- Ultimariiはカナダ・カルガリー発のスタートアップで、大型インフラ/建設プロジェクトの規制・コンプライアンス業務をAIで高速化するプラットフォームを提供
- 規制文書・過去案件・規制当局の判断など 50万件超の資料を統合した「規制インテリジェンス基盤」 を構築し、リサーチ・リスク分析・書類作成を支援
- ユーザーはエネルギー・ユーティリティ・鉱業・政府機関・大手法律事務所など。主要な用途は、建設コンプライアンスの確認・インフラ案件の規制審査・レートケース対応・規制報告など
はじめに
画像引用元:Ultimarii Ltd., 公式ホームページ
近年、エネルギー、ユーティリティ、鉱業、データセンター、交通インフラなどの大型建設プロジェクトでは、施工そのものに先立つ「規制遵守(コンプライアンス)」が大きな課題となっています。北米市場では特に、環境、安全、土地利用、労働資格、規制当局ごとの審査基準など、多層的な規制体系が積み重なっており、プロジェクト開始前に膨大な調査と書類作成が必要になります。担当者は数百から数千ページに及ぶ資料を読み込み、過去の前例を整理し、複数の当局が定める要件を照合しなければなりません。
こうした作業には高度な専門性が求められる一方、法令・ガイドラインの改正、過去の決定文の追加、行政判断の変化などが頻繁に起こり、更新し続ける情報を人手で管理するには限界があります。結果として、大規模プロジェクトの承認までには数年単位の時間がかかり、建設会社やエネルギー企業にとっては深刻なボトルネックとなっています。コンプライアンスが不十分であれば、承認の遅延だけでなく、建設中・稼働後のペナルティや訴訟に発展する可能性も高く、規制対応はプロジェクト成功の鍵を握る重要なテーマになっています。
このような背景から、「建設・インフラ分野のコンプライアンスをAIで効率化する」という新しいアプローチが注目されており、その中心に位置するのがカナダのスタートアップ、Ultimarii(ウルティマリ)です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しくみていきましょう。
Ultimariiとは?
同社は、大型インフラプロジェクトに求められる複雑な規制遵守業務をAIで高速化することを目的としています。創業経緯も特徴的で、元アルバータ州の大臣として司法、雇用、イノベーション分野を担当していた Doug Schweitzer(ダグ・シュウァイツァー)氏と、法務系SaaSスタートアップの創業経験を持つJosh Malate(ジョシュ・マラテ)氏が共同で立ち上げています。規制行政とリーガルテック双方の経験が集結しており、建設業界の現場と規制機関の運用実態を理解したうえでAI基盤を構築している点が大きな強みです。
2025年9月に520万カナダドル(約5億7900万円)の資金調達を実施し、リード投資家としてStaircase Venturesが参画、その他にAlpaca VCやScale Good Fundなど複数の投資家が名を連ねています。
Ultimarii が提供するソリューションは、インフラ、エネルギー、鉱業、ユーティリティなど大規模プロジェクトの許認可申請をAIで高速化するプラットフォームです。従来の許認可プロセスでは、数千ページに及ぶ申請書類や関連法規、過去の承認事例を手作業で照合する必要があり、審査には数年を要することもありました。Ultimariiはこれらの文書をAIが自動解析し、リスク要因や必要な補足情報を短時間で抽出することで、審査期間を大幅に短縮することを目指しています。
調達した資金は、プラットフォーム機能の強化や北米市場での事業拡大、人材採用に充てられます。また、同社は研究機関や行政機関との連携も進めており、AI研究と実務運用を結び付ける体制を強化しています。
規制インテリジェンス基盤:公共と社内のデータを統合管理
画像引用元:Ultimarii Ltd., 公式ホームページ
Ultimariiのプロダクトは、「規制インテリジェンス基盤」+「AIエージェント」という2つの柱によって構成されています。その第一の柱となるのが、大量の規制情報を整理・体系化した統合データベースです。
このデータベースは「Public Libraries」と「Private Libraries」という2つの領域に分かれています。Public Librariesでは、規制当局が公開する決定文、環境影響評価、ルール・指令、料金制度の文書など、インフラ規制に関する膨大な資料を整理しています。これらの文書は規制当局ごとにフォーマットが大きく異なるため、従来は関連資料を探すだけでも膨大な時間を要していました。Ultimariiはこれを横断的にインデックス化し、検索と比較を高速に行えるようにします。
一方、Private Librariesでは、企業が保有する過去プロジェクト資料、内部ガイドライン、資産データ、既存の契約書や提出文書などを安全に保管します。企業ごとに異なる規制対応の履歴や内部知識をAIが参照できるようにすることで、案件間の学習効果を高め、組織全体でコンプライアンスの水準を引き上げる仕組みになっています。
