- 行政機能のデジタル化を民間が支援するGovTechと呼ばれる分野が注目されている
- アメリカのGreenLiteを建設許可取得を自動化するソリューションを提供
- GreenLiteはAIによる書類のコンプライアンス管理とPrivate Plan Review(民間による設計審査)を組み合わせた独自のソリューションを構築している
はじめに
画像引用元:GreenLite公式ホームページ
近年、GovTech(政府テック)と呼ばれる分野が世界的に注目されています。これは行政機能のデジタル化を民間SaaSが支援するものであり、調達・申請・許可・住民サービス・文書管理といった、従来行政や司法の領域だったところへ、スタートアップが進出する潮流です。e-permitting(許認可ソフト)市場はグローバルで2024年時点で約12.5億ドル(約1876億円)、2033年には約37億ドル(約5553億円)までと年平均成長率にして12.8%の拡大が予測されています(Growth Market Report 2024)。
中でも建設許可は、米国だけでも147.8万件/年という大きな基盤があり、AIと専門家レビューの外部化が数億から10億ドル級の市場を形成している可能性があります(アメリカ合衆国国勢調査局 2024)。従来、民間企業は建設許可において申請書類の作成や設計図面の提出といった補助的な業務に関与するにとどまっていましたが、近年では許認可の滞りがインフラ等の着工遅延・コスト増を招く点が注目されており、許認可のボトルネックを外す価値が企業側においても政策面でも重要となっています。
そこで今回は建築許認可取得を自動化するアメリカのGreenLite Technologies, Inc(グリーンライト、以下GreenLite)をご紹介します。一体どのような企業なのでしょうか。詳しくみていきましょう。
GreenLiteとは?
画像引用元:GreenLite公式ホームページ
GreenLiteはアメリカのテキサス州オースティンに2022年に創業された企業で、建築許認可の取得を自動化するサービスを提供しています。同社の創業者であるJames Gallagher(ジェームス・ギャラガー)氏とBen Allen(ベン・アレン)氏はいずれもオンラインコンビニサービスのGopuff(ゴープフ)の元幹部であり、大規模オペレーションとロジスティクス効率化の経験を、建設許可の領域に転用しています。
アメリカでは自治体ごとに建築コードが細分化されており、設計図面の審査・リビジョンには数週間から数カ月の遅延が発生するのが業界の常態となっています。この非効率構造を変えるべく、同社はAIによるコンプライアンス指摘機能と建築・都市計画の専門家チームによるPrivate Plan Review(民間による設計審査)を組み合わせた独自のソリューションを構築しました。
同社の顧客は、Fortune500企業を含む大手小売チェーン、銀行、商業施設デベロッパー、さらにはマルチファミリー住宅や物流拠点を展開する不動産開発会社など多岐にわたります。Walgreens、O’Reilly Auto Parts、TD Bankなどが導入企業として報じられていますが、いずれも多数の店舗を各州に展開する企業です。これらの業態では、地域ごとの許可遅延が事業全体のROIやキャッシュフローに直結するため、GreenLiteのような「許可取得の可視化と前倒し型の法令適合サポート」は、バックオフィス領域でありながら戦略的な意味を持つ投資とみなされています。
資金調達の面でも、GreenLiteは短期間でシリーズA・Bを完了しています。2024年9月のシリーズAではCraft VenturesやLiveOak Venturesが参加し、約2,850万ドル(約42億7800万円)を調達。その後2025年9月にはInsight PartnersがリードするシリーズBラウンドで4,950万ドルを追加し、累計調達額は約8,000万ドル規模に達しました。投資家の顔ぶれを見ると、初期のSaaSスタートアップをスケールさせた経験を持つベンチャーキャピタルと、インフラ・エネルギー・都市開発領域への投資に強いファンドの両方が名を連ねており、同社がSaaS企業であると同時に、都市インフラのデジタルガバナンスという新興領域のプレーヤーとして期待されていることがうかがえます。
GreenLiteの建設許認可ソリューション
画像引用元:GreenLite公式ホームページ
GreenLiteは、建設許可(Permitting)のプロセスを根本から再設計することを目指しています。従来の許可取得プロセスは、「図面を提出する → 行政審査を待つ → 指摘が返ってくる → 再提出する」という循環を繰り返すもので、進捗の可視性が低いことが課題でした。開発事業者にとって、この待ち時間こそがプロジェクト全体のROIを大きく圧迫する構造的ボトルネックとなっていました。
GreenLiteはこの非効率性に対して、次の3つの機能を組み合わせたソリューションを提供します。
1 AIによる法規適合チェック(Pre-Permit Intelligence)
GreenLiteは、各自治体と州の建築コードに基づく「典型的な不許可・再提出指摘パターン」を独自のライブラリとして蓄積しています。建築図面や配置計画、設備配置などのデータをアップロードすると、AIが自動的に内容を解析し、「どの条文に抵触する可能性があるか」を事前に指摘します。
