- 鉱業や建設業界は、労働条件の悪さなどから労働力不足が慢性化している。
- SafeAIは建設・鉱業の重機向けの自動運転技術を開発している。
- 測量や製図技術のデジタル化と高精度化を背景に、自動運転・自動施工の実現に向けて各国で業界各社による技術革新が進んでいる。
はじめに
SafeAI(セーフ エーアイ)はアメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼに拠点を置くスタートアップです。同社は鉱業や建設業で用いる建機の自動運転技術を開発しており、2017年の創業以来5百万ドル(約5億5000万円)を調達しています。
自動運転の建設重機としてはBUILT ROBOTICSなどのスタートアップが名乗りを上げています。重機向けの自動運転プラットフォームということで1つの標準プラットフォームで複数の機器を操縦可能できるようになることにメリットがあるようです。
この記事ではSafeAIの自動運転技術とはどのようなものなのか、また国内での建設×自動運転技術はどのような状況なのかについて迫っていきます。
自動運転建設重機のSafeAIとは
SafeAIは鉱業と建設業に使用される建機の自動運転技術を開発しています。韓国の大手建機メーカーのDoosan Bobcatと提携して自動運転の研究開発を行なっており、現在スキッドステアローダー及び油圧シャベルについて実機を用いた実証実験を進めています。
同社は「特定区域内で自律して運転・施工ができる」とされるSAE Level4(自動運転技術レベル4)の自動運転技術を搭載した建機の商用化を目指しています。研究開発中であり技術詳細は明らかにされていませんが、GPSやCAD、実機搭載のセンサー等を利用し、無人で施工計画に沿って掘削や整地、運搬などを行うことが可能な建機であることが予想されます。
また、モジュール型でカスタマイズ可能な設計を行い、どのメーカーの建機でも自動運転化できる製品を開発しており、将来的にはあらゆる建機を自動運転化し、どの工程においても自動運転建機だけで仕事を遂行できるようにすることを目指しています。
同社CEOのBibhrajit Halderは建機メーカー最大手のCaterpillar Inc(キャタピラー社)で鉱山向け無人ダンプトラックのセンシング技術(周辺環境を認識し、自動車を安全に運行させる技術)の開発を担当していました。これまでのインタビューの中で、ハードウェアのコスト低下や自動運転技術の進歩により同業界への参入障壁が以前に比べて低くなったことから、技術開発の経験を生かして自動運転建機の開発事業に参入したということを明らかにしています。
製造業においては様々な場面でロボットが利用されていますが、自動化技術の高まりにより、その応用範囲は広がりつつあります。こうした自動運転技術を様々な産業に応用していく潮流は “Autonomy2.0” と呼ばれています。
自動運転技術の進歩に伴うステークホルダーの変化
日本のコマツやアメリカのキャタピラー社などの大手建機メーカーは、早くから建機の自動運転を導入しています。決まったルートを行き来する鉱山の運搬用ダンプトラックの自動運転技術は2008年頃からすでに商用化されており、各企業で自動運転技術開発力が蓄積されてきました。こうした中で、SafeAIの製品のように、高い自動運転レベルを駆使し、自律して工事作業を担う自動運転建機が登場するようになりました。
例えばコマツの提供する「スマートコントラクション」では、建設作業における測量から設計、施工、検査までの全ての工程をデータ化し、クラウド上で管理します。
こうしたプラットフォームを構築することにより、建設作業全体で大幅な効率化を達成できると同時に、他社製品に対して圧倒的な優位性を持つことができるのです。建機を巡っても同様に自動運転やAI、IoT技術などの新しい技術を応用した製品が次々と生まれつつあり、各社は技術的プラットフォームの構築にしのぎを削っています。
Halder氏は自動運転技術の進歩について、「十年の研究開発がかかっていた分野が一年で実現できるようになった」と言及しています。シード期であるため今後の展開については不透明な部分はありますが、自動運転のプラットフォームを標榜するSafeAIが今後建設現場の景色を一気に変えていく可能性も十分にあります。
建設業界と自動運転を取り巻く国内の情勢
日本では建設業界の自動運転技術の動向はどのようになっているのでしょうか。日本の大手メーカー各社や大学発ベンチャー行われている取り組みについて簡単にご紹介します。
前述のコマツは、「SMART CONSTRUCTION」というデジタルプラットフォームを開発しています。このプラットフォーム上では建設現場の様々な工程がデータとして管理され、各工程を担当する施工者や建設機材はこのデータを活用・あるいは収集して作業を行います。こうしたデータの活用によって、自動運転・自動施工を実現し、建設作業を効率化することを目指しています。
上図はコマツが提供する鉱山向けの無人ダンプトラックです。コマツは2008年という早期から自動運転に取り組み、こうした経験を「SMART CONSTRUCTION」の開発に生かしています。
続いてご紹介する鹿島建設は、2017年に自社開発の自動運転技術、A4CSEL(クワッドアクセル)が搭載された振動ローラー及びブルドーザーをダムの建設に使用したという実績があります。同社は、JAXAの有人月面基地建設プロジェクトにおいて、自動運転の建機を活用することを目指しており、2019年3月にはその実証実験が行われています。
さらにはAI技術を建機の自動化に応用させる動きもあります。2018年、ゼネコンのフジタと東大の松尾研究所はディープラーニングを用いて油圧ショベルに採掘作業を実施させることに成功したと発表しました。実証実験では、画像認識技術によって建機アームの関節の動きを認識させ、無人の油圧ショベルに同様の動きをさせることによって、縦型の溝を掘らせることに成功したと言います。将来的には自立的に作業を行うことができる技術の開発を目指しているということです。
まとめ
SafeAIの研究開発がわずか1年で実用化に向けて動き出していることは驚きです。今後もAI技術やIoTに強みを持つスタートアップが建設業界の「ゲームチェンジ」を起こしていくと予想されます。
日本の建機メーカーにおいても、自動運転やAIをはじめとして、新しい技術を用いた建機が多数登場しています。こうした技術革新が、労働者不足の解消や生産性の向上といった課題に対してどれほど貢献していくことができるのでしょうか。今後の展開が期待されます。