本記事は、建設現場のプロジェクト管理ツール「GenieBelt」を提供するGenieBelt社の記事「Top 10 construction technology trends for 2020」を許可を得て日本語訳したものです。
はじめに
建設業界は今大きな変革を迎えようとしています。この業界の歴史を振り返った時、いくつかの偉大な進化があったことに気づかされます。そして、2019年には更なる進化が起こることが予想されます。ここでは、実際に今後建設業界で起こるであろうトレンドを10個紹介していきます。
1.拡張現実(AR)
建設メディア「Construction World」は、「仮想現実(VR)は、ここ数年新しいトレンドと言われてきたが、拡張現実(AR)の利用シーンや利点と比べると、急速に時代遅れになっている」と言っています。
拡張現実とは、カメラレンズを通して現実の世界をビジュアル化する機能です。建設業界にとって、この技術はコストはかかりますが、新たに多くの可能性を切り開くに違いないものです。
もしこの技術を採用するのに十分な資金があれば、その建設会社に大きな革新をもたらすと考えられます。拡張現実は間違いなく近年のトレンドになるでしょう。
安全ゴーグルの代わりに拡張現実技術を活用して、着工前に工事の計画や区画を始める日も近い、と多くの人が信じています。
2.建設ソフトウェアとデータエコシステム
建設業でソフトウェアの活用はすでになされていますが、将来活用される範囲が格段に広くなると考えられます。ソフトウェアが建設業界のパラダイムシフトの一角を担っているのは言うまでもありません。
全ての業者がプロジェクトに関する知識と情報を共有することが可能になるデータエコシステムの出現はそう遠くない将来に起こると考えられます。そして、それが建設業を前進させる唯一の手段になると言っても過言ではないでしょう。
データエコシステムは、既存のプロセスとシステムを一つの繋がったプラットフォームに統一する機能により、人びとの作業効率を高めます。プラットフォームは、建設プロジェクトの過程で生まれた、様ざまな機能や分野のためのソフトウェアを簡単に一箇所にまとめ上げることを可能にします。
デジタルツールを使用することで、貴重な情報の蓄積を容易にし、さらには遅延や作業のやり直し率、現場とオフィスの間の連絡ミスを最小化します。ソフトウェアは建設工程を支える土台になると考えてもよいでしょう。
3.BIM
昨年同様、BIM *(Building Information Modeling)は最も注目されるトレンドの一つになると言えるでしょう。オープンかつハイレベルなデータエコシステムが今まさに出現しようとしています。
BIMテクノロジーは建設プロジェクトの管理、設計、開発方法を根底から覆す促進剤になる可能性があります。様ざまな異なったレベルのプログラミングがBIMによって可能になります。4D*および5D BIM*がその代表例です。
一般的な観点からすると、BIMは建設工程の情報をより正確にし、多数の関係者が重要なプロジェクト情報を交換することを可能にしています。今後のBIMの更なる進化によって、建設プロジェクトの生産性、安全性と費用対効果の上昇が見込まれています。
BIMがオープンかつ高度な共有環境のもと、プロジェクト開発の詳細を関係者に伝えることを可能とし、建設業界に変革をもたらすことになるのは明らかです。
*BIMはBuilding Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略称。コンピュータ上に作成した3次元の建物のデジタルモデルに、コスト、仕上げ、管理情報などの属性データを追加したデータベースを用い、建築の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行うためのソリューション。また、それにより変化する建築の新しいワークフロー。
*4D BIMは従来の3D BIMに時間軸を追加したもの。5Dはさらにコスト軸を追加したもの。
4.プレハブ化、モジュール化、そして環境への配慮の増大
「Multi-Trade Prefabrication (MTP)」がトレンドになってきています。これに取り組んでいるのが「Multi Trade Prefabrication Conference」で、プレハブ化を推進する建設会社が増加したため開催された初めての会議です。
ドバイでは、3Dプリンターを用いてオフィスビルが17日間で制作され、その現場の組み立て作業をたった2日間で完了した、という驚くべき事例がありました。
建設業界の専門家は、このような工法のコストと作業時間が最早法外なものではなくなっているため、今後もこれらの工法が成長していくと見込んでいます。もちろん、すべての問題がなくなったわけではありませんが、業界の進化に役立つ方法と認識されています。
もう1つのトレンドがオフサイト建設(モジュール化)です。これから数年で、プレハブ化同様に人気が高まっていくでしょう。特に、モジュール化戦略は革新的な建設会社が実行しています。これらの会社では現場での建設作業を完了する前に、現場以外の場所で可能な限り、規格化された組み立て作業を行います。この規格化により、コストと時間を削減することが可能となります。モジュール化のメリットは以下の3つです。
