- 約70%の建設プロジェクトで、実際の工事費と着工前の見積が10%以上乖離しており、効率的で正確な見積手法が求められている
- アメリカ合衆国の1build(ワン ビルド)は、競争入札に使用可能な精度の工事費見積を最短48時間以内に完了するサービスを提供している
- アメリカ合衆国では建設プロジェクトの価格競争激化により、工事費見積を専業とする事業者が増加している
はじめに
総合建設業者(以下ゼネコン)が建設プロジェクトを獲得するためには、工事費について正確な見積を作成し、顧客とゼネコンの双方が納得できる価格を提示する必要があります。
例えば入札などの方法により建設プロジェクトの契約を獲得する場合、ゼネコンは他社より低い工事価格を提示しなければなりませんが、損失発生を回避するためにより正確な算定を行おうとすれば、さらに多くのコストがかかってしまいます。こうしたトレードオフが見積担当者の悩みの種となっていました。
全世界では約70%の建設プロジェクトで、実際の工事費と着工前の見積が10%以上乖離しているとする調査結果があり、建設プロジェクトの初期段階で適正価格を把握することがいかに難しいかということが分かります。
今回ご紹介する1build(ワン ビルド)は、こうした見積作業をゼネコンに代わって引き受け、最短48時間以内に正確な見積を提供している企業です。どのような方法で早く正確な算定を行なっているのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
1buildとは?
1build(ワン ビルド)は2019年アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコにて創業されたスタートアップです。2020年5月には、ベンチャー向けの投資を専門としているY combinator(ワイ コンビネーター)から150万ドル(約1600万円)の資金調達を実施しています。
正確な工事費見積には高いコスト
1buildはゼネコンを顧客として、競争入札に必要な正確性の高い工事費見積を最短48時間以内に完了するサービスを提供しています。
アメリカ合衆国では建設プロジェクトの適切な工事価格を設定するため、多くのゼネコンが見積担当者を社内に雇用しており、設計図や企画書の作成、現地調査等を何度も繰り返し、工事費の見積を作成します。
この工事費見積の水準は、米国専門家推定学会(ASPE)によってレベル1からレベル5の5段階で定義されており、特にレベル5にあたる見積は、プロジェクトの全ての価格情報が反映された、競争入札や契約にも使用可能な見積であるとされます。
競争入札に参加するためにはレベル5の見積が必要になりますが、算定項目が膨大になり、大規模なプロジェクトでは通常4~6週間の見積期間が設けられています。また見積を作成し入札を行なっても契約に結び付くとは限りません。そのため、ゼネコンにとって見積のコスト抑制は頭の痛い課題となっていました。
1build社は見積の専業者として見積コストを抑制
1buildはゼネコンに代わってこの見積作成作業を担います。まずゼネコンから設計図、企画書、現地情報についてPDF等の記録媒体で受け取り、1build社のシステム上で算定を開始します。
同社の開発したシステムはAIや機械学習を用いて過去の設計実績から必要な部品や人件費を類推し、さらに施工や部品等を取り扱う関連企業の最新の価格情報を反映して、部品においてはボルトやナットの本数まで、人件費については一人単位でプロジェクトの工事費を算定します。
こうして相談を受けてから最短48時間以内に、顧客であるゼネコンはレベル5の見積をPDFまたはエクセルにて受け取ることができるのです。
1buildの顧客であるMillcreek Builders(ミルクリーク総合建設事務所)は、1buildへ見積を完全に委託することで、これまでの15倍の競争入札に参加することができるようになり、これまで以上に多くの建設プロジェクトで契約を成立させていると言います。
アメリカで需要増す見積事業者
建設プロジェクトを巡る価格競争は厳しさを増しています。1buildの調べによると、アメリカ合衆国の競争入札では契約獲得の確率はおよそ19%で、6件の入札を行なっても5件は契約に至っていないということになります。
ゼネコンにとって、適切な価格を下回る価格を提示して損失を被ることを回避するためにも、建物の建設コストや改装コストを企画段階で把握することは非常に重要であり、見積を専業とする企業へと見積を発注するという事例が増加しているのです。
その証拠に、アメリカ合衆国労働統計局(BLS)は2018年時点で21万7400人であった見積専業者数は、今後10年間で9%(およそ2万人)増加すると予想しています。このように、見積作業効率化とコスト削減への圧力の増加から、今後工事費の推計を行う見積の専門家の重要性は増していくと言えるでしょう。
まとめ
本記事では、アメリカ合衆国で建設プロジェクトに対する価格競争が激しさを増していることを受けて、ゼネコンが見積作業を外部の見積業者へと委託している事例が増加していることや、その中でも1buildはAIと機械学習を組み合わせたシステムを用いて、競争入札にも使用可能な水準の正確な見積を最短48時間以内に提供していることをご紹介しました。
建設プロジェクトの価格競争が強まっていることから、競争入札の管理システムなどの周辺分野でも新規事業が増加しており、当サイトで以前ご紹介したBuilding Connected(ビルディング コネクテッド社)のように、建設プロジェクトの入札調達を管理するサービスを提供する会社なども現れています。このように工事費見積をめぐる競争は今後ますます激しくなることが予想されますが、1buildのサービスはまさに時勢を捉えたものだと言えるでしょう。同社の今後の展開が注目されます。