住宅製造のモジュール化により、建設プロセス全体のコスト予測と低環境負荷を実現するModulous

画像引用元:Modulous公式ホームページ
海外事例
  • 都市人口の増加による住宅不足で、イギリスでは400万戸、アメリカ全土では500万戸の住宅供給が必要とされる
  • イギリス発建設テックスタートアップModulousは、住宅製造をモジュール化することで、プロセス全体のコスト予測と環境負荷の低減を実現する
  • Modulousは自社工場を持たないことで、住宅の構成要素(モジュール)の設計とプロセス全体の効率化に注力している

はじめに

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都市人口の増加により慢性的な住宅不足は年々悪化しています。イギリスでは400万戸(注1)、アメリカ全土では500万戸(注2)が不足していると試算されており、高品質の住宅を低価格かつ効率的に供給する方法の確立が急務となっています。

そこで注目されている技術の一つが、モジュラーハウスです。モジュラーハウスとは、いくつかの建材を組み合わせ、まとまった構造や機能を持たせたもの(モジュール)を基本単位として、施工現場でモジュールをレゴブロックのように組み上げることで完成する建物のことを指します。モジュールハウスは、モジュールを工場等でオフサイト建設(プレファブリケーション)することができ、施工管理やプロセスの効率化に強みがあることが特徴です。

今回ご紹介するModulous Ltd(モジュラウス)は、以上のモジュラーハウスの考え方を応用し、建設設計を標準化することでサプライチェーンを効率化するとともに、建設プロセス全体のコストを数時間で見積もり、投資利益率(ROI)の最適化をサポートするソフトウェアを提供しています。一体どのような企業なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

(注1)ENGLAND SHORT OF FOUR MILLION HOMES
(注2)Commissioned by the National Housing Federation (NHF) and Crisis from Heriot-Watt University

Modulousとは

Modulousは2018年にロンドンにて創業された建設技術企業で、住宅開発業者、建設会社、建築家などがファブレス(自社工場を持たずに)でモジュラーハウスを建設することを支援しています。2021年10月にはKaterra出身の経営陣を迎え、アメリカのシアトルにも拠点を開設しました。

2022年9月にはシリーズAラウンドで1150万ドル(約15億8000万円)の資金調達を実施し、合計調達額を2180万ドル(約30億円)としました。最新の資金調達にはドイツの不動産開発会社パトリシアのベンチャー部門であるエスエフブイ、英国の著名な不動産開発会社の一つであるリーガル・ロンドン、建設大手セメックスのベンチャー部門であるセメックス・ベンチャーズ、ブラックホーン・ベンチャーズ(米国)、グランドブレイク・ベンチャーズ(カナダ)、ゴールドエース(英国)、リーラ・キャピタル(英国)が参画しています。

Modulousが開発するソフトウェアは、住宅の設計から供給に至るまでの2つの工程を自動化します。第一に、Kit of PartsTM(キット・オブ・パーツ)と呼ばれる特許技術を用いた、モジュラーハウスの設計の自動化です。キット・オブ・パーツとは、オフサイトで建設する住宅モジュールのことで、9つのサブアセンブリと1,500のコンポーネントによって成り立ちます。Modulousではこのキット・オブ・パーツの設計を自動化すると共に、Modulousのパートナーサプライヤーがモジュールを生産することにより、建設業者が自社工場を持たずにモジュラーハウスを建設することを可能にします。パートナーサプライヤーには、CEMEX(セメックス)、Knauf(クナウフ)、Ideal Standard(アイディアル スタンダード)、Ibstock(イブストック)といった企業が名を連ねています。

第二に、建設プロセス全体のコスト見積もりの自動化です。キット・オブ・パーツにより住宅を製造するということは、それぞれの建設資材やその調達、組み立て、運搬、施工の全ての工程で必要なコストを捉えることが可能だということを意味します。Modulousでは、建設プロセス全体のコストを数時間で計算し、最適な投資利益率(ROI)の計測を可能にし、また、住宅のライフサイクル全体を通じて発生するCO2量を抑制することができます。

