- 不動産管理業界におけるテクノロジー需要の増加に対し、テクノロジーの浸透は進んでいない
- Entrataは不動産管理業界向けに包括的なデジタルソリューションを提供している
- Entrataのプラットフォームを通じて年間200億ドル以上の賃貸料決済が実行され、全米で2万以上のアパートコミュニティの管理業務が支援されている
はじめに
不動産管理業界におけるテクノロジー企業の参入事例が増加しています。その背景に、賃貸住宅市場の拡大と、テクノロジーに対する需要の増加があります。まず賃貸住宅市場の拡大の社会的要因としては、子供のいる世帯が減少し世帯あたり人口が減少していること、またベビーブーマー世代の高齢化に伴い賃貸住宅へと移動していること、さらにミレニアル世代が移動利便性と安さから賃貸住宅を選ぶようになっていることが挙げられており、2015年から2023年にかけて賃貸住宅に入居する世帯が400万世帯増えると予測されています。(注1)
他方のテクノロジーに対する需要増加の要因については、デジタルネイティブ世代が顧客の中心となるにつれて、賃貸管理業務をペーパーレス化し、オンライン上で完結できることが求められているということが挙げられます。しかし、不動産管理業界は不動産の所有者と入居者の他、仲介者、インスペクター(検査官)、設備工事事業者など、さまざまな関係者が存在し、個別領域での業務のデジタル化が進んだとしてもデータが複数のシステム上で分散して保存されてしまい、意味のある分析を行うことは困難となります。
今回ご紹介するEntrata(エントラタ)は、不動産管理業界向けに包括的なデジタルソリューションを提供している企業です。一体どのような企業なのでしょうか。詳しくみていきましょう。
注1: Tech Crunch “The Realities Of The Real Estate Technology Sprawl”
不動産管理業向けサービスEntrataとは
Entrataは不動産管理業界向けPaaS(パース)ソリューションを提供している会社で、2003年にアメリカ合衆国ユタ州にて創業されました。2015年にProperty Solutions International(プロパティ ソリューションズ インターナショナル)から社名を変更しています。
PaaSとは、アプリケーションを実行するための開発環境やOS、ハードウェアをクラウド上で提供する事業モデルで、ベンダーはアプリケーションの開発に注力することができるため開発工数を削減できるというメリットがあります。EntrataのPaaSプラットフォームは、多世帯向け不動産管理事業者に20以上の技術ソリューションを提供しており、単一のログインで、どのブラウザやデバイスからでもアクセスできるようになっています。また、オープンAPIを提供しているため、どのベンダーでもシステムに統合することができ、ユーザーは自分のニーズに合わせてプラットフォームを自由に構成することができます。これまでにEntrataのプラットフォームを通じて、ウェブサイト、モバイルアプリ、決済、住民管理などのさまざまなツールがユーザーに提供されており、年間200億ドル(約2兆2600億円)以上の賃貸料が決済され、全米で2万以上のアパートコミュニティの不動産管理業務に関わっています。
2021年7月には、IT企業を中心に大型の投資案件を扱うSilver Lake(シルバーレイク)、公共事業関連企業を中心に投資を行っているDragoneer Investment Group(ドラゴニア インベストメント グループ)、その他3名の個人投資家を調達先として、5億7000万ドル(約574億円)を調達しています。現在の年間経常収益2億ドル(約226億円)以上、従業員数は2100人以上となっており、2021年だけでも数百人の増員を計画しているといいます。
Entrataの4つの事業領域
Entrataには4つの事業領域、Management(マネジメント)、Marketing(マーケティング)、Leasing(リーシング)、Residents(レジデンツ)があり、合計45以上のプロダクトが同一のプラットフォーム上で提供されています。不動産管理事業者はこれらのプロダクトから必要なサービスを選ぶことで管理業務をデジタル化することができるのです。またサービス間で同一のデータベース、及び同一のプラットフォームが使用されていることから、サービス間の連携ができ、データから意味のある分析も行うことができます。
Management(マネジメント)サービス
Entrata Property Management Software(エントラタ プロパティ マネジメント ソフトウェア)は、賃貸業務を包括的に行うことができる柔軟で多機能なサービスです。会計管理、住宅管理、入居者との連絡などを取ることができます。
その他にも、学生寮の管理を行うEntrata Student(エントラタ スチューデント)、スマートホームの機能調整をスマートフォンから実行するEntratamation(エントラタメーション)、水道やガス、電気、インターネット等の住環境のトラブルの際に修理業者を手配することができるVendor Access(ベンダーアクセス)などのサービスがあります。
Marketing(マーケティング)サービス
ProspectPortal(プロスペクト ポータル)は、賃貸住宅の潜在顧客に対するマーケティングを包括的に支援するサービスです。Webの開設や不動産の特設ページをあらかじめ用意されたテンプレートから簡単に作成することができ、顧客のリード獲得のためのデータ分析のプラットフォームも用意されています。
また、AIが不動産の周辺情報や不動産情報から顧客の入居率を予測して、自動的に最適な賃貸価格を算出するEntrata Pricing(エントラタ プライシング)などのサービスがあります。
Leasing(リーシング)サービス
SiteTablet(サイト タブレット)は、賃貸管理事業者が運営している不動産の賃貸管理業務を支援するサービスです。スマートフォンやタブレットから利用できるアプリケーションが提供されており、入居者の情報、空室情報の取得、賃貸の電子契約機能などが含まれています。入居希望者の賃貸契約を進める際に、タブレット一つで契約を進めることができます。
Residents(レジデンツ)
Residentサービスでは、Resident Portalアプリが提供されています。このアプリは携帯電話から家賃の支払い、写真付きのメンテナンスオーダーの提出、マンションコミュニティとのコミュニケーションができるというもので、ワンタップでの家賃の支払い、1回限りまたは定期的な家賃の支払いの管理、家賃督促のプッシュ通知を受け取ることができます。
その他にも、光熱費の管理を行うResident Utility(レジデント ユーティリティ)、住宅保険の管理を行うResident Insure(レジデント インシュア)などのサービスがあります。
Entrataを導入した不動産管理事業者の事例
Lincoln Property Company(リンカーン プロパティ カンパニー)は、アメリカ合衆国テキサス州に拠点を置く不動産管理事業者で、全米28州にある750の物件の業務をペーパーレス化することを目指していました。
同社の課題はペーパーレスのためのソリューションを導入することではなく、入居者と現地の賃貸エージェント間の信頼関係を維持したままペーパーレス化を進めていくことにありました。まずEntrataは現地の賃貸エージェントに対する教育プログラムを実施し、賃貸エージェントと居住者の間でペーパーレス化の重要性についての認識を共有するところから始めました。
Entrataが導入したのは、家賃の支払いや、メンテナンスの依頼を写真付きで提出したり、賃貸エージェントとの連絡を取ることができるResidence Pay(レジデンス ペイ)というアプリでした。これを通じて賃貸エージェントと入居者間の結びつきがさらに強くなった一方で、80%以上の業務でペーパーレス化に成功したといいます。
まとめ
いかがでしたか?Entrataは不動産管理業務に関する包括的なデジタルソリューションを提供している企業で、45以上のプロダクトを同一のプラットフォーム上で提供していました。2021年7月の資金調達を受けたプレスリリースにて、今後はプラットフォームの研究開発費を2倍以上に増やし、近い将来に予定されている国際的拡大を含む積極的な市場戦略を採用すること。また、人材への積極的な投資や顧客体験の効率化を図る計画であることを明らかにしています。今後同社はどのように事業を展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。