この2つのライブラリを連動させることで、規制当局の判断と自社の過去事例を同時に参照し、より正確な判断を下せるようになります。こうした「規制のソース・オブ・トゥルース」を構築することは、AIによる高度な判断支援を可能にする基盤となっています。
AIエージェント「Adii」によるコンプライアンス業務の自動化
画像引用元:Ultimarii Ltd., 公式ホームページ
Ultimariiが展開するソリューションの中核をなすのは、コンプライアンス・アシスタントのAdii(アディー)です。Adiiは、Ultimariiのプラットフォーム上に実装された直感的なAI支援エージェントで、利用者が複雑な規制・法務業務をスムーズに遂行できるように設計されています。プラットフォームに蓄積された法令・指令・判例等の膨大な規制情報と、ユーザー独自のデータ(過去申請書類や資産関連資料など)を結びつけ、利用者が「この申請を出すには何を確認すべきか」「この条項のリスクは何か」「この書類は正しくレビューされているか」といった問いに対して、ステップ・バイ・ステップでガイドを提示します。
公表されている説明では、「Ask Questions」「Review」「Draft」などの機能を通じて、わずか数分で必要情報を取得し、書類作成やレビュー作業を支援することが可能であるとされています。また、Adiiは「初心者でも使える」ことを意図しており、規制・法務プロフェッショナル以外のユーザーでもアクセスしやすいインターフェースを備えています。例えば、複数ページにわたる申請資料をAIが自動で照査し、ユーザーに「ここにこの条項の更新が必要です」「この過去判例ではこのリスクが実質的に争点になっています」というアラートを出すことで、人的レビュー負担を軽減し、承認取得までの時間を短縮します。
Ultimariiのユーザーインターフェース
画像引用元:Ultimarii Ltd., 公式ホームページ
提供形態はSaaSプラットフォーム+AIエージェント機能という形で、ユーザーが契約後プラットフォームに文書をアップロードし、AIが「規制関連リスク」「提出準備状況」「ステークホルダーの影響」「過去案件類似性」などの分析を提供します。
費用モデルとしては、定額サブスクリプション+案件ベースの分析料、あるいは成果に応じた追加オプションという構成も考えられます(公開情報では詳細な価格体系は明言されていません)。さらに、プラットフォームが多数の案件データを蓄積するにつれ、AIの精度やレコメンデーション能力が向上し、それ自体が競争優位を構築します。
Ultimariiの活用事例
画像引用元:Ultimarii Ltd., 公式ホームページ
Ultimarii のソリューションはすでに複数の現場で活用されており、特に大規模インフラやエネルギー開発など、許認可プロセスが複雑で時間がかかる領域で効果を発揮しています。典型的な事例として、送電線、発電設備、資源輸送インフラなどのプロジェクトにおいて、従来は数千ページに及ぶ申請資料を担当者が手作業で精査していたため、審査には数年単位の時間が必要でした。Ultimarii のプラットフォームを導入することで、これらの資料を AI が自動解析し、該当する規制条文やリスク要因を迅速に抽出できるようになり、一部のケースでは調査作業が従来の8時間から1時間程度へと短縮されたと報告されています。
また、法律事務所での活用事例もあり、規制関連のリサーチや文書レビューの負荷削減に寄与しています。複数の法律事務所が Ultimarii の AI エージェントを利用して、過去の判例・法令・ガイドラインの検索や要点整理を効率化しており、これまで膨大な時間がかかっていたバックグラウンドリサーチを大幅に短縮しています。さらに、Alberta Machine Intelligence Institute と共同で、規制ワークフロー全体を AI で最適化する取り組みも進んでいます。
こうした事例から、Ultimarii はインフラ開発、法律実務、行政支援といった幅広い領域で実運用されており、規制プロセスのデジタル化と効率向上に実際の成果を上げていることが確認できます。
まとめ
画像引用元:Ultimarii Ltd., 公式ホームページ
いかがでしたか?今回は建設許認可をAIで効率化するカナダのUltimariiをご紹介しました。Ultimariiは、インフラ・エネルギー・送電・鉱山などの大型プロジェクトにおける「許認可・規制審査」という、これまでデジタル化の遅れていた前工程にAIを投入し、着工までの時間を短縮することをミッションとしています。技術的には大量文書解析・規制データベース化・ステークホルダー可視化といった機能を備え、UX設計もアクセス権限・共同作業・知識検索といった点に配慮されています。今回の資金調達によりスケール段階に入りつつあり、今後の動向が注目されます。