Modulousの特許技術、Kit of PartsTM(キット・オブ・パーツ)

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先ほど述べたようにModulousは、カスタマイズ可能なKit of PartsTMを提供することで、デベロッパーが工場なしでモジュールを製造することを可能にしています。

9つのサブアセンブリと1,500のコンポーネントからなるキット・オブ・パーツは、Modulousのパートナー工場によって供給されるもので、特定のプロジェクトに合わせてカスタマイズ可能で、また建設予定地付近のローカルな施工業者による施工が想定されています。

従来のモジュールハウスではデベロッパーが自社工場を保有し、自社の資源を用いてモジュールを製造し、輸送し、施工することが一般的です。一方Modulousでは、自社工場を持たないデベロッパーと、モジュールを製造する工場をソフトウェアを用いてつなげることで、一般的なデベロッパーがモジュラーハウスによる建設プロジェクトに参入することをサポートしているのです。

建設プロセス全体のコスト計算の自動化とROIの最適化

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Modulousは、建設設計から調達・組み立て・施工の全ての工程で、ソフトウェアによる建設プロジェクトの管理を行います。その際に活躍するのが、先程紹介したKit of PartsTMです。

Kit of PartsTMのモジュールや部品の情報には、部品の調達や価格に関する情報が含まれます。これらの情報を組み合わせることで、Modulousは建設プロセス全体でかかるコストの把握をすることができます。また、ある建設プロジェクトが完成までにあとどの程度の時間がかかるのかが分かります。これにより、建設プロジェクトへの投資段階で投資利益率(ROI)を評価することも可能です。

また以上のデータは、炭素目標や廃棄物目標土地やプロジェクトの設計や評価に活用することができます。

CO2排出量ネットゼロを目指すアフォーダブル・モジュラーハウス

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Modulousの住宅は人の居住時に発生する二酸化炭素排出量がゼロとなるように設計されています。現在、RIBA(王立英国建築家協会)による基準である1200kgCO2e/m2に対し、Modulousの具体的なカーボンフットプリンは710kgCO2e/m2となっていますこれは「ビジネス・アズ・ユージュアル」に対して60%の改善となります。

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一方でModulousの次の目標は、さらに上を目指すことです。2030年までに建設過程から住宅使用に至るまでの全ての過程で炭素排出量ゼロを達成することを目指し、持続可能な調達に関する国際規格である「ISO20400」を活用して輸送、設置における炭素排出量の削減を目指しています。

まとめ

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いかがでしたか?これまでContech Magでは、Factory_OS(ファクトリーオーエス)、Veev(ビーブ)、ClarkPacific(クラークパシフィック)、Xtreme Cubes(エクストリーム キューブス)、Connect Homes(コネクトホームズ)、ManufactOn(マニュファクトン)、Cover(カバー)といったモジュラー建設、プレハブ建設を専門とする企業を紹介してきました。これらの企業とModulousの違いは、そのビジネスモデル上の立ち位置の違いにあります。

例えばFactory_OSやConnect Homesは、自社で設計したモジュラーハウスを自社工場で製造し、組み立てまでを管理することで建設工程を効率化しています。いわば自社の工場に投資を行い、サプライチェーンを垂直統合していくことにその強みがあるといえるでしょう。一方でModulousは、キットオブパーツの考え方により設計を標準化し、サプライチェーンを効率化するソフトウェアの開発に注力しています。Modulous自体は工場を持たず、製造でもコンストラクターでも、サプライヤーでもない第三者の立場から、住宅の製造から供給までのサプライチェーン全体を効率化することにその強みを持っています。このことは、コストのかかる工場を持たずに、経営資源をデジタル部門に集中できることを可能にします。

Modulousは今後どのように事業を展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。