- 都市化とアフォーダブル・ハウス需要の高まりから、低価格で生産できるモジュール住宅が注目されている
- イギリス発のロボティクススタートアップAUARは、モジュール住宅の生産の自動化を進めている
- AUARのロボティクス技術では小型の製造拠点を分散することにより、環境に配慮した住宅開発を行うことができる
はじめに
画像引用元:Automated Architecture Ltd公式ホームページ
一般的にモジュール住宅とは、住宅の主要部品をあらかじめ工場などで製造し、現場で組み立てることによって提供される低価格住宅のことを指します。住宅の設計や製造過程を画一化することでコストや建設プロセスを効率化でき、都市化に伴うアフォーダブルハウス(手頃な価格の住宅)需要や、環境負荷低減といった需要に対応することが期待されています。全世界のモジュールハウス市場は、2024年時点で1040.1億ドル(約15兆3800億円)規模であり、2029年までに1408億ドル(約21兆1800億円)へと、年平均6.2%で成長すると予測されています。
そこで今回はモジュール住宅の建築を自動化するロボティクス企業のAutomated Architecture Ltd(オートメーテッド・アーキテクチャ、以下AUAR)をご紹介します。一体どのような企業なのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
AUARとは?
AUARは2019年にイギリスで設立されたロボティクス建設スタートアップで、社名はAutomated Architectureの頭文字に由来しています。法人登記はイギリスのブリストルに置かれ、ロンドンにも活動拠点を構えています。同社はイギリス南部を軸に「住宅建設の製造業化」を掲げたプロジェクトを進めています。AUARが取り組んでいるのは、住宅を現場で一から組み立てるのではなく、デジタル設計された木製モジュールをロボットで反復製造し、それを現場で組み合わせるという方式です。
モジュールはロボットアームによってブリストルやロンドン周辺の小規模なマイクロ工場で組み立てられ、現場に運搬された後、少人数の施工チームによって住宅として組み上げられます。従来の建設現場では、天候や人員の確保といった条件が工期を左右していましたが、AUARの方式では建設前工程が工場内で完結するため、工程の安定性と品質の均一性が確保されます。また、同社のモジュール構造は解体や転用も想定されており、一方的に建てて終わるのではなく、循環的に再利用可能な住宅ストックの生成を目指しています。
2025年6月、AUARは約510万ポンド(約10億250万円)のシード資金を調達しました。このラウンドはPlanet A Venturesが主導し、Shadow Ventures、Common Magic、Concrete VCなど、建設テックやロボティクス分野に関心を持つ投資家が参加しました。さらに、過去にはABB Robotics VenturesやMiles Aheadといったロボット関連投資主体も関与したとされ、欧州における建設自動化の有力案件として位置づけられつつあります。加えて、英国政府系のInnovate UKから助成金を獲得した経歴もあり、公共セクターからも技術的・政策的な注目を集めています。
AUARのソリューション
画像引用元:Automated Architecture Ltd公式ホームページ
AUARマイクロファクトリーと呼ばれる小型のロボット組立ユニットを開発し、それを建設現場や近隣のスペースに設置してパネル構造の住宅モジュールを自動で製造する方法を確立しました。このマイクロファクトリーにはロボットアーム、切断装置、視覚センサーなどが搭載され、AIによる制御のもとで壁、床、間仕切りといった部材が生成されます。
製造されたモジュールはそのまま現場に運び込まれ、少人数の施工チームによって組み立てられるため、従来の大がかりな現場施工とは異なる運用スタイルを実現できます。
AUARは製造設備だけでなく、MasterBuilderという設計変換ソフトウェアも提供しています。これは建築設計データを入力すると、ロボットが製造可能なモジュール形式に自動変換し、材料リストや製造指示データを生成する機能を持っています。
従来の住宅建設では、設計と施工の間に多くの調整工程が発生していましたが、この仕組みによって設計と製造を直接接続できます。また、設計の段階で構造チェックや最適化を行うため、現場に運ばれる時点でモジュールの仕様が確定し、再調整の発生を抑えることができます。AUARはこの一連の仕組みを「建築のロボティクス製造レイヤー」として位置付け、特定の工務店やデベロッパーだけでなく、複数の地域にマイクロファクトリーを分散設置することで、住宅供給を地産地消型の自動化ネットワークとして展開する構想を持っています。
AUARの活用事例
画像引用元:Automated Architecture Ltd公式ホームページ
AUARのマイクロファクトリーは実際にベルギーの建設会社VandenbusscheNVとの提携プロジェクトで運用され、ロボティクスによる建材モジュールの生成と、現場での迅速な組立が実証されています。この事例では、壁、床、屋根といった主要構造がロボットによって事前に製造され、それらが現場に配送された後、少人数のチームが短期間で建物の躯体を構築しました。従来の建設では大量の職人チームと長期間の現場作業が必要でしたが、この方式では現場での作業は組立に限られ、天候の影響や人員調達の問題を抑制できたと報告されています。また、製造時点でAIによる品質チェックが組み込まれているため、現場に届く部材は検査済みであり、施工後の手戻りが減少しました。
AUARはこの仕組みをベルギーだけでなく、米国市場にも展開し始めています。米国ではRivalHoldingsにマイクロファクトリーを供給し、地方都市に分散配置された住宅製造拠点として機能させる計画が進行しています。このモデルでは、大規模な工場を1カ所に構えるのではなく、地域ごとに小型のロボティック製造拠点を置くことで、物流コストとリードタイムの双方を削減する効果が期待されています。英国国内でも公的住宅供給の効率化に関する議論の中でAUARのモデルが参照されており、政府系のInnovateUKから助成を受けた背景もこうした文脈と関係しています。実運用例では、現場作業の人員を約40%削減しながら、施工期間を数週間短縮できたとされ、AUARは建設業を製造業化する実践的なモデルとして認知を広げています。
まとめ
画像引用元:Automated Architecture Ltd公式ホームページ
いかがでしたか?今回はモジュール住宅の製造を自動化するイギリスのロボティクス企業AUARをご紹介しました。
従来の住宅製造は大規模な工場か、あるいは現場での手作業という二択しかありませんでしたが、AUARはマイクロファクトリーという小型のロボティック生産ユニットを分散配置することで、この前提を覆しています。この仕組みによって各地域ごとに住宅モジュールの生産拠点を置けるようになり、長距離輸送に伴う物流コストや環境負荷を抑えたローカル生産モデルが成立します。従来のプレハブ住宅工場のように巨大設備を一括で構えるのではなく、必要な地域に小規模に展開するため、地元資材や地域の施工事業者との連携も柔軟に行えます。
この分散型の住宅生産ネットワークは、地域の住宅供給速度を高めるだけでなく、建設に伴うCO2排出や廃材発生の抑制にもつながります。マイクロファクトリーは必要な分だけモジュールを自動生産するため、過剰生産や廃棄ロスを最小限に抑えられます。また、現場での切断や調整が不要になることで、施工現場で発生する残材や騒音といった環境負荷も軽減されます。AUARが目指しているのは「現場を効率化するロボット」ではなく、「住宅を地域で製造するための分散型インフラ」です。この視点によって、建設というプロジェクト型産業を、柔軟に展開できるローカライズされた製造システムへと変換する可能性が見えてきます。AUARの今後の動向が注目されます。





