全天球カメラとAIを用いた建設デジタルツインサービスを展開するCUPIX

画像引用元:CUPIX公式ホームページ
海外事例
  • 建設産業において、仮想空間に環境やオブジェクトを再現する技術「デジタルツイン」の活用が進む
  • 建設デジタルツインサービスを展開するCUPIX Inc.(キュピックス)は、2020年にシリーズBの資金調達を実施、累計調達額を2030万ドル(約28億8000万円)とした
  • 同社は2023年にRICOHやNTTなどと戦略的パートナーシップを締結、世界市場での展開を進める

はじめに

画像引用元:CUPIX公式ホームページ

デジタルツインとは、仮想空間に具体的な環境やオブジェクトを再現する技術のこと。建設プロジェクトにおいてデジタルなモデルを構築することは、計画時点で構造や安全上の問題発見や、工期や予算の最適化に役立ちます。そのため建設産業におけるデジタルツインの活用は飛躍的に進んでおり、全世界の建設デジタルツイン市場の規模は、2023年時点で23億ドル(約3400億円)のところ、2028年までに550億ドル(約8兆4900億円)へと、年平均成長率17%で拡大していくことが予想されています(注)。

今回ご紹介するのは、アメリカを拠点に建設系デジタルツインのサービスを展開するCUPIX(キュピックス)です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

注)Forrester, “Untangle The Digital Twin As Part Of Your Digital Product Strategy” 2022

CUPIXとは?

CUPIXは2015年に韓国にて創業されたスタートアップで、全天球画像から3DのVR(バーチャルリアリティ)コンテンツを生成する、クラウドベースのアプリケーションを開発しています。2022年4月より、建設デジタルツインサービス、CupixWorks X(キュピックス ワークス エックス)をアメリカにてローンチ。カリフォルニア州を拠点にこの事業を展開しています。

同社は2020年にシリーズBにて130億韓国ウォン(約14億5000万円)を調達し、累計調達額を2030万ドル(約28億8000万円)としました。筆頭株主には韓国のVCでICTやバイオテックを手がけるAtinum Partnersが入り、その他に韓国系VCのMurex Partners、同じく韓国系VCのK2 Investment Partners、韓国のゼネコンWoomi Construction Corporation、アメリカのVCで不動産テックを手がけるBreeze Venturesが参画しています。

プロダクトローンチからわずか5ヶ月後の2022年9月にはオーストラリアのシドニーに拠点を開設し、オーストラリアおよびニュージーランド市場へと展開。現在は北米、オセアニア、日本、韓国にて事業を展開しています。直近年度の顧客成長率は165%、導入現場数の成長率は435%と、着実に業績をあげています。

全天球カメラとAIを活用したデジタルツインサービス

同社のメインの製品であるCupixWorks Xは、全天球カメラによって撮影した画像から撮影位置を特定し環境地図を作成する「SLAM」技術を搭載するAIエンジン、Gamma Engineをを活用し、デジタルツインを生成します。ユーザーはこれを、実際に撮影した全天球画像を確認する「360度パノラマビュー」と、撮影画像から3Dのモデルを構築した「ドールハウス(点群)」の2つのモードを使い分けながら確認することができます。

CupixWorks Xの使い方は非常に簡単。全天球カメラを担当者のヘルメットに装着し、建設現場を歩行して環境を撮影します。続いてCupixWorks Xのプラットフォームが画像を解析、明るさの調節やノイズの低減をしながら、バーチャル空間上に3Dのデジタルツインを作成します。また、簡単に導入可能な分析ダッシュボードSiteInsights™(サイトインサイト)により、ユーザーは複数の現場の進捗状況を1つのモニターで管理できます。

SiteInsights™は、自動完了率記録などの機能をもっており、プロジェクトの進捗状況を正確に測定、定量化して関係者と共有することができます。さらにプロジェクト内の問題箇所について、プロジェクト関係者間で間違いのないコミュニケーションを図ることも可能。「360度パノラマビュー」では、必要な箇所にアノテーションの書き込みができ、タスクのステータス(解決・未解決)の管理ができます。

これらに加え、同社は設備の保守点検などに活用できる3D地図作成サービスCupixVista、及びその分析ツールを備えたソフトウェアCupix VistaPoint™を発表しています。

製品機能を向上させる戦略的PTを続々発表

画像引用元:RICOH USA公式ホームページ

CUPIXは2023年11月に全天球カメラRICOH THETA Xを手がけるRICOH USA Inc.と戦略的パートナーシップを締結。また2024年4月には全天球カメラの世界シェア1位を誇るInsta360ともパートナーシップを締結。同社のカメラ製品「insta360 ONE X2」、「insta360 RS1inch」をCUPIXのデジタルツインサービスに活用することとしています。

さらに2024年3月には建設設計の3Dモデリング技術BIM製品を手がけるRevitzoとパートナーシップを締結。CUPIXが生成するデジタルツインと設計図の3Dモデルの比較からプロジェクト進捗を計算して管理する機能を向上させました。

創業者のSimon Bae(サイモン バエ)氏は、これまでにも3Dモデリング技術を応用した事業を創業している連続起業家です。1998年には韓国にて3Dスキャンニング事業のINUS Technologyを創業し、2012年に3D Systemsに事業売却。2010年にはVisPowerを創業し、2013年に同じく3D Systemsに事業売却しました。2015年創業のCUPIXについても、スピード感のある事業展開を見せています。

日本市場展開に向け、NTTが総合代理店契約を締結

画像引用元:NTTコミュニケーションズ株式会社公式ホームページ

2024年3月6日に、NTTコミュニケーションズ株式会社がCUPIXとの総合代理店契約を締結し、同日より国内向けサービスを開始することを発表しました(注)。

このパートナーシップにおいては、CUPIXの3Dデジタルツイン技術と、NTTコミュニケーションズのドローン、AI、セキュリティなどのシステムや知見とを組み合わせ、建設現場における管理業務のさらなる効率化実現が目指されています。

取り扱いはNTTコミュニケーションズのドローンソリューション部門であるdocomo skyが担います。ライセンス契約は、プラン(ドローン撮影や外部地理情報連携の有無)と、360° カメラで撮影する利用面積、利用期間、オプション有無により価格が変動する仕組みとなっています。

注)NTTコミュニケーションズ株式会社「建設現場向け3Dデジタルツインプラットフォーム「CupixWorks」の取り扱いを開始」

まとめ

画像引用元:CUPIX公式ホームページ

いかがでしたか?今回は建設デジタルツインサービスを展開するCUPIXをご紹介しました。CUPIXはデジタルツイン生成技術を建設プロジェクトに応用し、工程やコストを最適化することに貢献しています。プロダクトローンチから2年で世界市場への展開を果たし、戦略的PTを続々発表するなど、スピード感のある事業展開を見せています。今後の動向が注目されます。