この仕組みにより、事業者は正式な許可申請を行う前の段階で、ほぼリアルタイムに法規リスクを把握できるようになります。これまでは「提出しなければ問題点が見えない」という構造でしたが、GreenLiteはその前工程に“逆算型のレビュー”を導入しています。
2 Private Plan Review(民間設計審査)+専門家チーム
GreenLiteはAIの指摘だけでなく、元自治体審査官や建築規制の専門家によるレビューサービスも併用しています。これは米国の一部地域で制度化が進んでいるPPR(Private Plan Review)に対応したもので、正式に許可審査の一部を民間に委託できる枠組みです。
従来、図面の修正や質疑応答は行政の担当官とのやり取りに限定されていました。しかしGreenLiteでは、行政とほぼ同じ視点を持つ民間レビュアーが事前の行政代行審査を行うため、実質的に行政審査のリハーサルを行うことができます。
3 Permit Progress Dashboard(許可進行の可視化インターフェース)
GreenLiteは単なる判定ツールではなく、プロジェクトの許認可ステータスを可視化するSaaSダッシュボードを提供しています。これにより、どの図面が審査中か、どの自治体のどの条文がボトルネックになっているのか、チーム全体で把握できるようになります。
従来は「行政に問い合わせをしなければ進捗がわからない」という暗黙の前提がありましたが、GreenLiteのダッシュボードではPermittingが開発工程の一部として管理できるようになります。この機能は、特に多店舗展開チェーンや複数州にまたがる大規模デベロッパーにとって、ガントチャートの精度を上げるための実務的インパクトを持ちます。
GreenLiteが変えた許認可の現場の事例
GreenLite の導入効果を理解するうえで象徴的なのが、TD BankとChipotleの事例です。いずれも異なる業態でありながら、「許可プロセスのボトルネックを事業価値に転換する」というGreenLiteの思想が、実務の中でどのように作用したのかが鮮明に現れています。
TD Bank — 金融機関の改装プロジェクトを“待たないプロセス”へ
画像引用元:GreenLite公式ホームページ
TD Bank は、フロリダ州ネープルズで支店の改装プロジェクトを進めていました。銀行という業態は、セキュリティや設備基準に関して規制が多く、自治体審査でも細かな修正指摘が発生しやすい傾向があります。通常であれば、設計提出から承認まで数カ月単位の時間がかかり、再提出が2〜3回発生することも珍しくありません。
しかしGreenLiteを導入した結果、このプロジェクトでは18 営業日での承認取得を実現し、さらに自治体からのリビジョン依頼はゼロ件という結果になりました。事前のAIチェックと専門家レビューにより、行政審査で発生するはずの指摘を事前に吸収できたためです。TD Bank はこの短縮期間によって、改装後の営業再開を早めることができ、24 万ドル以上の潜在的収益機会を取り逃さずに済んだと報告しています。ここでは、許可の迅速化が単なるスピードの問題ではなく、「金融店舗の収益キャッシュフローを守るための施策」として位置づけられている点が印象的です。
Chipotle — 飲食チェーンの出店戦略に“許可のデータ化”を組み込む
画像引用元:GreenLite公式ホームページ
ファストカジュアル業態のChipotleは、フロリダ州ロイヤルパームビーチで新店舗の建設計画を進めていました。飲食系の新規出店は「フードサービス基準」「駐車場・設備配置」「消防・衛生規定」といった複数の法規にまたがるため、自治体側の審査工程も多層的になります。
従来の見積もりでは、自治体の許可取得には約16週間(4カ月)を要すると想定されていました。しかしGreenLiteのソリューションを使った結果、申請から承認までの期間はわずか3週間。しかもこのケースでも、自治体からの修正要求は一切なく、一度目の提出で審査が通過しています。
Chipotleはこの迅速化によって、75万ドルを超える潜在コストの削減・売上機会の前倒しができたと評価しています。さらに特筆すべきは、GreenLiteが提供するダッシュボードを通じて、この許可プロセスが“分析可能なデータ”として蓄積されたことです。Chipotleは次の出店候補地において、「この自治体では過去に3週間で許可が下りた」という実績を指標にしながら、新規プロジェクトの投資可否判断を行えるようになったと説明しています。
まとめ
画像引用元:GreenLite公式ホームページ
いかがでしたか?今回は建設許認可の取得をAIで効率化するGreenLiteをご紹介しました。GreenLiteが実現しようとしているのは、「建設許可を時間的コストからデータ資産に変える」という転換です。許認可はこれまで“外部要因”として扱われてきましたが、AI解析結果や指摘履歴のパターンが蓄積されることで、プロジェクトの立ち上げ段階から精度の高い予測と設計準備が可能になります。つまりGreenLiteは、行政プロセスを「設計の延長」として取り込むことで、Permittingそのものをインフラ化するという方向に市場を動かしています。建設テックの多くが現場自動化や施工管理に注目する中で、GreenLiteはあえて行政手続きの入口にイノベーションを投下している点が極めて特徴的です。GreenLiteは今後どのように展開していくのでしょうか。今後の動向が注目されます。





