフラ整備が必要となるためその市場規模は非常に大きく、2022年時点で497億ドル(約7兆9800億円)、2028年時点で1302億ドル(約20兆9000億円)と、年平均17.4%の急成長が見込まれています(注)。そこで今回ご紹介するのは電力障害探知・予防システムを通じて電力網の強靭化に貢献するフィンランドの企業、Safegrid Oy.(セーフグリッド)です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
注)Statista Research Department (2024) “Smart grid market value worldwide 2022-2028”
Safegridとは?
Safegridは2019年にフィンランド、ヘルシンキにて創業された、スマートグリッドの技術開発を行うスタートアップです。2023年2月にシードラウンドにて570万ユーロ(約9億8260万円)を調達しました。筆頭株主としてフィンランドのファミリーオフィスAjantaが参画。その他、同じくフィンランド政府系投資会社Tesi、フィンランドのエネルギー系VCGrid.vcが参画しています。
Safegridが提供するのは、送電網故障(grid fault)の特定と予防に特化したSafegrid Intelligent Grid System®(セーフグリッド・インテリジェント・グリッド・システム)です。このシステムには、最大250kVの電圧レベルに対応し、電圧降下などの特定イベントの発生を検知するインスタント・オン・センサーと、クラウドクラウドベースの分析機能を採用し、グリッド・イベントの捕捉と分析を行います。
同システムは、GPSと波形検出による三角測量を通じて、故障箇所の位置を100メートルの精度で特定します。また独自のアルゴリズムにより、グリッド・イベントをタイプ別および重大度別に分類し、故障の特定や将来の故障の予測もできます。実際の送電故障の事例では、故障箇所の正確な特定によっていち早く復旧作業を開始、平均復旧時間よりも45%早く電力を復旧させることが可能となりました。
2023年11月時点の情報にて、Safegridはヨーロッパ12カ国(ブルガリア、ギリシャ、北マケドニア、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スペイン、スウェーデン、トルコ、英国およびアイルランド)、アメリカ、アフリカ3カ国(コートジボワール、ナイジェリア、セネガル)、アジア太平洋6カ国(インド、インドネシア、ニュージーランド、フィリピン、タイ、ベトナム)の計22カ国、42の販売パートナーとの提携を獲得、販路を拡大しています。
2023年11月には新CEOにMs. Paula Laine(パウラ・ライン)氏が就任。氏はアールと大学で工学の修士号を獲得、ノキアでエントリーレベル向けデバイスのグローバル戦略と市場イニシアチブを統括、その後はフィンランドの気候系ファンドのCEOとして20件以上、1億6,500万ユーロ(約281億9000万円)の資金拠出をマネジメントしてきた人物です。
Safegrid Intelligent Grid System®を構成する3つのシステム
Safegrid Intelligent Grid System®は次の3つのシステムにより構成されます。
- Grayfox®:非侵入型電流測定用に設計されロゴフスキー・コイルを採用したケーブル・グリッド用センサー製品。
- GridGuardian®:クラウドベースの分析・監視ソフトウェアで、送電網の運用状態を全体的に透明化し、送電網の障害に対して即座に対処可能なアラートを発出。
- Grayhawk®:ワイヤレス電流測定技術を利用した送電線用ワイヤレスセンサー製品群。ワイヤレス測定は、デバイスが非侵入的で非接触であるため、電源を落とさずにインストールすることが可能。
Safegridセンサデバイスは、周波数(50/60Hz)を測定するだけでなく、周波数1MHzまでの進行波(高速トランジェント)も捕捉します。故障記録は、GPSレシーバーを使用してタイムスタンプが付与された測定値から作成。LTE/4Gネットワークを使用してクラウドサーバーに送信されます。
センサーはデータを測定・送信するパスデバイスとしてのみ機能し、位置特定などの計算はクラウドで集中的に行われます。クラウドベースの利点は、グリッドから収集された膨大な高周波データを集中的に計算することができる点にあります。さらに、収集されたデータをアルゴリズムのトレーニングに活用することで、送電故障の探知機能や予測機能を改善します。
Safegrid Intelligent Grid System®による送電故障探知・予測
実例を見ていきましょう。画像の左側のケースは強い風により電柱が倒れたことで停電が引き起こされた系統故障の例です。この故障は100mの精度で特定されたため、電力会社は故障を迅速に発見し修理することができました。
画像の右側のケースでは、右側の故障予測機能が活用されました。このケースでは、2つの碍子が破損し、ヒートマップで示された強い部分放電信号が発生し始めました。そこで示された場所で検査を実施したところ、破損した碍子が見つかりました。その後、制御された停電中に部品を交換し、間もなく起こる故障が未然に防がれました。
以上の送電故障探知・予測機能は、人口減少による労働力不足に悩む農村地域や山林、海岸線沿いの送電設備維持管理機能を強化する役割を果たします。
まとめ
いかがでしたか?今回は、100mの精度で送電故障を探知・予測するフィンランドのSafegridをご紹介しました。同社が展開するSafegrid Intelligent Grid System®は、すでに22カ国42パートナー企業を通じて販路を拡大しています。
スマートグリッドの普及を通じた送電網の維持・管理機能の強化は、今後のカーボンニュートラルに向けて進むことが予想される電力需要の高騰において、重要な役割を果たします。Safegridの今後の動向が注目されます。