モジュラーハウスが住宅難を救う!テック企業が投資する住宅メーカーFactory_OSとは?

海外事例
  • 米国の都市部では住宅価格が高騰し、中低所得世帯の住宅難が深刻に
  • 米国の住宅メーカー「Factory_OS」は、プレハブ・モジュールを組み合わせて建設するモジュラーハウスを手掛ける
  • Factory_OSのモジュラー工法は従来の建設方法に比べて20~40%価格を抑制し、40~50%工期を短縮できる

はじめに

画像引用元:Local Government Community “The Move to Modular Housing: Cutting Costs to Advance Affordable Housing”

アメリカのサンフランシスコやニューヨークなどの都市部では、活力のある経済や産業の集積により多くの人々が流入し、住宅価格や家賃の高騰が社会問題となっています。

そこで注目されているのが「アフォーダブル住宅」です。アフォーダブル住宅とは、中低所得世帯でも購入できるよう、住宅費負担が収入のおよそ30%以下となる価格で供給される住宅のこと。アメリカでは1990年の「全米アフォーダブル住宅法」により、中低所得世帯の住宅取得を補助する財政枠組みが形成されています*。しかし、米国低所得世帯住宅協会(National Low Income Housing Coalition)によると、依然としてアフォーダブル住宅は全米で700万戸不足しているとされています。

中低所得世帯への住宅供給としては、1990年代以前まで地方公共団体が「公営住宅」を維持管理していましたが、その後新規供給は減少しており、代わりに民間非営利企業のコミュニティ ・デベロップメント・コーポレーション(CDC)が主な担い手となっています。ところが、CDCは民間の事業者として住宅事業を行うため、不採算のCDCが事業撤退する事例もあります。中低所得世帯向けの住宅供給政策においても市場原理が働いており、「低コスト」での住宅建設が求められているのです**。

画像引用元:Factory_OS公式ホームページ

今回ご紹介する「Factory_OS」(ファクトリー_オーエス)は、建設物の構造とMEP(機械、電気、配管)設備を工場で建設し、建設現場でレゴブロックのように組み立てる「モジュラー工法」を専門とする住宅メーカーで、「低コスト」が求められるアフォーダブル住宅供給の担い手として注目されています。どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

* 財団法人 自治体国際化協会(2006)「米国の住宅政策」
** 海老塚良吉(2008)「アメリカの住宅政策と民間非営利住宅事業」

Factory_OSとは

Factory_OSは2017年にアメリカ合衆国カリフォルニア州にて創業された、モジュラーハウス専門の住宅メーカーです。創業3年目の2020年11月にはシリーズBで5500万ドル(約58億円)の資金調達を実施しており、これまでの調達総額は7770万ドル(約82億ドル)にものぼります。

株主には住宅事業中心の投資会社Lafayette Square Holdings(ラファイエット スクエア ホールディングス)の他、建設ソフトウェア企業最大手のAutodesk(オートデスク)や、米インターネット企業最大手のGoogleとFacebook、金融機関Citygroupが名を連ねています。

IT企業によるアフォーダブル住宅事業への投資

画像引用元:Factory_OS公式ホームページ

急成長の背景には、アフォーダブル住宅建設の需要増加があります。前述のように、GoogleやFacebookなどの巨大IT企業がこぞって本社を置くサンフランシスコのシリコンバレーでは、住宅価格の高騰が著しく深刻な住宅難が発生しています。

年間10万ドル(約1040万円)の所得がある4人世帯でさえも低所得層とされ****、所得の低い世帯や産業に従事する人々は都心に住居を持つことができない状況となっているのです。

そこに目をつけたのもやはり巨大IT企業でした。工場で住宅モジュールを製造し、現地で組み立てるモジュラーハウス事業をはじめとして、GAFAによるアフォーダブル住宅事業関連投資が増加しています。Googleは関連事業へ2億5000万ドル(約263億円)の投資を決定しており、この投資プロジェクトの一つとしてFactory_OSが選ばれているのです。

*** Google(2019) “$1 billion for 20,000 Bay Area homes”
**** 日経クロステック(2020)「GAFAの『罪滅ぼし』で注目のアフォーダブル住宅、商機を嗅ぎ付け起業続々」

モジュラー工法で効率性を追求

画像引用元:Factory_OS公式ホームページ

Factory_OSが本社を兼ねる工場は、第二次世界大戦中に潜水艦の建設を行なっていたという巨大で奥行きのある建物で、およそ24,000平方メートルの面積を誇ります。この広大な敷地で、同社が念頭に置いているのは「自動車産業」です。自動車の生産ラインでは、工程ごとに同一部品、同一の方法で自動車を組み立てるため、同一品質で大量生産が可能となります。

Factory_OSにおいても、同じ構造設計により住宅モジュールが建設されます。1モジュールの構造建設に必要な時間はたったの2時間半だといい、熟練の技術者を必要としないため、住宅を同一品質で大量生産を行うことができます。

そのため同社のモジュラー工法は、従来の建設方法に比べて20~40%低価格で、40~50%工期を短縮できるのです。

画像引用元:Factory_OS公式ホームページ

さらに、構造やMEP設備設計にはAutodeskのBIMソフトウェアが活用され、不必要な資材や運搬コストを削減しています。

基本構造に必要な資材をほとんど規格化しているため、資材の調達や管理にかかるコストを抑えることができるだけでなく、工事の過程で発生するゴミを従来の3分の1に抑えることができるといいます。

組み立てはたった10日で

画像引用元:Factory_OS公式Youtube

Factory_OSは主に7階層以下の中低層の建設プロジェクトを中心に事業を実施しています。

カリフォルニア州オークランドの事例では、110個のモジュールを組み合わせる工事が実施されました。現場にモジュールを搬入する工事は2019年12月に実施されましたが、作業はたったの10日で完了し、内装工事や検査を経て2020年1月に入居者に部屋を受け渡すことができたといいます。

建設現場で基礎工事を実施している間に、モジュールを工場で建設することができるため、工期を大幅に短縮することができるのです。

まとめ

いかがでしたか?当サイトではこれまでにも、デザイン性の高い戸建てのモジュラー住宅を提供するCover(カバー)や、Connect Homes(コネクトホームズ)をご紹介しています。

今回ご紹介したFactory_OSは、モジュラー工法に生産ラインを徹底的に効率化することで、同品質のモジュラーハウスを大量に生産することを可能としています。現在アメリカで深刻化している住宅難に対して、同社のモジュラーハウスが解決策となるのでしょうか。今後が期待されます。