
- 鉱山廃棄物管理市場は2023年の約2,285億ドル(約33兆7700億円)から2030年にかけて年平均4.7%で成長が見込まれる
- カナダ・ケベックのExterra Carbon Solutions(エクステラ・カーボン・ソリューションズ)鉱山廃棄物を再資源化し、低炭素建材やCO₂の永久隔離ソリューションとして活用する
- Exterraは、アスベスト鉱山廃棄物(AMT)を再資源化するHub Iプロジェクトを計画中で、北米最大級の資源循環インフラとなる可能性を持つ
はじめに

画像引用元:Exterra Carbon Solutions公式ホームページ
鉱山廃棄物(表土、尾鉱、廃石など)管理市場は大きく成長しています。市場の規模は2023年の約2,285億ドル(約33兆7700億円)と見積もられており、2030年にかけて年平均成長率4.7%でさらなる拡大が予測されています(Data Intelo 2025)市場拡大の背景には、世界的に鉱山廃棄物の量が膨大であるという事実があります。市場動向は廃棄物管理に限らず、リサイクル技術の進歩や鉱物回収の実装事例の拡大にも支えられています。経済的な価値と環境リスクの両方に対応する革新的な廃棄物再利活用への取り組みが求められるなか、テクノロジー(IoTやAI、先進プロセス制御など)も急速に進化しています。
今回はカナダ・ケベックに拠点を置くExterra Carbon Solutions(エクステラ・カーボン・ソリューションズ)をご紹介します。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
Exterra Carbon Solutionsとは?
Exterra Carbon Solutionsは、鉱山廃棄物を再資源化し、低炭素建材やCO₂の永久隔離ソリューションとして活用するクリーンテック企業です。
資金調達情報
資金調達の面では、2025年5月にシリーズAラウンドで2,000万カナダドル(約21億円)を調達しました。このラウンドはClean Energy VenturesとBDC Capitalが共同で主導し、ケベック州政府系のInvestissement QuébecやMOL Switch、Kineticsなども参加しています。これにより累計調達額は3,200万カナダドルに達しました。
経営陣
経営面では、CEOで共同創業者のOlivier Dufresne(オリーバー・デュフレーニュ)氏が中心となり、鉱山技術と投資分野に精通した経営陣が体制を整えています。役員陣は鉱業開発、プロジェクト施工、技術開発、法務に幅広い経験を有しており、事業の拡大を支えています。
パートナーシップ
Exterraは、Frontier Climateとはカーボンリムーバルクレジットの事前購入契約を締結し、Exterraが供給するCO₂隔離技術の信頼性を高めています。
また、ケベック州の大手ガス事業者Energirとパートナーシップを締結しています。この協力により、CO₂鉱化の実証規模を拡大し、年間50万トン規模のCO₂を隔離できる商業施設(Hub I)を共同で開発する計画が進められています。すでにエタノール生産施設から年間300トンのCO₂を鉱物化する試験に成功しており、これをスケールアップして商業利用へと展開することが目指されています
さらに、世界的化学メーカーBASFとは、2024年にカーボンキャプチャー・ストレージ(CCS)に関する覚書を締結しました。BASFのガス処理技術「OASE® blue」とExterraのROC技術を統合し、産業排出CO₂をその場でミネラル化する新しいCCSプラットフォームの構築を検討しています。これにより、パイプラインや地下貯留を必要とせず、工業施設の排出ガスをリアルタイムで鉱物に変換し、認証カーボンクレジットの発行までを一体化するモデルが期待されています
鉱山廃棄物を再利用する技術

画像引用元:Exterra Carbon Solutions公式ホームページ
技術面では、ExterraはLOW(Low-carbon Oxide from Waste)とROC(Reactive Oxide to Carbonate)という二段階技術を展開しています。LOWではアスベスト廃棄物などの鉱山残さからマグネシウム酸化物(MgO)やカルシウム酸化物(CaO)といった反応性に優れた酸化物を取り出し、ニッケルやアモルファスシリカなど有価副産物も生成します。これらは低炭素建材やEVバッテリー用素材としての需要が高まっています。ROCでは、生成した酸化物を利用して大気中のCO₂を迅速に鉱物化し、追加の炭素回収設備なしで高効率かつ永続的なCO₂隔離を実現します。
現在進行中のHub Iプロジェクトは、世界最大規模のアスベスト鉱山残さ処理施設をケベックに建設する計画であり、年間30万トン超の残さ処理能力を備えています。これにより、アスベストの除去だけでなく、廃鉱山地域の再利用が可能になります。さらに、この技術は産業CO₂や直接空気回収(DAC)の排出源にも応用できるとされており、地表型CO₂鉱化の新しいモデルとして注目されています。
副産物の活用も重要です。ニッケル濃縮物はEVバッテリーの素材として、シリカは低炭素建材として市場性があり、ケベック州だけで8億トン規模のアスベスト廃棄物が存在することから、北米で最短のニッケル供給網を形成する可能性も示されています。
Exterraの活用事例

画像引用元:Exterra Carbon Solutions公式ホームページ
2024年3月、Exterraはケベック州のヴァル・デ・スース地域において、アスベスト含有鉱山廃棄物(Tailings)の処理パイロットプロジェクトを開始しました。この施設では、強酸処理を用いてアスベスト繊維を分解し、シリカやニッケルなどの副産物を抽出。残りの物質から高純度のマグネシウム酸化物(MgO)を生成し、このMgOが1トンあたり1.1トンのCO₂を数時間で吸収・鉱物化する能力が確認されています。現状では1時間あたり約200ポンド(約90kg)の廃棄物を処理し、年間300トンのMgOを生成する能力があるとのことです。
またExterraは、アスベスト鉱山廃棄物(AMT)を再資源化するHub Iプロジェクトを計画中で、2027年の着工が見込まれています。年間30万~40万トン規模の廃棄物処理が可能とされ、アスベスト繊維を除去しつつ、MgOやニッケル、アモルファスシリカといった低炭素資源への転換を目指します。ケベック州には数億トンのAMTが堆積しており、北米最大級の循環型資源化インフラとなる可能性があります。
まとめ

画像引用元:Exterra Carbon Solutions公式ホームページ
いかがでしたか?Exterra Carbon Solutionsは、鉱山廃棄物を再資源化しつつCO₂を鉱物化して恒久的に隔離するという独自技術で注目を集めています。ケベック州でのパイロット実証を経て、年間数十万トン規模の処理能力を持つHub Iプロジェクトに着手し、低炭素建材やバッテリー素材としての副産物も供給する体制を整えつつあります。さらに、Energirとの提携による地域エネルギー基盤との連携、BASFとの協業による産業排出ガスのリアルタイム鉱物化システムの構築といった戦略的パートナーシップは、同社の技術を研究開発から商業化へと押し上げる原動力となっています。
こうした動きは、廃棄物処理、資源循環、CO₂隔離を同時に実現する新しい産業モデルを示しており、環境と経済の両面において持続可能な成長を可能にするものです。今後Exterraは、北米のみならず世界市場においても、低炭素社会の実現を支える重要なプレーヤーとなる可能性を秘めています。