創業6年目にして企業価値6600億円へ!ソフトバンクが投資する住宅ローン融資テックのBetterとは?

画像引用元:Better Holdco, Inc., 公式ホームページ
海外事例
  • 住宅ローンの手続きは非常に煩雑で時間がかかる
  • Betterは住宅ローン融資のプロセスをAIで自動化、効率化することで、住宅ローン融資にかかる時間を大幅に短縮している
  • Betterは2021年末におよそ77億ドル(約8500億円)での新規上場を見込んでいる

はじめに

画像引用元:Better Holdco, Inc., 公式ホームページ

住宅購入は生涯に複数回もない一大イベントです。しかし、住宅ローンの選び方一つで、将来の支払額が大きく左右されたり、購入可能な住宅が制限される可能性があり、買い手にとってはストレスのかかるプロセスであるとも言えます。

そこで近年住宅ローン関連事業において、テクノロジー活用を通じて金融システムを変革するテクノロジー企業の参入が相次いでいます。従来、住宅ローンの審査プロセスでは多くの関係者が介在することでガバナンスを確保していましたが、そこにテクノロジーを導入することでプロセス全体を効率化し、透明性を高める役割が期待されています。こうした動きは住宅購入者の負担を軽減するだけでなく、資金の貸し手側の業務コストの削減にもつながるものだといえるでしょう。

今回ご紹介するBetter Holdco, Inc., (ベター ホールディングカンパニー、以下Better)は、住宅所有権をよりシンプルに、より早く、より手頃に、よりアクセスしやすくするというミッションを掲げ、住宅ローン関連事業におけるテクノロジー活用を推進している会社です。一体どのような企業なのでしょうか?詳しくみていきましょう。

住宅ローン融資テックのBetterとは?

画像引用元:Better Holdco, Inc., 公式ホームページ

Betterはアメリカ合衆国を拠点に事業展開する住宅ローン事業者です。不動産売買全般に関する事業を行う持株会社でもあり、グループ傘下には住宅事業関連の以下の企業が含まれています。

  • 住宅ローン事業のBetter Mortgage Corporation(ベター モーゲージ コーポレーション)
  • 不動産売買事業のBetter Real Estate, LLC(ベター リアル エステート)
  • 住宅所有者の財産に発生した損失や損害をカバーする保険事業のBetter Cover, LLC(ベター カバー)
  • 住宅所有権保険(タイトル保険)事業のBetter Settlement Services(ベター セトルメント サービス)

2021年4月現在のグループの従業員総数は6000人を超え、2020年度のローン流通総額は、およそ250億ドル(約2兆7400億円)にのぼります。

Betterは2016年の創業以来、総額で9.08億ドル(約992億円)を調達しています。主要株主には2021年4月に5億ドル(548億円)を出資したソフトバンクの他、投資銀行のGoldman Sachs(ゴールドマン サックス)、金融サービス業のAmerican Express(アメリカン エキスプレス)、Citi(シティ)、ベンチャーキャピタルのKleiner Perkins(クライナー パーキンス)、Activant Capital(アクティバント キャピタル)などが株主として名を連ねています。

また、同社は2021年末に77億ドル(約8500億円)規模の新規上場を実施する予定で、既にSPAC(特別買収目的会社)のAurora Acquisition Corp.;(オーロラ アクイジション コーポレーション)との合併が決定しています。

住宅ローンのプロセスをAIで自動化&効率化

従来の住宅ローン融資のプロセスは非常に労働集約的です。住宅ローン申請の際、顧客は不動産の情報や自身の基本情報を書類としてまとめて提出し、融資担当者は申請書類や顧客の信用情報を元に見積もりや借入先の選定を行います。さらに顧客は、住宅ローンと同時に様々な保険商品を比較して、保険に加入する必要があります。

Betterはこれらの全てのプロセスをワンストップで自動化し、さらにAI(人工知能)を活用して住宅ローン手続きを効率化しました。その結果、見積もり回答までの時間を業界平均の1/22に、審査にかかる時間を業界平均の1/3にまで短縮することが可能になりました。

徹底した自動化と効率化の結果、Betterの人件費は業界平均より57%低く、ローンオリジネーター(原資産保有者)あたりの住宅ローン契約件数は1カ月で16.2件(業界平均は1カ月あたり7.1件)となっています。さらに、申請からクロージング(契約完了)までの期間は平均32日で、これはアメリカ合衆国住宅ローン事業者の平均42日と比べて10日も早い計算になります。

(参考)ソフトバンクグループ 「2021年3月期 決算説明会 プレゼンテーション資料」

住宅ローンの手続きをオンラインで完結

画像引用元:Better Holdco, Inc., 公式ホームページ

住宅ローン融資プロセスが自動化、効率化されることは顧客にとっても大きなメリットとなります。特にアメリカでは住宅ローン申請の際に、住宅の売り手と買い手から独立した第三者である「エスクロー」の仲介や、「インスペクター」と呼ばれる不動産鑑定業者による検査の実施が必要であり、手続きの完了までに膨大な時間やコストが必要となっていました。

一方のBetterのオンラインプラットフォーム、“Better.com”では、住宅ローン融資手続きをオンラインで完結できます。例えばインスタントローン見積もりは、いくつかの簡単な質問に答えるだけで約3分で融資限度額の目安を知ることができます。また、書類作成から第三者機関への委託、住宅ローンだけでなく、住宅の保険や所有権保険(タイトル保険)、不動産売買取引を行うことも可能です。

Betterのローン貸出額は2019年の0.5兆円から2020年には2.7兆円へと、1年で5倍以上の急成長を遂げています。顧客のコストを徹底的に抑えることで、結果的に顧客に選ばれるサービスとなっているのです。

住宅ローン業界へのテクノロジー企業の参入

画像引用元:Zillow 公式ホームページ

住宅ローン事業におけるテクノロジーの活用はこれまであまり注目されてきませんでしたが、近年は不動産売買などの隣接する事業者の参入が進んでいます。

例えば不動産事業に関する総合サービスを提供しているZillow(ズィーロウ)は、2018年以前まで住宅ローン事業者を紹介するだけにとどまっていましたが、2018年4月よりMortgage Lenders of America(モーゲージ レンダーズ オブ アメリカ)を買収し、住宅ローンの組成や融資を行う事業を進めています。

画像引用元:iYell 公式ホームページ

日本においては、住宅ローンプラットフォームを展開するiYell(いえーる)の取り組みがあります。同社は直接住宅ローンを取り扱うのではなく、住宅ローンを扱う全国金融機関の情報を一元化し、非対面で住宅購入の相談や住宅ローンの契約を完結することができる仕組みを構築しています。

iYellは2020年11月に株式会社十六銀行などの地方銀行や三菱地所グループなどの不動産会社を中心に、総額18.5 億円の資金調達を実施しており、創業以来の累計調達額は41億円となっています。

まとめ

いかがでしたか?Betterは住宅の購入を検討している個人や住宅の売り手を顧客として、住宅ローンや保険契約を100%オンライン化することで、効率的な住宅ローンの融資事業を展開していました。

同社はオンラインで完結するサービスを構築していたことで新型コロナ感染拡大による住宅販売のオンライン化の恩恵を強く受けており、例えば住宅ローン流通額は、新型コロナ感染拡大以前では月あたり約12億ドル(約1315億円)でしたが、2021年4月には月に40億ドル(約4380億円)にまで増加しているといいます。

同社は2021年末までに新規上場することを発表しています。上場後は事業をどのように展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。