- 建物の空調設備を指すHVACシステムは、建物由来エネルギー消費の35%を占める
- 2017年カナダ創業のBrainBox AIは、AIを活用したHVACシステム効率を最適化し、エネルギー消費を最大25%削減、CO2排出量を40%削減可能
- BrainBox AIは2025年1月カナダのトレイン・テクノロジーズにより買収された
はじめに
HVACとは、暖房(Heating)、換気(Ventilation)、空調(Air Conditioning)の頭文字を取った言葉で、建物の空調設備のことを指します。国連開発計画によると、2018年における全世界の二酸化炭素排出量の39%は建物と建設プロセスに由来しており、うち米国においては建物由来のエネルギー消費の35%がHVACシステムにより発生しています。また、うち30%は無駄な消費となっています。国際目標である2050年の二酸化炭素排出量ネットゼロを達成するに当たり、HVAC関連のエネルギー消費の効率化が必要不可欠となっています。
Reserch Nesterによると、HVACシステム市場規模は2022年時点で1,360億ドルのところ、2035 年末までに 3,010億米ドルに達し、2023年から2035年までに年平均6.6%で成長することが予測されています。これはHVAC、照明、セキュリティ設備を合わせて自動化することで建物のエネルギー効率や資本効率を高めていく、スマートビルディング化の流れとも関連しています。
そこで今回ご紹介するのは、AIを活用してHVACシステムを最適化するイギリスのBrainBox AI Inc.(ブレインボックス エーアイ)です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
BrainBox AIとは?
BrainBox AIは2017年にカナダのモントリオールにて創業された、AI活用によるHVAC最適化システムの開発運営を行う企業です。会社名と同じ製品名のBrainBox AIはこれまでに70カ国、合計1億平方フィート(約920万平方メートル)以上の商業ビル空間にて利用されています。同社は2025年1月3日に、アイルランドの環境系企業Trane Technologies(トレイン テクノロジーズ)によって取得されました。
BrainBox AIは、既存のBEMS(ビルエネルギー管理システム)にアドオンする形で導入するもので、建物に特有の気温変化を学習・予測し、ビルのHVACのエネルギー効率を向上させます。電力使用量を最大25%削減、二酸化炭素排出量を最大40%削減、入居者の快適度60%向上させます。
Trane Technologiesによる買収直前の2024年9月にはAmazonにより金額非公開で資金調達を実施、2023年にはカナダのケベック州政府及びカナダの総合エンジニアリング企業ABBより3000万ドルを調達するなど、合計7510万ドル(約118億円)の資金調達を完了させています。
2021年6月より千代田区のX1Studio株式会社を正規代理店として日本市場に参入しており、デロイトが注目企業を選定する「ファスト50プログラム 2024」にも選出されています。
AIを活用してHVACシステムを自動化
BrainBox AIは、ビルの既存のBEMS(ビルエネルギー管理システム)にアドオンする形で導入することが可能で、初期工事の必要がありません。導入に必要な時間は2~3時間で、導入を完了すると、BrainBox AIはビルの空調稼働状況を2ヶ月ほどかけて学習し、制御を最適化させます。主に監視されるデータポイントは、外部の天候情報、ビルの室内温度、CO2量などです。これらから将来の気温を99.6%の精度で予測。電力需要予測に応じて空調設備を自動制御することで、ピーク時の消費電力を抑制します。
また同製品は運用の中で継続的に学習していくため、システムの効率性を継続的に向上させます。日本で製品を扱うX1Studioによれば、初期費用は不要、毎月の電力代の削減量から一定割合を月額料金として受け取る変動価格体系が採用されています。
BrainBox AIの音声アシスタントARIA
2024年5月、BrainBox AIは世界初となる音声認識機能を活用したバーチャルアシスタント製品「ARIA」を公開しました。ARIAは、アマゾン社が開発したドキュメント、画像、音声、動画などの非構造的なデータからインサイトを導出する生成AIプラットフォームのAmazon Bedrockを基盤としています。
ARIAは、ビル管理の日常業務にシームレスに統合でき、施設管理者のパートナーとして機能します。主な機能は次の通りです。
- 予測能力:運用上の問題を事前に回避し、ビルの死角を監視
- 360度のデータ分析:ビルのシステムと構成要素を詳細に分析
- 双方向のインタラクション:テキストや音声で操作可能
- 24時間稼働:ビル管理の最適化を常時サポート
- プロアクティブな管理:反応型から予防型の管理へ転換
以上を通じてARIAはビル管理チームの業務効率化を支援します。本製品は、TIME誌の「2024年の最も優れた発明品」に選出されています。
まとめ
いかがでしたか?今回はAIを活用してHVACシステムを最適化する、カナダのBrainBox AIをご紹介しました。BrainBox AIはBEMS(ビルエネルギー管理システム)を導入している建物においてシステムにアドオンすることで大規模な改修工事なしに導入することが可能で、約2ヶ月の学習期間を経て建物のHVACシステムを効率化させます。さらに2024年にサービスが公開された音声認識機能を活用したバーチャルアシスタント製品「ARIA」は、ビル管理業務において管理者の意思決定をバックアップする有益なインサイトを提供するとともに、管理業務の効率化を強力にサポートします。同社は今後どのように展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。