・工場で建設作業を行うため、余った材料を再利用することができ、環境に優しい工法である。大量の廃棄物を度々埋め立てする必要のある現在の伝統的な建設工法に比べて、環境的にはるかに優れている。
・プレハブ化により原材料の大量購入が可能になり、購入価格の割引が可能になる。また、工程にかかる時間が節約されることで、大幅なコスト削減が可能。
・全ての作業が工場で管理された環境で行われるため、湿気や汚れなど通常伴うリスクが減少。さらに、建設作業員はもちろん、ひいてはテナントも天候による健康被害を受けずにすむ
5.自己修復型コンクリート
多くの建設業界の専門家が、今後、自己修復型コンクリートを使用した道路やビル、住宅の建設が始まると予測しています。コンクリートは建設産業で最も広く生産、消費されている原料であり、中国やインドの急速な経済発展などによって、2030年までに1年あたり50億トンものコンクリートが使用されていくと考えられています。
アメリカはすでにこれらの地域の炭酸ガス排出量の8%を埋め合わせしており、将来さらに増加すると予想されます。
6.ドローン
現在すでに、多くの建設現場で時間削減のため、ドローンが利用されています。
例えば、測量士は、元来数週間から数カ月かけていた作業を数分で完了することができます。ドローンの急速な技術改良によって、人手の必要な作業が減り、コストの削減も実現しています。この改良から過去に比べ、ドローンの採用に積極的な建設会社がますます増えてきているのです。
7.ロボット工学
医療業界はすでに多額の資金をこのロボット工学に投資していると言われています。ロボットの細やかさと正確さの向上に伴い、建設業界でも重要な役割を担うようになるでしょう。
はじめは、高額な費用がロボット工学に必要であることは事実ではありますが、少なくとも注意を払っておく価値はあるでしょう。最終的にはレンガを並べるなどの労働をロボットが代わりに行うことになり、現在人間が行っている建築作業のほとんどをロボットが遂行する日が訪れるかもしれません。
8.クラウドとモバイルテクノロジー
数年前までは、クラウドオペレーティングシステムを知らない、もしくは説明できない人が大半でしたが、今日ではそんな状況も変わってきています。実際、ほとんどのモバイル機器はいつどこででもクラウドを利用することができます。
クラウドの最大の利点は、ほぼ無制限の情報を保存でき、ボタン1つで即座に共有する事が可能であることでしょう。そして、従来の十分の一のコストでこれを実現しているのです。クラウドを利用したシステムは、インターネット環境下であればどこでもアクセスできるので、将来建設業界で生き残っていくためには不可欠なテクノロジーになっていくでしょう。
9.GPSの活用
GPSは決して新しい技術ではないものの、現在以下のような新しい使われ方をされています。
・測量士の従来の装備が不要となり、測量が画期的に進歩している。
・将来的に利用すると考えられる土地の情報を迅速かつ正確に集められる。
・車両にGPSを搭載しておくことにより、プロジェクトマネージャーが車両の所在地をコンピュータやスマホで追跡できる。
・ピンポイントの地図を作って、紛失または盗難に遭った装置を発見することも容易。
今日、多くの建設業界の人間が、GPSテクノロジーの進化の行き着く先が見えないと感じています。自動運転の車両やウェアラブルテクノロジーが増えるだけではなく、無人の車両も現れることになるでしょう。
これらの技術は配車アプリの業界だけでなく、建設業界でも利用されるようになります。実際、2020年あたりには一般の人びとの間でも利用されるようになるかもしれません。
自動運転のバス、電車、そしてトラックが走るようになり、建設車両もそう遅れをとりません。現場をより効率化するため、自動運転車両の開発に取り組む多くのプロがいます。
例えばCaterpillar社やJohn Deree社は自動でブレードをコントロールできるブルドーザーの開発に取り組んでおり、いつか完全自動化された重機が製造されることも期待できます。
また、GPSを搭載した、高品位鉱石を運ぶ日本のコマツ社の重機もあります。このように自動運転車両の数はますます増えつつあります。GPSを活用したセンサーで事故を防ぐ機能を持つ車両も登場することでしょう。
10.ウェアラブルテクノロジー
3Dメガネやグーグルグラスなどのウェアラブルテクノロジーが、建設に携わる人びとの安全に役立つ新たなトレンドになりつつあることも見逃せません。
ウェアラブルテクノロジーを使って、作業員はお互いに確認し合うことができるので、ずっと指示書に目を落とす必要はなくなります。さらに、万が一事故が起こってしまった時も、どこに作業員がいるのかを簡単に追跡することができます。将来、この技術を活用することが義務付けられるようになる可能性があるでしょう。
まとめ
確実に、2019年は建設業界が新たな時代に突入する年になるでしょう。この業界に、共同作業とリアルタイムコミュニケーションに重点を置くデータ駆動型の領域が現れる時代は、すぐそこまで来ています。
その時ようやく、建設関係者はより高い生産性を得られるとともに、厄介なプロジェクトの遅延から解放される日が来るでしょう。