- 近年アメリカでは、建設プロジェクトの費用見積を専業とする事業者が増加している
- Bldbox(ビルドボックス)は2017年アメリカ創業の建設費用見積専業の企業
- Bldboxは、顧客(ゼネコン、デベロッパー)ごとに過去のプロジェクトデータから見積を算定するため、±5%の精度で算定が可能
はじめに
建設プロジェクトの費用見積とは、用地の買取から建物を建設するまでに必要な全ての費用を予測することです。
総合建設事業者(以下ゼネコン)は、費用が予算を超過し、赤字が発生することを極力避けるため、費用見積に多くの時間と労力を費やしています。また、建設プロジェクトを検討しているデベロッパーは、プロジェクトから生まれる利潤を最大化するために、複数のゼネコンに費用見積を求めることが慣例となっています。
こうした商習慣から、近年アメリカの建設業界では、素早く正確に費用を見積もることが、ゼネコンの利潤を守り、デベロッパーが過払いを避けるために重要であると考えられるようになりました。その流れを受け、建設プロジェクトの費用見積を専門とする事業者が増加しています。
今回ご紹介するBldbox(ビルドボックス)は、他の数多くの見積業者とは異なり、顧客であるゼネコン各社ごとに過去のプロジェクトデータを参照して見積を算定することで、算定の正確さを高めています。一体どのような仕組みなのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
Bldboxとは?
Bldboxは、2017年にアメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコで創業されたスタートアップ企業で、「建設プロジェクトにおけるリスクを予測し、利潤を最大化する」という理念を掲げています。
同社が提供する費用見積サービス、The Bldbox Express Estimate(ビルドボックス エクスプレス エスティメイト)は、ウェブ上で使用することができ、顧客のゼネコンやデベロッパーは、独自の過去の建設プロジェクトの費用データを事前にインプットすることで、新しい建設プロジェクトの概算見積を30分以内に作成することができるといいます。
機械学習を利用した正確な費用見積
顧客ごとに費用モデルを作成
Bldboxの強みは、顧客の過去のプロジェクトから、各社ごとに費用モデルを作成する技術にあります。いかなる建設プロジェクトでも、事業者が異なれば実際の工事を請け負う施工業者の技術や、施工にかかる費用は異なります。そこで事業者ごとに過去のプロジェクトで発生した費用を費用見積サービスに読み込み、コンピュータ上で各社ごとの費用モデルを作成することで、事業者各社の費用構造に合った費用見積が可能になるのです。
Bldboxが作成する見積は入札に必要な水準である「概算見積」ですが、実際に生じる費用との誤差は±5%以内であるといい、算定の正確さが伺えます。また、事前に過去の費用モデルを作成しておけば、新たな建設プロジェクトの概算見積は30分以内に作成することができるといいます。
The Bldbox Express Estimateの費用モデル作成には、機械学習の技術が活用されています。機械学習とはコンピューターが過去のデータを元に未来のデータを予測する技術のことを指し、多くの過去データを蓄積することで、将来予測の精度を高められるというものです。
同サービスでは過去のプロジェクトを最低10回分を読み込むことが正確な算定を行う条件となっており、また費用見積を行うだけではなく、プロジェクトの完了後には実際に発生した費用を読み込んで費用モデルを修正するというサイクルを繰り返すことで、それ以降の見積の精度を高めていくことができるという仕組みになっています。
オプションごとの正確な算出
The Bldbox Express Estimateは、複数オプションの見積の同時作成にも対応しており、オプションごとに費用の比較を行うことができます。
例えば集合住宅では、階数、各戸の間取り、駐車場の有無など、何通りもの設計のオプションを考えることができます。低層階の小売店エリアや地下の車庫を設けることを検討する場合、同社のサービスで各オプションごとの建設費用見積を作成し、それに対して立地や周辺環境から算定した売上予測を組み合わせることで、費用対効果の高いプロジェクトを選ぶことが可能になります。
このように、同社のサービスは各社の過去データから見積の精度を高め、オプションごとの見積にも対応しており、建設プロジェクトへの入札を考えているゼネコンから、用地買収を考えているデベロッパーまで幅広い顧客に活用されています。
革新が進む費用見積技術
建設費用見積には様々な手法が取られてきました。最も基本的な手法として「積み上げ方式」があります。これは費用項目ごとに「単価×数量」を計算して合計するという方法であり、予想されない事態に対して「予備費」を計上することで見積に幅を持たせる場合が多くあります。この手法は原価の確認が容易である一方で、計算する項目が膨大であるため、非常に長い時間がかかってしまいます。
現在でも多くの見積サービスはこの「積み上げ方式」を採用しており、コンピューターによって入力を自動化したり、過去のデータから単価の入力を省略するといった方法で見積時間を削減しています。
一方、今回ご紹介した機械学習や人工知能を用いた見積サービスでは、コンピューターによる「統計的推論」によって単価を導出するという手法を取っています。これは、設計に関する情報をコンピューター上の推論モデルに当てはめ、単価を自動的に算出するというものであり、推論モデルが正確であるほど費用見積の正確さが増します。この方法では、人は設計に関する項目を入力するだけで良く、「積み上げ方式」より飛躍的に早く算出を行うことができるのです。
近年アメリカ合衆国では、効率性を大幅に向上させる新技術が注目されており、こうした機械学習や人工知能の技術を活用した見積事業者が増加しているのです。その中には以前当サイトでもご紹介した1buildやPillarPlusといった企業があります。
まとめ
今回は、近年アメリカ合衆国で建設プロジェクトの見積専業者が増加していることや、その中でも、機械学習や人工知能の技術を活用した事業者が、これまで数時間から数日をかけて作成していた見積を数分で作成できるようになり、存在感を増していることについて紹介してきました。
日本においても建設プロジェクトの見積には、専用のソフトウェアやExcelを利用することがほとんどですが、機械学習や人工知能を活用した見積技術としては、富士通の「SuperCALS ESTIMA 設計積算システム」(2018)などが注目されているのみで、新技術の活用が進んでいるとは言えません。
Bldboxは、今後アメリカ合衆国においてどれほどサービスを普及させていくことができるのでしょうか。同社のこれからの展開に注目です。