- 保険業界ではサービシングや収益率の改善のためにテクノロジーを活用する、インシュアテック(InsurTech)が注目されている
- シリコンバレー発のForesight(フォアサイト)は建設現場の安全管理をサポートすることで労働災害の発生数を31%抑制し、保険金請求額を18%抑制することに成功
- 労働災害の予測・予防アプリSafesite(セーフサイト)と連携し、建設、農業、製造などにも保険商品を展開している
はじめに
保険業界では、2010年代よりサービシングや収益率の改善のためにテクノロジーを活用する、インシュアテック(InsurTech)が注目されています。例えばIoTを用いたセンシングや、SNSなどから取得したデータを活用し、個人に最適化した保険商品を提供したり、保険の販売から支払までの業務フローを改善するというものです。Grand View Researchの市場レポートによれば、「2021年のグローバルなインシュアテック市場の規模は38.5億ドル(約5890億円)であり、2022年から2030年までの間に年間成長率51.7%で拡大する」と予測されています。
保険業界にとって建設関連分野は、事故発生数や保険請求額が大きい重要分野で、インシュアテックを通じたイノベーションが求められます。とりわけ課題とされてきたのは、事故発生の予測と抑制です。今回ご紹介するForesight Commercial Insurance(フォアサイト コマーシャル インシュランス、以下Foresight)は、建設現場の安全管理をサポートすることで労働災害の発生数を31%抑制し、保険金請求額を18%抑制しています。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
建設現場の安全管理と労災保険のForesightとは?
Foresightは2019年にアメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコにて創業された、建設業界の安全管理と労災保険を扱う企業です。2022年1月にシリーズBで3900万ドル(約55億2000万円)を調達し、合計調達額を5810万ドル(約82億7000万円)としました。同ラウンドを率いたのはカナダはトロントの老舗ファンドOMERS Venture、シリコンバレーの建設特化ファンドBrick & Mortar Venturesで、その他にGeorge Kaiser Family Foundation、DG Ventures、Builders VCが参画しています。
Foresiteのソリューションとは建設現場における安全管理をサポートし、安全への取り組みの度合いによって保険金額を最適化するというものです。安全への取り組みを改善させた企業に対して保険金額を廉価に提供することで、労働災害の発生を抑制するインセンティブを企業側に付与します。結果として労働災害そのものの発生を抑制し、保険金請求も抑制させることができるのです。
Foresightグループの傘下には、Foresight とともに建設現場の安全管理をサポートするアプリSafesite(セーフサイト)があり、ForesightとSafesiteはサービス連携によって現場での安全管理を推進しています。ForesightのCEOである David Fontain(デビッド フォンテイン)氏とSafesiteのCEOであるPeter Grant(ピーター グラント)氏は長年の友人関係にあります。先述の通り、これまでに利用者の労働災害発生数を平均31%削減し、保険金請求額を18%抑制するという目覚ましい成果を上げており、すでに米国の上位20社のうちの14社を含む、165社の保険業務指定代理店と提携しています。
Foresightを活用した労働災害の抑制
Foresightを通じて保険契約をした事業者は、安全管理をサポートするアプリSafesiteを通じて現場における労災発生予防に取り組みます。Safesiteは建設計画や安全対策を読み込み、危険を予測。現場の作業者がアプリを通じてサービスにアクセスし、労働安全衛生局(OSHA)の安全管理プログラムに沿って安全策を講じることをサポートするのです。これによりForesightは現場における作業者の安全のためのアクションを250%増加させ、労働災害抑制に貢献しています。
以上の取り組みは、保険会社にとって財務予測を向上させることにもつながり、保険会社の信用格付けにも影響します。Foresightの保険業務のキャリアとなっているMSトランスバース保険グループは、AM Bestが発表している財務強度と長期発行者の信用格付けにおいて「A-」から「A」へと引き上げられています。
またForesightは2023年7月に保険商品の最適化に向けたAI技術を開発するCLARA Analytics(クララ アナリティクス)とパートナーシップを結び、保険金請求データの分析とサービス改善に引き続き取り組んでいくことを発表しています。
建設、農業、製造など、幅広く保険商品を展開
建設産業に限らず、フィールドでの作業を要する産業では、労働災害の抑制が課題となっています。そこでForesightはSafesiteの労働災害予測サービスを他の様々な業界に適用し、保険商品を展開しています。
製造、農業、果樹園、造園、珍しいところでは樹医といった業種など、全米補償保険協議会協議会(NCCI)が定める660の職種コードに対応しており、現在アメリカ合衆国南部の15州で事業を展開しています。
まとめ
いかがでしたか?今回は、建設現場の安全管理と労災保険を取り扱うForesightをご紹介しました。Foresightは姉妹企業のSafesiteを通じて、建設現場の安全管理を改善し、事故発生を抑制、また保険請求額を抑えることで、安全の向上と保険収益率の改善を果たしています。同社はこれからどのように事業を展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。
これまでCONTECH MAGでは、InsurTech(インシュアテック)の新サービスとして、労災保険を含む建設関連保険の運用を管理するBilly(ビリー)や、建設現場に設置するスマートセンサーを通じて事故の発生予測・回避をサポートするPillarTechnologie(ピラーテクノロジーズ)などをご紹介してきました。ぜひ合わせてご覧ください。