- 造成工事では運搬効率がコストに大きく影響し、予算の超過や計画の遅れが頻繁に発生している。
- TraceAir社は上記の課題を解決するためにドローンとAIを組み合わせた安価で正確な測量支援サービスをSaaSとして提供している。
- 同社は将来建設工事全体の自動化に向け、データを効率的に活用する方法を模索している。
はじめに
今回ご紹介するTraceAir Technologies(トレースエアー テクノロジーズ、以下TraceAir社)は、建設現場の空撮と画像解析による測量支援サービスを提供している会社です。
TraceAir社の調べによると、建設作業時間の35%はデータの収集や計画の修正などに費やされており、またデータへのアクセス権を持つ作業者は全体の10%に満たないといいます。こうした要因によって作業者は経験や勘に頼った作業をせざるを得ない状況となり、計画の遅れや予算の超過が発生しています。
TraceAir社はこの問題を、ドローンとSaaS(Software as a Service:サービスとしてのソフトウェア)を組み合わせた活用した測量支援サービスによって解決しています。どのような製品なのでしょうか?早速確認していきましょう。
測量支援 TraceAirとは?
TraceAir社は2015年にアメリカ合衆国カリフォルニア州に創業されたスタートアップ企業で、これまでに350万ドル(約3億7500万円)の資金調達を実施しています。
同社の株主であるIndependent Construction Company(インディペンデント コンストラクション カンパニー)は、アメリカ合衆国の造成工事事業者最大手の一つで、TraceAir社の測量支援サービスは主に造成工事における土砂の切土や盛土、土砂運搬作業を効率化する目的で活用されています。
造成工事にかかる費用は1㎥あたり約1ドルから2ドル(107円~214円)で、運搬の効率性が費用に大きく影響します。例えばプロジェクト全体で発生する残土が100万㎥で、その10%に当たる10万㎥が最適でない方法で搬出される場合、約10万ドル(1070万円)の余計な費用が発生することになります。
TraceAir社のサービスは次の2つに集約されます。まず1つ目にドローンによる空撮と画像解析、そして2つ目に解析したデータをクラウド上で共有し活用するSaaSです。これらのサービスを組み合わせ、安くかつ正確な地図データを作業者全員に共有することで、造成工事における計画の遅れやミスを早期に発見し、余分なコストを最小限に抑えることができるのです。
実際に同社の測量支援サービスはすでにアメリカ合衆国の土木工事事業者トップ20社のうちの3社に提供されており、数十億ドルの費用削減に成功しているといいます。
ドローンによる空撮と画像解析
同社の測量では、作業時に同社のオペレーターがドローンを操縦し、上空から現場全体を撮影します。
これまでの空撮に比べ早く正確にデータを提供でき、また価格が低いことが特徴です。それまで空撮による測量では1回の測量作業で約15000ドル(160万円)の費用がかかっていましたが、同社のドローン空撮はその1/10である約1500ドル(16万円)で作業を実施することができるといいます。
空撮された画像はAIが解析し、土地の形状や高低差が明確に認識できるよう、三次元データ、DWG(オートデスク社のCADソフトウェア標準ファイル形式)、あるいはPDFとしてクラウド上に保存されます。精度は3cm以下で、通常1回の空撮からデータの出力まで24時間以内に完結するといいます。
機械学習による最適なプロジェクトマネジメント
こうして撮影された画像は、同社のSaaS上でさらに効率的に活用することができます。
同製品では、PCやタブレット等の端末上で空撮した画像と計画図面を重ね合わせることができ、進捗状況が簡単に把握できるようになっています。また1日の作業工程の設定や、区画ごとの責任者の割り当て、作業にかかるコストや時間が算出でき、効率的な作業の実施が可能となります。
さらに同製品には、機械学習によって作業量を最小限に抑えながら土砂の搬出量を最大限にする作業工程を提案する機能が備えられています。現場作業者は現場に関する最新の情報や計画を正確に把握して作業を実施できるため、計画の大幅な遅延やコストの増大を最小限に抑えることができるのです。
作業者との情報格差を無くす
同社の製品は全ての作業者が簡単に情報を獲得し活用できるよう最大限配慮されており、オフィスの作業管理者から現場の作業者に至るまでの全ての関係者がモニタリング、進捗確認、コストや作業時間の予測情報に簡単にアクセスできるようになっています。
作業に関する詳細な情報は、これまで専門の技術者のみが把握しており、一般の作業従事者がアクセスできるものではありませんでした。これによって作業者は自分の経験や勘に頼って作業を進めざるを得ず、計画外のコストや遅延が発生していました。こうした情報格差を改善することで、より効率的な作業実施が可能となるのです。
まとめ
これまで当サイトでご紹介してきたように、建設重機の自動運転は普及の過程にあり、自動運転を支えるデータ基盤が今後ますます重要になっていくと予想されます。
TraceAir社はドローンによる効率化を、将来の建設作業全体の自動化に向けた第一歩と位置づけており、測量支援サービスによってデータを効率的に活用する事例を増やすことを通じて、将来は自動化できる領域を増やしていくとしています。
労働者不足の解消や生産性の向上といった課題を解決するためにも、建設工事の自動化は今後も進んでいくと言えるでしょう。同社の今後の展開が期待されます。